深大寺散歩 北原白秋の巻
2022.09.13 05:24
北原白秋に「深大寺の九月」という歌があります。昭和15年刊行の『黒檜』より。
昭和13年(1938年)9月17日、北原白秋は深大寺を探勝。
以下6首を現在の場所の写真とともに店主が紹介します。
深大寺水多(さは)ならし我が聴くに早や涼しかる滝の音ひびく
白秋は深大寺小学校の方から歩いて来たとのことですので、詠んだ瀧は不動堂のものと思われます。この画像は山門脇の瀧です。
むくろじの実のまだあをき庫裏の前もの申すこゑの我はありつつ
旧庫裡は記憶にあります。藤の季節には庫裡の屋根越しに見事な藤の花を見ることができました。
青い実のムクロジは子供の遊びには余り使われることはなく、女の子達がこの実を山門下の水路で石鹸代わりにして遊んでいました。私も真似してやってみましたが泡の出ないどうしようもない代物だったと記憶してます。
深大寺の池、水澄みたらし下照りて紫金の鯉の影行く見れば
本堂脇の五大尊の池の鯉だと思います。この画像は釈迦堂前庭の池です。かって五大尊の池で行なわれた「雨乞い」の行事は、神代植物公園開園前の昭和35年頃が最後になり、この最後の雨乞いの様子を実際に目撃しました。まだ小学生でした。
御厨子には倚像の仏坐しまして秋さなかなり響くせせらぎ
ご存じ白鳳仏です。当時は現在のように釈迦堂がありませんでした。本堂内の脇の御厨子に納められ、拝観者はあらかじめ庫裡で申し込んでから、僧侶の案内で拝観しました。
昭和38年ごろ、写真家の土門拳が女優吉永小百合をこの仏像に添わせて撮っています。
はてしらぬ仏の笑まひ面あかる灯映りにしてみ掌の欠けたる
御厨子の白鳳仏の拝観は、開扉の前に僧侶が読経をしてのち灯明をかざして見る、というものでした。厳かな拝観の形がかってはあったんですね。
ここの山我が聴く方ゆ日照雨して庫裏戸に濡るる秋海棠の花
日照雨「そばえ」と読む。お天気雨のことで、日が照っているのに降る雨のこと。
私が知る旧庫裡の中で思い出深いのは、板の間に炉を切ったような形の湧水がこんこんと湧き出る水場があって、子供心に不思議な思いで見ていました。