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Rainbow project

☆No.9 水色の蝶☆

2018.07.04 10:40


私は社会人1年目でまず映像関係の仕事に就き、

夏頃から転職して、

派遣社員として

ある外資系の会社に勤めていました。



外資系といっても

実際に私の就かせてもらったチームの仕事は

作業的な事が中心で、

ある製品の箱を開梱し、

保証書や説明書、

付属品といった中身を詰めて

完成品を作るといった仕事でした。



実際に組み込むチームには

私以外に3人の女性の方がいて、

横一列で机が並んであり、

私は4人の右から2番目の席。

左側の2人は本当にベテランの方で、

基本的にその2人に仕事のやり方を教わりました。



そして私の右隣には、水色のシャツを着た

Sさんという元気の良いおばちゃんが座っていました。

Sさんも私と同じ派遣社員の方のようで、

「定年後も働きたくて

仕事をしているのかな?偉いな…」

と感じていましたが、

本当に元気の良い感じの方で、

てきぱき仕事をこなせる方でした。



■  ■   ■  ■

べ  ベ        私  S


並び方的にはこんな感じです。

基本的にはベテランの方にやり方を教わるのですが、

私の右隣で作業をしていたSさんは

私の仕事をとてもよく見てくれていました。




「それは後でまた付属品入れたりするんだから

箱を閉じなくていいのよ」


「それはまずこっちをやらないと(笑)」


…正直、いちいち私の動きにツッコミを入れてきて

お節介な方だなぁと初めは思っていました。




でも、決してSさんは嫌味っぽい事は言わず、

本当に助かるアドバイスを的確にしてくれていました。



そしていつも助言の最後に言う言葉がありました。


「その方が楽でしょ?」




―2週間ほどで仕事にも慣れ、

だんだんとSさんからのツッコミがなくなっていきました。

それは少し寂しいような気もしていました。


お昼ご飯は外に食べに行っていたのですが、

ビルの周りに木が生えていて

綺麗な水色の蝶がいつも飛び回っていました。

夏の暑い中、元気に飛び交っていた姿。

どこか印象的でした。




ある日の朝、自席につこうとすると

既にSさんが隣に座っていました。


「おはようございます、もう慣れた?」

「いやぁーどうなんですかね(笑)」

「でもスピード速いもんね、大丈夫よ」

「Sさんが色々教えてくださるおかげですよ!」


私はいつも色々アドバイスをくれて助かったこと、

そしてそのおかげでスムーズに仕事に慣れたことをお礼しました。




いつからか私はSさんを本当に信頼し、

尊敬する先輩として見ていました。

そしてSさんも私のことをよく見てくれていました。



ある時、上司から

「チームの中で誰かやっておいて」と頼まれた仕事があって、

私がそれを引き受けました。



みんなそれぞれ忙しいもんね、

と思いながら一人で黙々とやっていたら、

Sさんが来てくれて手伝ってくれました。



またある時は、いつもと違う作業を任されて

とても大変だったこともあります。

「終わる気がしないよ~!」と言っていた私が、

なんとかその日のうちに仕事を終えました。


その時Sさんが

「良かったね」と右から囁くように

声をかけてくれました。


Sさん自身も自分の作業をしていたのに、

私の言葉を

ちゃんと聞いてくれていたんだと感じました。




私が作業を間違えて、

ベテランの方に注意された時も

Sさんはわざと知らんぷりをして、

聞いてないかのように普通に接してくれていました。



分からない事は何でも教えてくれて、

本当にSさんが右隣にいるから大丈夫と

思っていました。

社内でも水色のシャツを着た彼女の姿が見えると

安心したものです。




ある時、

ベテランの方がいつもやっている作業を

私が一人でやってしまいました。


いつも見ていたので

やり方は何となく分かっていたし、

私も少し手伝った事があったので、

「そろそろ慣れてきたし

私一人でもできるでしょ!」と思ってしまったのです。



転職前に勤めていた会社では

「自分から率先して動いて!」と

言われていたのが染みついていました。



役に立ちたいという気持ちから

仕事を積極的にやらなければと

自分で意識していたのもあり、



もっと言えば、

「やっておいてくれたの?ありがとうー!」と

褒められたかったのだと思います。



「一人でやらないで、声をかけてください」

とベテランの方に言われました。



今思えばたしかに身勝手な行動だったと思います。

調子乗ってすみません!って感じです。

でも、その時は

「私ってまだ信頼されていないんだ…」

とひどく落ち込みました。




すかさずSさんが言いました。


「そうそう、一人でやるより

みんなでやったほうが早いからね♪」




…衝撃的な一言でした。

もちろん気を遣って言ってくれたのだと思いますが、

同じ言葉でも、

そういう意味で捉えれば、確かにそうだなと。

もしその一言がなければ、

ただ落ち込んでいただけかもしれない。


Sさんのポジティブな所に何度も救われた気がします。





それから数か月して、冬になると

私はやりたい事が変わり

また再び新しいお仕事で頑張ることを決めました。



最後の日、皆さんにお礼と挨拶をしました。

まずは左のベテランのお2人に。


そして、右隣のSさんに。

「これからも頑張ってください」と伝えると、

「いやぁ大丈夫かしら」と。



…初めてSさんの弱気な発言を聞いた気がします。

私は「Sさんなら出来ますよ!」と言いました。



―ドラマチックかもしれませんが、

実際辞める人間が

無責任な事を言っただけです。



それでも私に出来る最大の恩返しは、

Sさんを応援することだけでした。

「元気でね」と言ってくれました。


名残惜しかったですが、最後まで皆さんが優しい職場で働けて

本当にありがたい気持ちでした。



もう、その頃には

いつもいた水色の蝶を見ることが

なくなっていました。




そこにいると、どこか安心する存在。

そんな人と出会えて、

私は本当に恵まれていたんだなと感じます。





ネガティブな私にとって、

Sさんのポジティブ思考には本当に救われました。(笑)