憲法のお勉強 第12日
第三章 国民の権利と義務
1 人権宣言の歴史
※人権の観念の変化
①国民権から人権へ
②自由権から社会権へ
③法律による保障から憲法による保障(法律から保障)へ
④国内的保障から国際的保障へ
① 国民権から人権へ
(1)人権宣言の始まり
※人権思想が歴史上、最も早くデビューしたのがイギリスである。
☆マグナ・カルタ【大憲章】(1215)
⇒ラニーミードにおいて1215年6月15日に制定。
※すべての条文はその後廃止されたが前文は廃止されずに現行法として残っており、現在でもイギリスにおいて憲法を構成する法典の一つとする。
☆権利請願(1628年)
※当時のイングランドの議会から国王チャールズ1世に対して出された請願である。
⇒大憲章・権利章典とともにイギリス国家における基本法として位置づけられている。
☆権利章典(1689)
※イギリスの不文憲法の法典である。
⇒法典は現在も有効であり、イギリスでは憲法同等の根本法となっている
(これのためにイギリスには成文憲法は存在しない)
※イギリス国王
「君臨すれども統治せず」の原則に従う立憲君主であることが確定した。
※上記文書で宣言された権利(自由)は、『イギリス人』が歴史的にもっていた権利である。
⇒人間が生まれながらにもつ「人権」というよりも、イギリス人の『国民権(臣民権)』に過ぎなかった。
※封建的な国民権であったといえるのである。
※『国民権(臣民権)』のようなドメスティックな権利が、近代的(個人的)「人権」へ脱皮するのをロック・ルソー・モンテスキュー等が手伝ったことになる。
⇒彼らの説いた自然権の思想(社会契約説)の基礎付けがあった。
※封建的『国民権』 → 近代的「人権」に成長できたといえる。
【参考】
※自然権の思想と社会契約説
(a)自由権の思想
※基本的人権の一つであり、国家から制約ないし強制されずに、自由に物事を考え、自由に行動できる権利のことをいう。
⇒古くはイギリス権利章典・アメリカ独立宣言・フランス人権宣言で謳われ、今日まで続く歴史を持つ。
※内容は人間の自由のすべてに及ぶゆえ、その一覧を作ることはまず不可能。
⇒自由権は、人権の中でも特に重要な人権とされた。
※日本国憲法における自由権
※内容は経済的自由権、精神的自由権、人身の自由に大別することができる。
①精神的自由権
⇒思想・良心の自由や信教の自由、表現の自由、学問の自由などが含まれる。
②経済的自由権
⇒職業選択の自由や営業の自由、財産権の保障が含まれる。
③人身の自由
⇒奴隷的拘束の禁止や不当逮捕などの禁止による被疑者・被告人の人権保障(罪刑法定主義・適正手続)などからなる。
(b)社会契約説
※17―18世紀のヨーロッパで展開された自然法的合理主義に基づく社会理論。
(イギリス・フランスで、ホッブズ・ロック・ルソーらによって主張された。)
⇒契約という概念は中世ヨーロッパですでに存在していたが,中世においてはレーンと呼ばれる期限付きで授与される財貨を意味し,封建領主からその臣下に勤務と誠実を果たすという契約によって与えられていた。
※この観念が政治的共同体である国家の建設に理論的に適用されている。
※これには2つの種類の契約が存在している。
①「本来自由で独立した人民が将来彼らを支配するであろう者と取り交わす」
という統治契約である。
②「社会的に独立した存在の人間の結合,あるいは社会の統一を行うために結ぶ」
という社会契約である。
※統治契約は宗数的な契約とつながりをもっていたが,自然法思想の発展により社会契約論が発展していったことになる。
⇒理論の前提には「個人の確立」という意味があり、平等な個人間の自由意志に基づく契約によって人間は自然状態から脱して国家を設立する。
※要するに、平等な個人間の契約によって社会は成立すると主張したいうことになる。
1 ホッブズ 「リヴァイアサン」 万人の万人に対する闘争
⇒絶対君主制
2 ロック 「市民政府ニ論」 自由・平等で一応平和な状態
⇒人民が立法権を中心とした政府に信託する体制、抵抗権も承認された。
3 ルソー 「社会契約論」 自由で平等で平和な理想的状態
⇒人民の主権により、主体の意志である一般意志に従う(直接民主政)
(2)人権宣言の誕生
※「人権」の観念は、18世紀末のアメリカとフランスにおける近代市民革命の結果として、開花している。
(a)アメリカ
※アメリカ諸州憲法で、社会契約説の影響の下、人権宣言の規定が芽生えてくる
(1776~1789年)。
⇒特徴は、人権を生来の前国家的な自然権として宣言&保障していることである。
【参考】
【バージニア憲法 1条】
(バージニア権利章典 ~ 1776年)
※すべての人は、生来ひとしく自由かつ独立しており、一定の生来の権利を有するものである。これらの権利は、人民が社会を組織するに当たり、いかなる契約によっても、その子孫からこれを奪うことのできないものである。
⇒かかる権利とは、すなわち財産を取得所有し、幸福と安寧とを追求獲得する手段を伴って、生命と自由とを享受する権利であるとする。
(b)フランス
※フランス人権宣言も、自然権思想を受けている。
【フランス人権宣言 1条】
※人間は、自由で、権利において平等なものとして出生し、かつ生存する。社会的差別は、共同の利益にもとづかないかぎり、もうけられることはできない。
(c)アメリカとフランスの異同
※アメリカ&フランスの人権宣言は、自然権思想(+社会契約説)に基づく点で共通している。しかし、異同(違い)もあり、以下2つに分け論じることになる。
(1)アメリカ人権宣言 → イギリス人の伝統的諸自由を自然法的に基礎付けた
フランス人権宣言 → 新たな綱領的性格をもつ人権を抽象的に描いた
(2)アメリカ人権宣言 → 人権=行政権+立法権も拘束する(自然権思想が強い)
フランス人権宣言 → 立法権優位
※フランス人権宣言「法律は一般意思の表明である。」
↓
「自然権」思想が相対化している → 「人権」は行政権の恣意を抑制する原理とする