Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

敬老の日というからには特集

2022.09.18 13:08

 こんにちは。

 明日は、台風……ではなく、敬老の日でございます。

 おじいちゃんおばあちゃんのみならず、皆さんできうる限り、家でのんびりしましょう。


 ここ最近はおばあちゃんブームというか、

 『メタモルフォーゼの縁側』『海が走るエンドロール』と立て続けに、おばあちゃんが若者と出会い、新たな扉を開く漫画が、有名漫画賞を受賞し、注目を集めました。

 いずれも「お年寄りに元気を与える」作品というよりは、「おばあちゃん」を自分たちの世界に巻き込みたい、巻き込まれてくれる「おばあちゃん」なら嬉しいという、若者のパワーがあり、多様化社会の一つの道筋として必然となるムーブメントのような気がします。

 小説ならいかがでしょう。

 このブログはいつものように3選で、じいちゃんばあちゃんの活躍する小説をご紹介したいと思います。




柚木麻子『マジカルグランマ』

 売れない脇役女優であった柏葉正子は、八十代にして日本を代表する大女優の紀子ねえちゃんに助言され、髪を真っ白にし、役を射止めるため、後期高齢者である七十五歳に年齢を偽り、世間にちやほやされる「可愛いおばあちゃん」として成功します。

 しかし、そんな冒頭、一章目の章タイトルは「正子、おおいに嫌われる」。

 好事家であった義父によって、市から文化財に指定されるような広大な屋敷を家とする正子ですが、この家から出たいと長年の野望を抱き続け、敷地内別居をする有名映画監督の夫とは四年も口をきいていません。そして夫は、正子が気付かないうちに別宅で死んでしまっていたのです。

 世間から同情が集まりますが、正子は本心のままあっけらかんと夫との関係についてインタビューに答えてしまい……。

 ということで、人気者から失墜した正子の自由で、斬新な活躍が描かれます。

 物語の中盤「マジカルグランマ」という言葉が出てきます。あらすじにあるように、ここでいうマジカル~とは「理想の」という意味を指します。白人に仕え、献身的に支えてくれる黒人のキャラクターを「マジカルニグロ」、優しくおせっかいで主人公の恋愛を手助けしてくれる女言葉の男性キャラクターを「マジカルゲイ」、そういった現代で批評される話題を知るうえで、自身が世間が求めるステレオタイプのおばあちゃん「マジカルグランマ」を演じていたことに気付きます。

 やがて、求めに応じるだけではない、自分の表現したいものを目指すことに正子は考え方を変えていくのです。

 グランマ、といいつつも、正子には孫がいません。孫らしい役割をもった相方、正子に新しい扉を開けるきっかけをくれる杏奈という人物はいますが(このあたりは『海を走る~』『メタモル』~に近いものを感じます)、「孫に尽くすおばあちゃん」とはならないあたりがこの物語の一貫性でもあります。実際、孫がいない理由はもう一つちゃんとあるのですけれど、そのあたりもうまいんですよね。

 批評的に考えさせられながらも楽しめる、すごく現代らしいおすすめの作品です。




筒井康隆『わたしのグランパ』

 次はグランパでございます。

 『涼宮ハルヒの憂鬱』でお馴染み、いとうのいぢさん×筒井康隆……なんだか危うい予感が頭をかすめたものでしたが、軽快で読みやすく、確かにかっこいいおじいちゃんの話です。

 約20年前のこと、石原さとみさんと菅原文太さんで映画化している作品でもあります。

 けれどもお察しの通り、ただかっこいいおじいちゃんの話、とは言えません。

 囹圄(れいご=牢屋、要するに刑務所)から出たおじいちゃんと初対面を果たし、一緒に暮らすことになる孫・珠子の目線で物語は進みます。珠子は以前いじめをうけていた子を助けたことによって、いじめの標的にされているのですが、まぁすごいおじいちゃんがいるわけなので、いじめは順次片づけられていくというわけです。

 確かに戯れとは片づけられないリアルないじめなんですが、さらっとされるおじいちゃんの対応がえぐい。決して「グロ」ではないので、その手の警戒は不要です。理不尽に対し、大人の倫理感をもっておさめにいくという感じで、それがまあ、いやいやいやいや、と笑ってしまうという感じで。

 さらさらと読めますが最後は驚いてしまいました。ブラックジョークに対するような気楽な気持ちで読むもよし、引っかかったところにずっと引っかかってもよし、でございます。




梨木香歩『西の魔女が死んだ』

 言わずとしれた名作ですが、ちょっとこの『西の魔女が死んだ』と『マジカルグランマ』をこの3選で並べられるというのは、すごく美しいシンメトリーという気が勝手にしています。勿論、どちらを否定するわけでもなく、もしかすると同じことを書いているのかもとすら思います。魔法と特別な家と理想のおばあちゃんについて。

 学校へ行きたくないと母に告げ、祖母の家でひと月あまり暮らすことになる中学一年生のまい。祖母は「外国のひと」だが、日本語を流暢に話し、家庭菜園をしたりジャムを作ったり静かで有意義な生活を一人でしています。

 祖母から自分たちが魔法を使える家系だと教わったまいは、さっそく手ほどきを受けることになりますが、促されるトレーニングはというと「早寝早起き。食事をしっかりとり、よく運動し、規則正しい生活をする」こと。最初がっかりするまいですが、祖母と生活していくなかで彼女の鬱屈がほぐされ、読んでいるこちらも身体の芯から綺麗になっていくような錯覚をするほど、心地よさに満たされていきます。

 しかし、タイトルは『西の魔女が死んだ』。

 言ってしまえば冒頭一文目から、祖母の死は避けようがないものとなり、本編は回想録になります。

 だいぶ昔に読んだ本のはずが、今読んでも、おばあちゃんの話や「魔法」という言葉の響きに胸が弾んでしまう。そして最後の、有名なあの台所のシーンは鮮明といえるほど記憶通りでした。

 先生(ポラン堂古書店主)といつか、誰が読んでも絶対に外れのないジュブナイルについて話したことがありましたが、森絵都『カラフル』と並んでいつも名前が挙がる傑作なのです。




 以上です

 無事、敬老の日特集の責務を全うできましたでしょうか。

 おじいちゃんおばあちゃん小説、というと可愛らしいですが、なかなかどの作品も刺激的です。

 教訓めいたものになりそうな主題でも、娯楽性で楽しく包み込み、それどころか昨今はその教訓めいたものを疑い、時に崩し、鋭い批評として読者に意識させているのです。

 あまり気にしてこなかったなという方、せっかくの敬老の日ですから、ぜひ手に取ってみてください。