臨床試験(1)
玉石混合となるリスク
ある病気やそれに対してすでに行われている診療実態をそのまま観察し、記述することは「観察研究」となります。
それに対して、研究者が意図的に「介入」を操作する場合が介入試験となります。
厚生労働省の臨床研究に関する倫理指針(1)によると、「介入」とは予防、診断、治療、看護ケア及びリハビリテーション等について、①、②を行うこととなっています。
① 通常の診療を超えた医療行為であり、かつ研究目的で行われるもの
② 通常の診療と同等であっても、参加者を2群以上に分けて、それぞれに異なる方法に作為的 あるいは無作為に割り付け、群間比較するもの
つまり、玉石混合となった予防、診断、治療、看護ケア及びリハビリテーション等の中から、研究者がこれまでの研究などから「玉=患者さんにとって役に立つもの」だと思うものを拾い上げることから、介入試験はスタートします。
臨床研究の中でも「介入試験」はとりわけ時間もお金、人手もかかります。
スッキリ・プロジェクトでいえば、過敏性腸症候群に対する集団認知行動療法がこの「玉かもしれない」ものに当たります。
過敏性腸症候群に対する認知行動療法は日本において、十分な有効性も安全性も保障されていないため、保険での診療が認められておらず、① 通常の診療を超えた医療行為となるからです。
とはいえ、幸いにすでに海外では研究がなされていて、過敏性腸症候群に対する認知行動療法は有効性が高く、有害事象が非常に少ないことが報告されています[2]。
このため本研究は「侵襲の低い介入研究」に分類されます。
逆に例え検査でも大きな有害事象が予測されるものは侵襲性が高いものとなります。
なぜ、こんな回りくどいことをするのか?
それは、研究者が参加者に対して提供しようとしている「介入」つまり「予防、診断、治療、看護ケア及びリハビリテーション等」が有効かつ安全だと考えているのがあくまで研究者の予想に過ぎないからです。(理由は臨床試験(2)で詳しく述べます。)
また、有効であっても、それを上回る有害事象が生じるならばそれは「医療」とは呼べません。
このため、できるだけ有効性が高く、そして有害事象が低いものを提供したいと研究者は考えています。
しかし、卓上の理論だけでは何も決めることができません。
もしかしたら、提供した「介入」によって、お金や時間の無駄になってしまうどころか、健康を害してしまうかもしないからです。
このように、玉石混合となった様々な「予防、診断、治療、看護ケア及びリハビリテーション等」の中から、玉だと思ったものを研究者が拾って、(少人数に対するパイロット研究などで)磨き上げ、そのうえで鑑定する作業が介入試験となります。
つまり、介入研究では結果が出るまでは、玉か石かわからないというのが前提となります。
だからこそ、研究という形式をとっているのだということをお伝えしてから参加していただくことが必要となります。
これが、インフォームド・コンセント(説明と同意)です。
この説明が不十分で、もしくは説明は理解したけれど自分が思っていたのと違うという場合はここで拒否する権利があります。
主治医と気まずくなったらどうしよう、それからしっかり診てもらえなくなるかもしれないと躊躇する必要はありません。
参加者には断る権利があり、それによって望まない研究参加をする必要がないことはきちんと倫理審査を受けた研究はどれも定めることになっているからです。
参加した臨床試験で「介入」に有効性がないことが判明する場合もある
つまり、せっかく参加した臨床試験の結果、提供されたものが玉ではなく石だったことが判明した場合は無駄足だったのでしょうか?
確かに、結果だけ見れば時間の無駄だったと思われるかもしれません。
でも、こう考えてみて欲しいのです。
もし、有効性がないままに、それが多くの人に提供されていたら、より多くの時間とお金を奪ってしまうことになっていたかもしれないのです。
特に、時間というのはどれだけお金を払おうと取り戻すことはできません。
詭弁に聞こえるかもしれませんが、臨床試験から得られる最も大きな利益の一つは、例えその結果が有効であってもなくても、将来、同じような病気で苦しむ人へ”時間の節約”というかけがえのない助けとなっています。
もし、自分のためだけではなく、誰かの役に立つのならと思って臨床試験に参加してくださる方がいればスッキリ・プロジェクトでは大歓迎させていただきます。
勿論、適格基準を満たした方が、インフォームド・コンセントで納得されてからの話にはなりますが。
いうまでもありませんが、これはあくまで参考にしていただくためにかみ砕いた文章になっています。臨床研究をきちんと学ぶには成書を参考にしてください。
臨床試験に関する成書の中でも、比較的読みやすいものとして
臨床試験の道標 7つのステップで学ぶ臨床研究などがあります。
http://www.i-hope.jp/activities/publication/index.html
修正 2020年3月19日
素材
写真 写真AC クリエイター:acworksさん
引用文献
[1]厚生労働省 臨床研究に関する倫理指針 http://www.mhlw.go.jp/general/seido/kousei/i-kenkyu/rinsyo/dl/shishin.pdf#search=%27%E5%8E%9A%E7%94%9F%E5%8A%B4%E5%83%8D%E7%9C%81+%E4%BB%8B%E5%85%A5%E8%A9%A6%E9%A8%93+%E6%8C%87%E9%87%9D%27
[2」Ford AC, Quigley EMM, Lacy BE, Lembo AJ, Saito YA, Schiller LR, et al. Effect of Antidepressants and Psychological Therapies, Including Hypnotherapy, in Irritable Bowel Syndrome: Systematic Review and Meta-Analysis. Am J Gastroenterol [Internet]. 2014;109(9):1350–65.