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粋なカエサル

ボルゲーゼ美術館の魅力②

2018.02.25 23:30

  これまで2度訪れたが、今年の夏もまた足を運びたいと思うのは、ベルニーニ初期の傑作「プロセルピナの略奪」と「アポロンとダフネ」に会いたいから。それを見るためだけにでもボルゲーゼ美術館は訪れる価値がある。

 まず「プロセルピナの略奪」。友達と花摘みに出かけ、誰よりもたくさん摘み取ろうと夢中になっていたプロセルピナ。キューピットに愛の矢を射られたプルト(冥界の王)が自分の妻にするため彼女を冥界に連れ去ろうとする。プロセルピナは、哀しげな声で必死に母や友達に助けを求める。その瞬間をとらえようとしたベルニーニの大胆な目論見とそれを見事に実現した驚くべき彫刻テクニック。プルトの指がプロセルピナの柔肌にくい込む表現のリアリティは、それが大理石だということを忘れさせ、見るものを恍惚とさせる。「私は大理石をあたかもロウであるかのように扱うという困難を克服してきた」と後に息子に語ったベルニーニ。永久不変のシンボルである大理石で、躍動的な物語のクライマックスを表現するという大胆な挑戦をものの見事に成功させたベルニーニ。

 その驚異的な想像力、大胆さ、超絶技巧は、「アポロンとダフネ」でさらに進化する。恋心を生む黄金の矢を射られたアポロは、相手を嫌う鉛の矢を受けたダフネを追いかける。必死に逃げるダフネだが、その力も限界に達し、川岸に達する。精根尽き果てたダフネは川の神である父ペネウスに懇願する。

「『お父様、あなたの流れに神通力があるものなら、どうかお助け下さい!みんなのこころを惑わしすぎるこの美しい姿を変えて、私を滅ぼしてください』 ダフネがこの切なる祈りを言い終わるやいなや、はげしい硬直が手足をおそった。と、見る見るうちに、柔らかい胸は、うすい樹皮につつまれ、髪の毛は、木の葉に変わり、腕は小枝となり、ついいましがたまであれほど速く走っていた足は、強靭な根となって地面に固着し、顔は梢に覆われた。」 (オウィディウス『変身物語』)

 この詩句をベルニーニはものの見事に視覚化した。「奇跡が起こったかのようにローマ中の人がそれを見に行った」(バルディヌッチ)のもうなずける。躍動感、浮遊感を生み出すベルニーニの華麗ともいえる超絶技巧。あまりの見事さ。どう表現していいか。イタリア人の最高の誉め言葉「ファンタジーア」しか思い浮かばない。

(「プロセルピナの略奪」)

(「プロセルピナの略奪」部分)これが大理石とは!

(「アポロンとダフネ」)

(「アポロンとダフネ」部分)軽やかな木の葉の表現。とても大理石とは思えない!