花と御使い
【詳細】
比率:性別不問2
ファンタジー
時間:約15分
【あらすじ】
夜のように暗い空と白い花だけが咲く花畑。
眠りから覚めたフィオは今まで自分がいた場所とは全く違う場所にいた。
ここが何処だかわからず混乱していると空から一人の『人』が下りてきた。
「ここにいたんですね」
モルテと名乗るその人はフィオを捜していたという。
フィオがここにいた意味は、そして、モルテは……
*花と御使い(はなとみつかい)
*こちらのシナリオは性別不問とさせていただいております。
フィオを男の子として演じられる場合は、一人称の変更をお願いいたします。
*こちらのシナリオは、具体的はありませんが人の生き死にを扱わせていただいております。
苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。
【登場人物】
フィオ:名もない無垢な子。
モルテに出会い、モルテに名前を貰う。
モルテ:空から下りてきた『人』。
戸惑うフィオに話しかける。物腰柔らか。
●夜のように暗い花畑
花畑の真ん中で眠るフィオ。
フィオ:ん……あれ? ……ここ……どこ……?
辺りを見まわすフィオ。しかし、人の気配はない。
フィオ:(M)目を覚ますと、周りの景色は、眠る前とは全く違うものになっていた
眠る前は、ふわふわとした白い雲が浮かんでいる綺麗な青空と色とりどりの花が咲いた一面の花畑があった
周りには同じ白くて柔らかい服を着た子たちが何人もいた
なのに、今、その子たちはいない……
真っ黒な空の下、白いお花だけが咲いている花畑に一人
フィオ:……どうしよう……お~い!
空間にフィオの声だけが響く。
フィオ:……誰もいないの……?
モルテ:(少し遠くから)よかった、ここにいたのですね
フィオ:(辺りを見まわし)え? 誰? どこ?
モルテ:ここです。あなたの上にいます
フィオ:上? (頭上を見上げる)わぁ!
モルテ:(フィオの前にゆっくりと降りる)よっと。こんにちは、えっと……
フィオ:(食い気味に)天使様だ!
モルテ:え?
フィオ:あなた、天使様でしょ!
モルテ:天使?
フィオ:だって、お空を飛んでいたもん! お空を飛べるのは鳥さんか天使様だけなんだよ!
モルテ:……
フィオ:天使様?
モルテ:いいえ、なんでもありませんよ。はじめまして、小さな子。私の名前はモルテと言います
フィオ:モルテ?
モルテ:そうです。なので、天使様ではなくて、モルテと呼んでください
フィオ:わかった! モルテ!
モルテ:(微笑んで)ありがとう。では、次はあなたのお名前を教えていただいてもいいですか?
フィオ:名前?
モルテ:そうです
フィオ:まだ名前はないの!
モルテ:……そうなのですか……
フィオ:(嬉しそうに)でも、これからつけてもらえるんだ!
モルテ:……
フィオ:モルテ?
モルテ:……それは楽しみですね
フィオ:うん!
モルテ:ですが、ちょっとの間あなたとお話するのにずっと『あなた』とお呼びするのも寂しいですね
フィオ:そっか~、そうだよね……
モルテ:……それでは、今だけのお名前を私がお送りしてもいいですか?
フィオ:え?
モルテ:あぁ、やはり、初めてのお名前が仮と言えど、私からなんて……
フィオ:(食い気味に)ほしい!
モルテ:え?
フィオ:天使様につけてもらえるんだもん。嬉しい!
モルテ:(小さく)……ありがとうございます
フィオ:え?
モルテ:(微笑んで)あなたは優しい子なのですね
フィオ:ん?
モルテ:(微笑んで)なんでもありません。では、そうですね……この花畑にいた子ですから……フィオーレから取ってフィオなんてどうでしょう?
フィオ:フィオーレ?
モルテ:えぇ、外の世界のとある国の言語で『花』という意味があるんです
フィオ:……花……
モルテ:どうでしょう?
フィオ:うん! 素敵な名前だね! 私の名前はフィオ! (照れくさそうに微笑んで)二つも名前が貰えるなんて幸せだね!
モルテ:……そうですね。では、改めて。フィオ、あなたにいくつか質問をさせてください
フィオ:うん!
モルテ:あなたはどうしてここに来たんですか?
フィオ:う~ん、わからないの
モルテ:わからない?
フィオ:いつもみたいにお花の中で眠っていて、起きたらここにいたの
モルテ:そうですか……
フィオ:あのね、そこはね、ここと同じでいっぱいお花がいっぱい咲いているところなんだよ! でも、ここみたいに真っ黒なお空じゃなくて、綺麗な青いお空でふわふわした大きな雲がいっぱい浮かんでいるの!
モルテ:それは、きっと綺麗な所なんでしょうね
フィオ:うん! お日様もポカポカしてて気持ちいいの!
モルテ:そうなのですか
フィオ:モルテは知らない? フィオがいたあの綺麗な場所!
モルテ:残念ながら知らないです。私が知っているのはこの黒い空が続く世界だけなので
フィオ:そうなの?
モルテ:はい
フィオ:じゃあ、ふわふわの雲もいろんな色のお花も、青いお空も知らないの?
モルテ:知識として知ってはいますが、見たことはないですね
フィオ:とっても綺麗なんだよ!
モルテ:そうみたいですね
フィオ:今度、モルテも一緒に見よう!
モルテ:え?
フィオ:フィオのいたところに帰る方法がわかったら、一緒に行って、一緒に見よう! フィオのお友だちにモルテのこと、「フィオのお友だちだよ」って教えるの!
モルテ:(微笑んで)ありがとうございます
フィオ:へへっ! でも、そうか~。私のいたところとここは全然違うんだね
モルテ:そうですね
フィオ:ここはどこなの?
モルテ:ここは間(はざま)の世界です
フィオ:間?
モルテ:そうです。他の世界に行くための待合室みたいな所です
フィオ:他の世界!
モルテ:そうです
フィオ:じゃあじゃあ、もうすぐでフィオの番なんだね!
モルテ:……
フィオ:やった~! 外の世界はどんな所なんだろう? きっと素敵な世界なんだろうね
モルテ:……そうですね。外の世界はきっといろいろなことが待っていますよ
フィオ:え! モルテは外の世界のこと知ってるの!
モルテ:はい
フィオ:流石、天使様だ! 何でも知ってるね
モルテ:……
フィオ:ねぇねぇ、外の世界ってどんなものがあるの?
モルテ:秘密です
フィオ:えぇ! どうして! 知りたいよ!
モルテ:今は教えられません
フィオ:モルテの意地悪!
モルテ:意地悪じゃないですよ。フィオ、あなたのためです
フィオ:フィオのため?
モルテ:そう。外の世界はいろんなことで満ち溢れている。楽しいこともあれば怖いこともある
フィオ:……怖いの?
モルテ:えぇ、怖いことももちろんあります。外の世界は全て表裏一体で出来ているんです
フィオ:ひょうり?
モルテ:う~ん、フィオには難しいですよね……例えば、今咲いているこの花。凄く綺麗に咲いていますよね。フィオのいた場所の花もきっと綺麗に咲いていたことでしょう
フィオ:うん! 綺麗だよ!
モルテ:この世界の花は枯れることはありません。でも、外の世界では枯れてしまうんです
フィオ:枯れる?
モルテ:わかりやすく言うと、この花がなくなるということです
フィオ:なくなる? それは、怖いこと?
モルテ:人によっては恐ろしいこと、悲しいことです。ですが、それによって生まれる喜びもある
フィオ:喜び?
モルテ:この花は枯れることによって土に還り、次に咲くであろう花の力となるのです
フィオ:(顔をしかめて)……やっぱり、よくわからない……
モルテ:(微笑んで)今はそれでいいんです。きっと、外の世界に出たら自然とわかります
フィオ:(少し拗ねて)……わかった……
モルテ:(優しく微笑んで)フィオ、きっとここから出てたら多くのことは忘れてしまうと思うけど、これだけは覚えておいて
フィオ:なに?
モルテ:どんな世界にでも必ず自分にとってなくてはならい宝物が眠っている
フィオ:宝物?
モルテ:そう、その宝物が『何か』は誰にも分らない。でも、それはフィオにとってとても大切なものとなる。だから、この世界から出たら、いっぱい探して。自分の宝物を
フィオ:わかった!
モルテ:ありがとう。優しい子
教会の鐘の音のような重い鐘の音が鳴る。
モルテ:……
フィオ:あれ? これは何の音?
モルテ:(小さい声で)やはり、間違いではなかったのでね……
フィオ:モルテ?
モルテ:フィオ、もう時間が来てしまいました
フィオ:え?
モルテ:あそこの扉が見えますか?
フィオ:あそこ?
フィオ、モルテの指さす先を見る。
そこには大きな鉄の扉が現れる。
フィオ:あ、あの大きい扉?
モルテ:そう、あの大きい扉です。あの扉の向こうでフィオを待っている者がいます。その者の元へ行ってください
フィオ:え? モルテは一緒じゃないの?
モルテ:私の役目はここまでです
フィオ:そっか……寂しけど、行かなきゃいけないんだよね?
モルテ:えぇ
フィオ:じゃあ、モルテ。またね!
モルテ:はい、また……
フィオ:(満面の笑みで)うん! あ、一緒にいてくれてありがとう! 頑張って宝物を探すね!
モルテ:っ! フィオ!
フィオ:(振り返り)ん? なに、モルテ?
モルテ:(言い淀んで)……いえ、気を付けて
フィオ:うん! ばいばい! 天使様!
扉が閉まり、消える。
モルテ:……フィオ、あなたの言う『天使』になれたのならどんなによかったか。私は天使なんかじゃないんです。私はあなたをどの世界に送るか決まるまであなたの見張りをしていた死神なのですから……
モルテ:(M)ここは生と死の間の世界
生きるか死ぬかが決まるまでの一時、その魂はこの世界に留まる
あの子のがいたのは美しくて純粋な、まだ外の世界を知らない魂たちが暮らす場所
あの子はそこから零れ落ちた子
落ちたことが『事故』なのかそれとも『決定事項』だったのか
事実の確認のためにあの子はこの間の世界にいた
そして、私はあの子がどこにも行かないように。他の飢えた者に喰われないように番を命じられた
時が来たら、決められた道へと導くために
あの鐘の音。そして、あの鉄の扉
あの子が向かったのは外の世界ではなく、魂が生まれ変わる場所
すなわちあの子という存在が消える場所に向かったのだ
あの子がここに来たのは『決定事項』だったようだ……
モルテ:フィオ。願わくば、あの子の次の生が光に満ちたものでありますように
―幕―
2021.07.21 ボイコネにて投稿
2022.09.27 加筆修正・HP投稿
お借りしている画像サイト様:フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)