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Botanical Muse

美しさのまとい方 エストロゲンと血管

2018.03.05 08:05

【エストロゲンは血管の老化を防ぐ】

閉経前の女性は男性と比較して、動脈硬化による心筋梗塞や脳卒中などの心血管系疾患を患うことが明らかに少ない。しかし、閉経を過ぎると心血管系の疾患が徐々に増えてくる。ここで重要なことは、年齢と関係して増加するのではなく、閉経を契機として増加してくるということである。まだ月経がある時期に医学的理由で卵巣を摘除する、または40歳未満で自然に卵巣の機能が廃絶した場合でも、脳血管障害のリスクが増大する。

これらの事実から、おそらく、エストロゲンが血管の老化ともいえる動脈硬化の進行を防いでいると考えられる。エストロゲンがどうして血管の老化を防ぐのかに関しては、高血圧の予防、糖尿病の予防、脂質代謝に影響して動脈硬化を防ぐことなどによる。以上、これまで知られているエストロゲンによる動脈硬化の進行を遅らす機序を示す。

さらに、エストロゲンは血管に直接作用して、さまざまな血管拡張物質の産生を高め、血管を拡張させることで動脈硬化に対し予防的に作用している。そのため生殖年齢にある女性は、同年代の男性より一般に血圧は低い。男性では比較的若い年齢から高血圧症がみられるが、生殖年齢にある女性の高血圧症は10%に満たない。

血圧を正常に保つことは、動脈硬化を防ぐためにも重要である。さらに、生理的な濃度のエストロゲンは、血栓を防ぐ作用なども動脈硬化を予防していると思われる。このほかエストロゲンは、血管を障害する過酸化物質を除去する作用があり、このことも動脈硬化の発生を防ぐことになるのだろう。このように、エストロゲンはさまざまな仕組みで血管の老化を抑えている。血管の老化は心筋梗塞や脳卒中以外に認知症や腎機能低下の原因にもなる。このように女性にとって、エストロゲンの恩恵は大変大きいといえる。

エストロゲンは、血管系の老化防止という機序に加えて、直接心臓を守ることで心筋梗塞を防いでいる可能性が最近発表されている。心臓は平滑筋細胞からできているが、エストロゲンは心臓を構成する細胞に直接作用して、細胞が死滅することを防ぐとともに、細胞自体の機能を強化することが示されている。

妊娠時には、胎児や胎盤を養うために全身の血液量が増し、心臓の負担も増大する。エストロゲンの血管拡張作用や心臓の機能を強化する作用は、妊娠が順調に経過するためにも大変合目的性がある。おそらくエストロゲンは生殖現象をスムーズに進行させるために、血管や心臓に作用しているのであり、女性は少なくとも、閉経まではエストロゲンの庇護を受けているといえよう。


【エストロゲンと脂質代謝を改善して血管を保護する】

エストロゲンは、善玉コレステロールであるHDLコレステロールを増やし、悪玉コレステロールであるLDLコレステロールを低下させる。LDLコレステロールの低下作用のほうが優るので、総コレステロールは低下することになる。ここでいう善玉、悪玉とは各々動脈硬化に対して予防的に作用する、促進的に作用するという意味である。従って、エストロゲンは、血管の動脈硬化の進行を遅らせるように働いている。

エストロゲンがLDLコレステロールを低下させる仕組みとして、以下のことが考えられる。

LDLコレステロールは肝臓、副腎、卵巣などの細胞膜に存在するLDL受容体と結合して血中から細胞内に取り込まれることで血中から取り除かれる。エストロゲンは肝臓などのLDL受容体を増加させることで、血中のLDLコレステロールを低下させる。肝臓に取り込まれたLDLコレステロールは、胆汁の中に移行する。胆汁中のコレステロールが増えると胆石の原因となる。50歳未満では、女性のほうが胆石にかかりやすい理由の一つは、エストロゲンの作用である。それ以外で、エストロゲンは肝臓に作用してLDLコレステロールの産生を抑えることで、LDLコレステロールを低下させることに寄与している。


【エストロゲンは上手く使うと心血管系の病気を防ぐ】

では、閉経後にエストロゲンを補充すると、動脈硬化を防ぐことは可能なのだろうか。

答えは、閉経後からエストロゲンを投与するまでの間隔が短いほど、動脈硬化の進行を抑えることができるというのが、多くの専門家の考えである。60歳未満、あるいは閉経後10年以内にエストロゲンを6年以上にわたり補充すると、心筋梗塞による死亡率は低下するといわれている。ただし、脳卒中やすべてのがんの発症はホルモン投与有無で差はなかった。さらに、エストロゲンとの関連が注目されている乳がんも、ホルモン投与で増加することはなかった。エストロゲンと乳がんとの関係は単純ではなく、エストロゲン製剤と併用して投与される黄体ホルモン製剤の種類などにより、乳がんのリスクは影響される。