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会員コラム27

2022.09.29 07:16

あれ、もう一年が経ったのですね。今年は何を題材にしようかとちょっと悩む nupri ですが、会報2号を作る際に埋め草にしようかと考えていたものがありますので、今回はそれでお茶を濁しますかね。

さてさて、いつのまにか他の種の和名を乗っ取った種がありますが、ご存じですか。 Dioscorea elephantipes がそれです。今では「亀甲竜」といえばこの種ですが、昔は「蔓亀草」でした。昭和三十~四十年代の栽培書を見てみますと、「亀甲竜」と並んでこの名が挙げられています。何だ、同じじゃないかとおっしゃられる向きもあろうかと思いますが、 

これが仰天もので、龍膽寺 雄氏の「流行の多肉植物【主婦の友社、昭和四十七年刊】」によると『蔓亀草はこの塊根の亀裂が、もっとも整然とした形にあらわれ、黄褐色の葉は短いハート形でツヤツヤしており、「冬型」の育ち方。亀甲竜は塊根がやや不整形に流れ、

亀裂もこまかく、樹皮も黒い。葉はより大きい長めのハート形であまりつやがない。「夏 型」。』とあるのです。明らかに当時の「亀甲竜」は、Dioscorea sylvaticaです(奥一氏の「趣味の多肉植物【鶴書房刊、昭和四十二年刊】で学名確認)。いったい、いつから乗っ取ったのかは分かりませんが、植物の形状から言えば今の呼び方の方がずっと良いと思います。ここで乗っ取ったとしたのは、D. sylvatica は現在では「シルバチカ」の名で通っており、

「蔓亀草」とは呼ばれていないからです。なお、Dioscorea は当時の属名は Testudinaria でした。

そういえば、コニー・ウィリスという作家の「犬は勘定に入れません」という作品でこの植物が出てきて、オッと思ったのを覚えています。舞台は1888年の英国はオクスフ ォード近くの富裕層の家で、その居間の様子を描写している中にツルカメソウの鉢がありました。原書がないので分かりませんが、英語で elephant('s) foot としてあったのなら、 大修館書店や小学館の大英和では「ツルカメソウ」となっていますので、訳者もそれをとったのでしょう。学名だったら「亀甲竜」になっていたのでは。


【Silverhill産のD. elephantipes。 形はいいんだけど本物?】


ところで、私のところには二系統の D. elephantipes があります。

一方は南アの Silverhill Seeds からの実生苗で、もう一方はタキイ種苗から通販で取り寄せた苗です。この二つ、よく見ると葉の形態に違いがあり、タキイのはうちの会の土門氏が育てているのと同じ丸みを帯びたハート型です。ところが Silverhill の方は縦長のハート型で、艶もやや薄いのです。本会に入る前に実生を育てていたので、土門氏の親株を見たときには、その偉容もさることながら葉の形が違うのにはびっくりしました。だから、タキイの苗も購入しましたが、Silverhillへの疑念は晴れないままでした。ところが、最近になってNHK 趣味の園 芸2022年9月号のp.80 にカクタス長田さんの提供する亀甲竜の写真があり、その葉はまさに Silverhill のものではないですか。

うーん、求む正解!

【左 Silverhill 右 タキイ種苗】


名前ついでにもう一つ。ハワーシアで「ぎょくまん」といえば「玉扇」と「万象」ですが、

命名者は呼び方を「たまおうぎ」と「ばんしょう」としていたそうです。「ぎょくせん」と「まんぞう」が一般的になったのはいつごろなのかは分かりませんが、龍膽寺氏は「たまおうぎ」、「ばんしょう、まんぞう」と読み方を表しており、奥氏の方は「ぎょくせん」と「ばんしょう」派です。つまり、昭和四十年代にはもう「ぎょくせん」「まんぞ う」という呼び方が使われていることになります。私としては人と話すときには「ぎょくせん」も使いますが、「たまおうぎ」の方が柔らかい感じがして好きですね。「万象」の方はどちらでも良いと思いますが、語義を考えれば「ばんしょう」が正しいのでしょう。 つまり森羅万象から取ったものだからです。なんて思っていたら、これも NHK の同書の p.53 で万象(ふりがなで「まんぞう」)が出ており、説明に「靏岡さん(鶴仙園)の祖父が命名したそう」とあるではありませんか。えーっ、再び疑問におそわれる私でした。だって、そんな時代に「まんぞう」と読ませるなんて。うーん・・・



【俺らって、名前はあるけどどう読むんだろ?】