相槌
委員会の終了後、脱兎の如く部屋を後にせんとして「もう帰るのか」と背後から。「多忙の身にて」と返さば、堪え切れずに噴き出す事務員。よもや私のことを誤解しとりはせぬか。
互いに役職を追われた同士。古き良き時代を懐かしまんと。いや、おぬしらは去りゆく身なれど、こちとら「再登板」を狙う身にて一緒にせんでくれ、と理由こそ記さぬも「欠席」と送り返さば、「読めぬ」との督促に遠距離の日帰り出張を終えた。私以外は宿泊組。予想に反して高き出席率。政令市の前議長が集結とあらば受入側とて何かと大変だったはずで。
真夏の猛暑下に行われた研修会。んなものを見せられてもスマホすら使いこなせぬ面々には冥途の土産にしか。バス移動に降り立つ現地。灼熱の中、ヘルメット着用にて聞く相手の説明は当初の予定を「大幅に」超過しており。「前」とはいえ少し前まではその立場にいた面々。
わが社が誇る施設を紹介せんとする意欲的な説明員を前に最前列にてしっかりと頷いていた私。さすがに途中からは「もうぼちぼち」と願えども通じぬ相手。見送りの相手に手を振って別れてあびる冷やかな視線。オマエのせいだ、って。だから古狸の相手など。
市長が一時間「も」時間をくれて、何度も頷きながらオレの話を聞いてくれた、と自慢げに語るは今日の主人公。それって、もしや。およそ公務員というよりもその道の泰斗が如き風貌に鋭き眼光。既に再雇用も終わって隠居されたはずなれど、二年後に緑化フェアの開催と聞いてじっとしておられず。「オレを使え」と自ら売込めど、お呼びがかからぬらしく。
よもや市議の口添えにその地位を狙わんなどという野望は、あったりもして。「元職がしゃしゃり出ていかば現役がやりづらかろうに」と宥めてみても、「いや、彼こそはわが愛弟子にて必ずやオレを重用してくれるに違いない」と期待に胸を膨らませ。そりゃ妄想というか過信というか。
幸か不幸か、おらが選挙区内に在住とあらば無視する訳にもいかず、御自宅に招かれての講義や数時間。その見識や端倪すべからざるものあれど、お呼びかからぬはその立ち過ぎるキャラが災いしておらぬか、と告げねばならぬとしれども、あの意欲に燃えた眼光見れば。渡せぬ引導。
授かりし秘策の一つに水辺の空間の創出があって。緑に欠かせぬは水。何も新たに作れとは言わぬ。既にある噴水やせせらぎもあの震災以降は節水を理由に休止されとるとか。既に十年以上、それがあたり前の日常と化しつつある中にあって、その恵みを想起させる好機にあるまいか、と。
水の都を舞台にしたあの映画に流れる名曲を聴きし演奏会。余韻に浸りつつ後にするホール前の噴水広場。静寂に響く水の音を聞かば確かにアリかも。何も永続的ならずとその期間中だけでもいい演出になるはず。そんな発想は大いに活用されるべき。話が短ければ市長だって。
相手の相槌は真に受けぬよう、違うか。
(令和4年9月30日/2737回)