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フェスボルタ文藝部

今宵はオーバールックホテルにようこそ。(高柳孝吉)

2018.03.04 14:02


いきなりですが、是非お勧めの映画とその原作小説があります。ズバリ、「シャイニング」です。映画版は、SF映画の金字塔と公開されてから丁度五十年(僕の産まれた年ですね)を経た今でも語り継がれている不朽の名作「2001年宇宙の旅」、の鬼才スタンリーキューブリック監督作品(笑)です(前振りが長い(笑))。因みにホラーです。ホラーと言ってもそんじょそこらのホラーとは一線を画しています。キューブリック監督がそれまでのホラーに怒りを覚えて造ったというだけの事はあります。とにかくひたすら美しい。映像も、監督のクールさも。クライマックスの演出は冷静に、熱い映像を撮り上げた、というところでしょうか。ほぼぶれないカメラステディカムを初めて全編に使用した流れるようなカメラワーク、何故近代映画でこの映画だけは吹き替え版がない、いや吹き替え不可能だったのかというのも納得の驚愕の演出と芝居、理数系頭脳をひたすら使わないと理解出来ないかも知れない予測不能のストーリー展開。とにかく映像といい、全体的に重厚な映画です。でも僕は、単純にこの映画の世界が好きで、舞台となるお化け屋敷『オーバールックホテル』に住みたい位惚れ込んでいます。初めて観たのは中学校一年生も終わりに近い冬、新宿の映画館でした。

さて原作です。無論、映画のような美しい映像はないけど充分それを補ってあまりあるイマジネーションを突起させてくれます。ましてや映画を観た後なら尚更。そう、この「シャイニング」こそ映画を観てから原作を読むべし、という典型のような作品です。一番の理由は、細かな裏話の描写がに溜飲がさがる、もう1つはストーリーに決定的な違いがある。さて、主人公達のホテルに行くまでの慎ましやかな平穏ながら不安に満ちた日常を描くのにかなりのページをさき、上巻では怪奇現象らしき物はほぼ起こらない。ただ、悲しいまでに、平穏無事だった日常が徐々に徐々に不安と恐怖に蝕まれ、奪い去られていくじわじわ感がたまらなく好きで、ホラーにならなくていいからいっそこのまま平穏な日常を描き続けて!と言いたくなる位いいんです、この日常描写。そしてクライマックスは映画版とは全く違う(正確には逆)。原作者が映画版を観て激怒した、という程違うんです。下巻の方は上巻を静と定義するなら動、もうこれでもかと怪奇小説の本領発揮。そして、上、下巻とも映画では描かれる事のなかった主人公達の過去や細かな心理描写、あるいはホテルの忌むべき過去を郷愁!に近い"不気味"さで描き切っています、そしてそれに伴ってくるホテルの"今"(これが深くも恐ろしい)。    

   長くなりましたが、如何でしょう、このシャイニング熱(笑)。まだまだ語り足りないですが、次に観る映画「めまい」が待っているので。それ観終わったら、この文章冷めやらぬ中恐らく観てしまうのだろうなぁ、十何度か目の「シャイニング」を。そして、残念ながら恐怖はさすがに麻痺して来てしまっているのだが、美しいあの映像は、演出は、そして全てのスタッフ、キャスト、又は背景の美しいセットや自然にまでのりうつってしまったかのような亡霊達は、色褪せる事なく嬉しい事に今だに僕に襲いかかって浸らせ続けてくれているのだ。