#162.楽語 2
前回の記事で、楽語には大きく分けて「速度」「曲想」「指示」の3種類がある、というお話をしました。
ご覧になっていない方はそちらからぜひお読みください。
さて、今回は楽語を演奏表現に昇華するために必要なことをお話します。
楽語の種類の見分け方
楽譜には書き方のルールというものがある程度決まっています。例えばAllegroやModerato、rit.やaccelなど速度に関係する記号は五線の上に書かれます。一方で、曲想や強弱記号、クレッシェンドなどの記号については五線の下に書かれます。演奏指示は場合によって変化します。
ですので、楽譜を見て、五線の上に何か文字が書いてあったら、速度が変化するのだと覚悟して、指揮者を見たり、周りの奏者がどんなアプローチをしてくるのか注目しておく必要がありますし、自分自身もそれによってどのように変化するのかあらかじめ決めておかなければなりません。
聴く人に伝えられるかどうか
楽譜に書いてある文字が何を意味しているのか、わからない場合は「楽語辞典」というのがありますので、それで調べましょう。部活(パート内)で1冊あれば十分だと思います。ただし、そこに感情が込められていることが最も重要です。例えば「grandioso(グランディオーゾ)」は「壮大に」という意味ですが、「壮大に。了解。そーだいに、そーだいに…」と思っているだけでは、多分全然壮大な演奏にはなりません。大切なのは、「聴く人に伝わるか」です。そのためにどのような演奏をすると良いかを考え、精一杯伝わるように表現するわけです。
イタリア語辞典
楽語辞典は楽譜に出てくる言葉だけを網羅しているので、すぐに意味が見つかって効率的ではあるのですが、例えば速度記号の「Moderato」を調べると、「中くらいの速度で」と書いてあるだけの場合があります。中くらい、と言われても、意味がよくわかりませんよね。そこでイタリア語で同じ言葉を調べると、もっとたくさんの意味が書いてあるのがわかります。その中でも「穏やか」という意味が含まれていることに気づけると、その速度に対するイメージもだいぶ具体的になるはずです。
他にも「staccato(スタッカート)」は「音を短く」と書いてあるだけの場合が多いですが、イタリア語辞典で調べると「離す」という意味があるのがわかります。「音と音がくっつかないように」というところから、結果的に「短く」になったと考えれば、二分音符や全音符にスタッカートが付いていても理解できますし、その際どのような演奏をすべきか、想像できるようになります。
とにかく覚える
音楽大学の受験には、楽典という音楽のペーパーテストがある場合が多いのですが、その中に楽語のカテゴリーも含まれます。
そのため、私は高校生の時、通学の時間に英単語と一緒に楽語も暗記していました。3年間少しずつ覚えていったことで楽語辞典に掲載されているイタリア語に関しては(当時は)すべて覚えていました。
その後、数十年経過すると、さすがに出現頻度が低いものはどうしても忘れてしまいますが、しかし現在に至るまでかなり多くの楽譜に遭遇するために、今でもおおよその楽語は理解できています。
趣味で音楽をしている方に私と同じように辞典の全部を覚えましょう、なんて言いませんが、少なくとも今演奏している楽譜に出てくる言葉は全て暗記して欲しいと思います。ただし、楽譜に日本語の意味を書くのはあまりおすすめできませんので(演奏中に日本語を読んでしまい、表現に向けるべき集中力が薄れてしまうため)、別の紙にリストアップするなど工夫してみましょう。
ということで、2回にわたって楽語のお話をしました。
楽語は作曲者のメッセージです。これを受け取らずして演奏はできませんから、ぜひ積極的に調べ、理解し、想像してください。
それではまた次回!
荻原明(おぎわらあきら)
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