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河北新報社 記者と駆けるインターン

ケヤキコーヒー(仙台市若林区)地域をつなぐ一杯に 東北芸術工科大2年 菊池みなと

2018.04.14 01:00

 仙台市若林区荒井の住宅街にある小さなカフェ「ケヤキコーヒー」。温かい雰囲気の店内にはこだわりの木製家具が17席、ゆったりとしたジャズの音楽が流れている。カウンターでコーヒーを淹れるのは、オーナーの松木勇介さん(30)。開店と同時に、作業服を着た出勤前の男性がコーヒーを購入した。「いってらっしゃい」。立ち上がる香りがお店いっぱいに広がり、松木さんの朝は始まる。

 専門学校を卒業後、日本航空株式会社(略称JAL)に就職。航空整備士として働いていた。社内資格の勉強をしていた2011年、東日本大震災が発生。松木さんのふるさと・若林区荒浜も、津波で大きな被害に遭った。震災から2週間後に訪れると、生家は原型をとどめたまま内陸2キロ先まで流されていた。

 ふるさとの力になりたいー。衝動的な気持ちに駆られた。航空整備士を辞め、趣味のカフェ巡りの経験をヒントに一念発起。「仙台を代表するカフェを開き、人が集まる語らいの場を作りたい」と人生を賭けた。バリスタを目指し、3軒のコーヒー店を掛け持ちしながら技術を学ぶ。「日本一のバリスタのいるところで働きたい」と長野県・軽井沢のお店で3年間の武者修行。杜の都・仙台を象徴するケヤキのように、地域に深く根を張る店になろうと「ケヤキコーヒー」と名付け、16年にオープンをかなえた。

 店ではコーヒー以外のメニューも人気だ。ケーキは若林区の洋菓子店から、パンは宮城野区のベーカリーから取り寄せている。客に「おいしいね」と言われたら、地図や連絡先を記したカードを手渡し「こちらへもどうぞ」。地域のオアシスになろうと工夫する。

 店を構えた荒井地区は、居住制限区域となった荒浜から内陸4キロに位置し、被災者らが新たな暮らしを築く街として開発が進む。15年に開業した地下鉄東西線には、1日に約6万2000人が利用。人口は増加の一途だが「ハード面での整備が進む一方で、新旧住民の出会いは少ない」と松木さんはこぼす。

 「コーヒーを求めて来た人たちから、自然と会話が生まれ、つながる。そんなカフェにしたいです」。師匠直伝の芳醇なコーヒーの香りが、店内を優しく包む。今日も松木さんの渾身の一杯を求め、県内外から集う人たちで店は満席だった。

常連のお客さんと話す松木さん。

手前にあるのは人気メニューのハニーラテ飲み比べセット。