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スポーツの日に読みたい小説特集

2022.10.09 14:26

 こんにちは。

 明日10月10日は、目の日でありながら、いろんなアニメキャラクターの誕生日でもありながら、スポーツの日です。

 2020年からの祝日ですので見慣れないなと思う人も少なくないでしょうけれど、元・体育の日と言ってしまえば、そこまで馴染みのない祝日扱いもできないですよね。

 スポーツ×小説、山ほど浮かぶぜって方にも、全く浮かばないぜ、あんまり読まないぜという方にも共感できます。ただスポーツのようなアクティブなものとインドアな小説は相容れない、とは今の時代あまり思われていないんじゃないでしょうか。

 Twitterやネット界隈のトレンドをスポーツの話題が占めるのは日常茶飯事で、「推し」という言葉はアイドルにも二次元キャラにもアスリートにも同じ距離感で使われているように思います。スポーツ観戦はスポーツをする人だけのものではない。スポーツ漫画がいつの時代も熱いように、スポーツ小説ももっと日の目を見ていいように思うのです。

 ということで今回は、王道スポーツ「サッカー」「野球」から面白かった小説を一冊ずつ紹介したいと思います。




津村記久子『ディス・イズ・ザ・デイ』

 ロシアワールドカップの年に出版され話題になったサッカー小説です。

 主役は選手ではなくファン、サッカーの用語でいえばサポーターたちで、11章の連作短編集となっております。

 ただし、各主役は異なるので短編集などと言っていますがあらすじにあるように、国内プロサッカーの2部リーグ今期最終節の「その日」を描く、長編群像劇でもあるのです。

 ページをめくれば最初に22のチームが日本地図の上にそのエンブレムと一緒に紹介されているのですが、津村さん細かく考えているなぁと感心してしまいます。

 11話ある各話にはおよそ二人のサポーター、つまり主役がおり、その二人が関わるチームが2チームがメインの話になります。さらに、どの話にも2チーム以外のチームの名前や選手の名前が出ることで、各話の繋がりが楽しめますので、次第にそれぞれのチームにたっぷり愛着がわいてくるのです。

 素晴らしいのは2部リーグのファンというリアリティー、すぐそこにありそうな世界というわくわくです。例えば1話、三鷹ロスゲレロスのサポーターである貴志の話。

 中学二年生の頃、家から自転車で20分の距離にホームグラウンドがある三鷹の試合を、母親からチケットをもらったことをきっかけに貴志一人で観戦に行きます。試合の内容や若生という守備の巧い選手に感動し、スタジアムに通うようになるのですが、三鷹自体それほど強いチームではなく、教室ではサッカー部のクラスメイトが「ぜんぜんだめ」と笑っている始末です。三鷹のサポーターであることを隠し、地元のやがて高校に入ると海外リーグの話ばかり友人とするようになります。しかし、バイト先で三鷹より下位のチーム、ネプタドーレ弘前のリストバンドを付けている同僚に気付いてしまい……。

 ファンであることを誇れなくなる、という苛立ちはやがて応援しているチームへの苛立ちになっていく。そういう気持ちのしんどさからファンをやめるのですが、いざ再び火がつけられようとするとき、一度ファンをやめた負い目とのせめぎ合いになる。

 ……スポーツに限らず、共感できるところがたくさんございませんでしょうか。

 どの話の主人公も人間らしく、手の付けられないサッカー熱、というよりはその盛り上がりや盛り下がりが描かれます。俯瞰し、時に罪悪感を抱いたり懐疑的になることがありつつも、理屈ではない熱さに胸を焦がすこともある。

 家族の一人だけ違うチームのサポーターという家族を描いた回も良く、一瞬だけ交差する他チームのサポーター、のような回も美しく、とにかくどの章も見事で、面白さしかない一冊です。




堂場瞬一『大延長』

 ザ・甲子園でございます。

 あだち充さん、あさのあつこさんに負けず劣らずの野球作家さんである堂場瞬一大先生ですが、そのディテールの細かさから、甲子園でありながら青春小説じゃないんじゃないかという異様な読み応えのある作品を生み出しています。

 延長15回でも決着がつかず、再試合となった2校を描く『大延長』ですが、再試合を前にケガを抱えるエースをどうするかという監督の葛藤、そんな監督をよそにある企みを打ち合わせする選手たち、ケガしてようがエースを出せと脅すOB会、移籍を計画する相手校の監督、選手の一人の喫煙が5日後週刊誌に出ると知らされるなど、初っ端から盛りだくさんでございます。

 ディテールでいうのであれば、以前は雑魚寝であったのに現在は二人部屋だとか、ダグアウト前の段差だとか、強豪校には事務処理を担当する野球部長がいたり、病を抱える解説者とディレクターのやりとりがあったり、突っ込みどころが見当たらないというくらいのリアリティーです。

 しかも試合が始まれば、一球一球に球種があり、ストレート空振りにしたってどのコースに決まったかがあり、ファールにも、ホームランに届かずフェンスを直撃したボールにも、その前後に必然と思える要素があります。

 確かに伝説となるだろう試合を描いたものですが、この試合に限らず、野球のひと試合を小説にするとこんなに面白いのかと食い入るように読んでしまいます。この先が気になってぐんぐん読めるというのはミステリ等とは別種類のリーダビリティという感じがするのです。

 と、ひたすら堂場氏の筆力を称えてしまうのですが、群像劇としての完成度を担うキャラクターたちの頭の良さ、クセの強い性格も見過ごせません。牛木VS久保のライバル対決を主軸に、羽場と白井という両監督の因縁もあり、絡まり合うそれぞれが『大延長』というタイトルを作り出す壮大なものとなります。

 野球好き、小説好きの方は必ず没頭できる作品ですのでぜひ。




 以上です。

 私の好みもあるでしょうが、スポーツ小説にかかせないのはリアリティーだと思えます。

 すごい高さからのオーバーヘッドキックや消える魔球を認めないと言っているわけではなく、どっちにしたって没入させてくれなくては、という話です。

 実際にあるだろう世界の中で、いそうな選手がいて、私たちのようなファンがいる。そんな作品だからこそ、フィクションでありながらも先が読めない展開というものに、しっかり浸ることができる。そんなスポーツ小説を今回紹介致しました。

 スポーツの秋を楽しむ読書の参考にしていただければ幸いです。