レイフロ@台本師&声劇民☮

猫付きアパート家賃三万円也(2人台本)

2022.10.12 13:42

●台本をご使用の際は、利用規約をご一読下さい。

●上記イメージ画像は、ツイキャスで生声劇する際のキャス画にお使い頂いても構いません。(配役等の文字入れ可)

【男女比率 1:1】

【所要時間:30分程度】

 

【人物紹介】

・ 猫/クー♂

オスの黒猫。古いアパートの一室に住みついている。性格は人懐っこい。


・水無瀬 夕菜(みなせゆうな)♀

同棲していた彼氏に浮気された挙句家を追い出された。明るく、一生懸命な性格。

 

 


↓生声劇等でご使用の際の張り付け用

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『猫付きアパート家賃三万円也』

作:レイフロ

猫/クー♂:

水無瀬夕菜♀:

https://reifuro12daihon.amebaownd.com/posts/38070600

――――――――


(SE:ドアが開く音)

 


夕菜:

うっわー、ほんとに猫ちゃんがいる…!

 

猫:

(な、なんだよ!?当たり前だろ、オレはこの部屋の住人なんだから)

 

夕菜:

けっこう慣れてるって言ってたけど…誰にでも懐くのかな?

ほら、猫ちゃーん、おいでー。

 

猫:

(フンっ、オレが誰にでも懐くわけないだろ?

それにしても、この子が次の入居者か?

なんか軽そうな感じの子だなぁ。)


夕菜:

あ、大家さんからこれ貰ってたんだった!

ちゅーるだよ?食べる~?

 

猫:

(ちゅーるで釣るとは卑怯な!

でも猫好きに悪いヤツはいない、よな?…多分)

 

夕菜:

わぁ、ぺろぺろしてる!

猫の舌ってめっちゃザリザリするじゃん!変なのぉ

 

猫:

(ふーん、笑った顔はまぁまぁ可愛い。優しそうではある、かな?)

 

夕菜:

あっ!さっき丁度業者さんとすれ違って挨拶したけど、

ほんとにエアコン新しくなってるー!ラッキー!

 

猫:

(ボロアパートにエアコンだけがピカピカで、全然マッチしてないけどな。)

 

夕菜:

この部屋よくエアコンの調子悪くなるんだってー?

今回いつもの業者さんから型落ちを格安で新調出来たって大家さん言ってたけど、

普通に立派じゃんね?


猫:

(前のエアコンは化石かってくらい古かったし、

それに比べれば型落ちだって最新型みたいに感じられるだろうよ。

そもそもこんなボロアパートにエアコン備え付けってだけでも

割りとラッキーだと思うし。)


夕菜:

でもさぁ、もう部品の製造もしてない型落ち品使ってると修理出来ないし、

大家さん粗悪品つかまされてるんじゃないのぉ?


猫:

(どうだろうなぁ。お前がめちゃめちゃな使い方しなければ

しばらくは大丈夫なんじゃないか?)


夕菜:

ま、私のお金で買ったわけじゃないし動けばいいや!

 

猫:

(そーゆーこと。オレは暑がりだし寒がりだから

エアコンのないところなんて絶対御免だ)

 

夕菜:

えっと、猫ちゃん!

私今日からこの部屋借りることになったんだけどいい?!

 

猫:

(いいかって言われても、残念ながらオレに決定権はないし…。

逆にこんなボロアパートで良いのか?って感じだけどな。

若い女がセキュリティも何もないアパートの2階に住んで大丈夫かよ?)

 

夕菜:

私どこにも行くとこなくなっちゃったんだー。

彼氏んちで同棲してたんだけど、浮気された挙句に追い出されちゃって、

実家にも帰りたくないし…


猫:

(ふ~ん、なかなかヘヴィなことになってたんだな。

男に振られて家庭にも問題ありか…。

見た目によらず苦労してるんだなぁ。)

 

夕菜:

昨日まで友達のとこ渡り歩いてたんだけど、

男友達のところ行ったら襲われちゃって…へへ。

 

猫:

(家賃代わりに無理やりされそうになったってことか?

笑ってはいるが、辛そうだな…)

 

夕菜:

ヤダ!って突き飛ばしたら、「は?」ってキレられて…

行きずりの男ならともかく、高校の時からの友達だったんだよ?

あり得なくない?!

 

猫:

(うーん、オレに聞かれてもなぁ…。

でもお前も少し考えが甘いところあったと思うけどな?)

 

夕菜:

ケダモノだよ、あんなの…。

 

猫:

(人間だって動物ってことだよ。珍しい話でもない。

まぁ実際にそんな体験したらハラワタ煮えくり返るだろうけどな)

 

夕菜:

ぐああ!思い出しただけでもムカつくーっ!

 

猫:

(すでに煮えくり返ってた…。

なんでもいいけどオレに当たらないでくれよ?)


夕菜:

私って男運がなくてさぁ…。

そもそも父親が女好きで浮気ばっかした挙句に離婚して、

母親は母親で、また女好きの下半身男と再婚して苦労してるし。

私にはクソみたいな血が流れてるってわけなのよ!男運もクソもない!

 

猫:

(それはそれはご愁傷様なことで。

男運が遺伝するもんなのかは知らないけど、

一応女の子なんだからそんなにクソクソ言わない方がいいんじゃないか?)

 

夕菜:

途方に暮れてたら、このアパートの入居者募集の張り紙を見つけてさ。

びっくりしたよ、「敷金礼金なし、初月家賃無料!」だよ?ヤバいよね!

 

猫:

(部屋は狭いけど、日当たりもいいし、小さいけど風呂とトイレも付いてる。

エアコンも新しくなったばっかだし、まぁ悪くないよな。渡りに船ってやつ?)

 

夕菜:

「ただし猫の世話必須」って赤字で書かれててさ、何じゃこりゃって!

 

猫:

(ここの大家は、猫一匹追い出せない人のいいジジイだからなぁ。

よくそんな条件で募集して入居者見つかったもんだ。)

 

夕菜:

キミは前にこの部屋に住んでた人の置き土産なの?

 

猫:

(そんなことお前が気にしてどうなる。同情して可愛がってくれるってのか?)


夕菜:

首輪も付いてるねぇ。


猫:

(そうだよ、これは大事なものなんだから触るなよ!)

 

夕菜:

キミがどうしてもこの部屋から離れないから、

キミごと面倒を見てくれる入居者を探すしかない!って

大家さん開き直っちゃったらしいよ?ほんとイイ人だよねぇ。


猫:

(次の入居者はどんな奴が来るかと思ったけど、まぁ、楽しくなりそうかな?

オレは穏やかに暮らしたいから、ほんとはもう少し落ち着いた子が良かったけど…)

 

夕菜:

名前は勝手につけていいって言ってたけどどうしよっかなぁ?

男の子、だよね?どれどれー?

 

猫:

(おい!そ、そんなにジロジロと局部を見るな!

この凛とした顔立ちを見てみろ!どう見ても男だろっ!)

 

夕菜:

付いてる!


猫:

(こら!

はぁ…はしたない子だなぁ…)


夕菜:

うーん、黒猫ちゃんだからぁ…

 

猫:

(オレの名前はタスク!タスクだ!

んん、伝わらないのがもどかしい…)

 

夕菜:

クーね!

 

クー:

(クー?さては黒猫だからクーだな?!

安易すぎるだろ!

でも、タスクの「ク」を取ってクーだと思えば、

ギリギリ合ってるっちゃ合ってるか?)

 

夕菜:

私は水無瀬夕菜(みなせゆうな)!

これからよろしくね、クー!

 

クー:

(変な名前つけられるよりは、アリ寄りのアリか…)

 

 

 

クーN:

こうしてオレたちは、この家賃3万円の古いアパートで一緒に暮らすことになった。

夕菜(ゆうな)は、毎日のようにアルバイトへ行っていた。

家賃が初月無料とはいえ、貯金はほぼゼロのようだった。

 

 


(間)

 



夕菜:

ただいまぁ、づがれだぁ…

 

クー:

(ふあぁ…お帰り。だいぶお疲れだな。

それにしても生活がかかっているとはいえ、見た目に反して頑張り屋なんだな。)

 

夕菜:

汗びっしょりで気持ち悪~い!んっしょ…(服を脱ぎ始める)

 

クー:

(おいおい!すぐに脱ぐな!

ちょっ!まだカーテンも閉めてないのにっ!

あ~っレースのカーテンは結構透けてるんだから、外から見えちゃうだろっ?!

お前はそういう危機感のないところがダメなんだぞ!)

 

夕菜:

クー、ご飯ちょっと待っててね。

先にパッとシャワーしてきちゃうからねー。

 

クー:

(全裸で猫撫でてる場合かっ!いいから早く風呂に入ってこいバカっ!)


(SE:シャワーの音)


夕菜:

フンフフーン♪(お風呂中)

 

猫:

(はぁ、びっくりした…

なんていうか、夕菜(ゆうな)は無防備すぎるんだよなぁ。

あれじゃあ、男友達に襲われても文句言えないというか…

男運の悪さを自ら引き付けてる感じもある…心配だなぁ)

 

 


(間)

 


 

夕菜:

おまたせー!はい!カリカリだよ!

 

クー:

(出かける時はちゃんとしてるけど、家着(いえぎ)はほんとだらしないなぁ。

その恰好のまま荷物も受け取ったりするし…

女子の一人暮らしなんだからもう少し気を付けて欲しいもんだ)

 

夕菜:

あのね、クー。

もしかしたら明日は夜帰ってこれないかもしれないんだけど、大丈夫?

 

クー:

(え?なんでだよ!?

まさか夜のバイトでも増やす気じゃないだろうなぁ?!)

 

夕菜:

少し多めにご飯おいとくね!

朝全部食べちゃだめだからね!半分取っといて夜食べるんだよ?

 

クー:

(そんなこたぁどうでもいい!なんで帰ってこれないのか理由を言えよ!)

 

夕菜:

ふあー!明日何着て行こう?!

最近全然服買ってないから何もないよぉっ

 

クー:

(ん?このウキウキした感じはまさか…!

男のニオイがするな…)

 

夕菜:

クラブでオールするのなんて久しぶりだなぁ。

元彼とはよく行ってたけど、最近は真面目に働いてたもんなぁ。

 

クー:

(やっぱり男か!しかもクラブでオールだぁ?!

元彼と手痛く別れたってのに、すぐに次の恋探しか!?)


夕菜:

クー!どっちがいいと思う?!

 

クー:

(どれどれ?ピンクのヒラヒラしたやつに、黒のスケスケ…

って下着じゃねーかッッ!!!)


夕菜:

黒はちょっとガツガツしてるかなぁ。

こっちの薄いピンクの方が清楚だよね!?

 

クー:

(服より先に下着を選んでる時点で清楚じゃねぇ!

そういうのはビッチっていうんだからな!

おい!聞いてんのか?!コラーっ!)

 

夕菜:

ちょっ、クー!足にまとわりつかないの!

今私は新しい彼氏を作れるかどうかの大事な準備中なんだから!

 

クー:

(待て待て待て!いい彼氏を作りたいなら、クラブに居るような

「ヘイ彼女ぉ、クラブでオールしようぜ?

レッツパーリー!フゥゥゥゥ↑」

って奴はとりあえずやめとけ!いいか?!

そんな男は絶対やめとけっ!!)

 

夕菜:

はぁ…(ため息)

 

クー:

(ん?急にテンションがガタ落ちしたな。どうしたんだ?)

 

夕菜:

聞いてよ、クー!明日のオール、バイトの先輩が企画してくれたんだ。

私がずっと元彼のことで落ち込んでたから、

その人は新しい彼氏が出来ればそんなの忘れるって言ってさ、

私も無理やりテンション上げてたんだけど…。

 

クー:

(そうだったのか…。ってことは本当は乗り気じゃないんだろ?

いまお前の顔にハッキリ浮かび上がったぞ。「行きたくない」って。)


夕菜:

元彼と同じようなパリピと出会ったところで、また上手くいかない気がするの…

 

クー:

(だったら断っちまえ!純粋に遊びに行くならオレだってとやかく言わないさ。

でも元彼を忘れるために無理やり新しい出会いを求めるのは違うからな!)

 

夕菜:

駄目だなぁ…。乗り気じゃなかったのに先輩の誘い断れなくて…

イケメン連れてくるから勝負下着付けてきなよっていうアドバイスにも従おうとしちゃって…。

 

クー:

(おい、なに泣きそうになってんだよ。

いつも馬鹿みたいに明るいお前らしくない…)

 

夕菜:

こうやって周りの人間に合わせて流されて…

信用してありのままの自分を出すと嫌われて、捨てられてさ…

もうヤダ…私、一人じゃん…なんで私、こんなに一人なの?

 

クー:

(ノーテンキかと思ってたけど、こいつはこいつで必死なんだな…。

こんな時、オレがコイツの頭を撫でてやれたらよかったのに…)

 

夕菜:

うぅ…っ(泣く)

 

クー:

(夕菜(ゆうな)…泣くなよ、今はオレがいるだろ?)

 

夕菜:

クー…慰めてくれるの?

ふふ、舌ザラザラして痛いよ、わかった、もう泣かないからぁ


クー:

(オレは、お前のだらしないところも、寂しがりなところも知ってる。

見た目に反して頑張り屋で、軽そうに見えて意外と真面目なところも。

お前はもっと、誰かに甘えていいんだと思うぞ…?)

 

夕菜:

よし、先輩にやっぱり行けませんって断りの連絡いれる…!

その方がいいってクーも思うでしょ?

 

クー:

(うん、思うよ。絶対にその方がいい。)

 

夕菜:(電話)

あー先輩っ、お疲れ様です!あのぉ、明日のクラブのことなんですけど…

私やっぱり今回は遠慮しておきます…せっかく誘ってもらったのにすみません!

気持ちはすごく嬉しかったんですけど…

 

 

 

クーN:

最初は、その日の出来事を馬鹿みたいに喋りまくる夕菜(ゆうな)を鬱陶しく思うこともあった。

でも、一緒の時間を過ごすうちに気が付いた。

夕菜(ゆうな)は、内面に抱える弱い部分を持ち前の明るさでかき消して、

色々なしがらみと戦いながら、今まではどうにか上手くやってきたのだ。

オレは「クー」と呼ばれることにもすっかり慣れて、

彼女に呼ばれるたびに気持ちが温かくなるのを感じていた。

 

 

夕菜:

クー…あったかいね…このアパートに来てよかったぁ…

クーに会えて…よか…すぅー(寝る)

 

クー:

(オレも夕菜(ゆうな)に会えてよかったよ…おやすみ、夕菜…)

 

 

クーN:

オレは、夕菜(ゆうな)が幸せになることを願った。

彼女が幸せなら、オレはそれを見ているだけでよかった。

それなのに、彼女の男運の悪さはどこまでも付き纏(まと)うようだった。

事件が起きたのは、それから間もなくのことだった。





(間)

 




夕菜:

はぁ、はぁ、…うっ…うぅ…!(息を切らせて泣きながら)

 

クー:

(おかえ、り…

ってどうしたんだよ、その顔!)

 

夕菜:

なんでよ、なんで今頃また現れるの…?

浮気した挙句私のこと捨てたくせに…

戻ってこいって、一体何なのよ…っ

 

クー:

(元彼か?!新しい女を作って夕菜(ゆうな)を家から追い出したっていう…!)

 

夕菜:

痛い…冷やさなきゃ…

 

クー:

(まさかそいつに復縁を迫られたのか?

それを夕菜(ゆうな)が断って…殴られた?!)

 

夕菜:

あー、ごめんねクー。血の匂いがしちゃってるよね…

大丈夫だからね…?

 

クー:

(全然大丈夫じゃない…鼻血が出てるし、ほっぺたが真っ赤に腫れてる…

平手打ちなんかじゃない、拳で思いっきり殴られた傷じゃないか!)

 

夕菜:

私怖くて、めちゃめちゃ必死に走って帰ってきちゃったから、

病院行こうとか全然思いつかなかった…

バカだな私…ほんとバ、カ…

 

クー:

(大丈夫か?なんかフラついてるぞ?!)

 

夕菜:

あれ?なんか急に頭がぼーっとしてきた…

なんだろ…気持ち、悪い…

 

クー:

(おい!しっかりしろ!)

 

夕菜:

うっ…


(SE:ドサッ←倒れる音)

 

クー:

(夕菜(ゆうな)が倒れたっ!おいしっかりしろ!

まずい、意識が混濁してる…!

殴られた後に全力疾走してきたからか?

それとも殴られた時に倒れて頭でもぶつけたのかもしれない…。

くそっ!

隣は今空室だし、大家さんの部屋は一階にある…!

ここでオレがいくら鳴いたってきっと誰も来てくれない!

どうしたら、一体どうしたら…っ!)

 


夕菜:(以降、弱々しく)

クー…たすけ、て…



クー:

(どうにかして救急車を呼ばなきゃ死んじまうかもしれないっ…!

でも…オレに一体何が出来るっていうんだ…!)



夕菜:

クー…私のそばに、いて…

ずっと、いっしょ、に…


 

クー:

(いるよ!ずっと一緒にいる…!

だからしっかりしてくれっ!)

 


夕菜:

一人ぼっちに、しない、で…クー…

 


クー:

(……。

わかったよ夕菜(ゆうな)…一人ぼっちになんてしない…。

オレが!夕菜(ゆうな)を助けるんだ…っ!)

 

 

(SE:救急車の音)

 

 


 

(ゆっくり5秒以上間を取ってください)

 


 

 

夕菜:(電話)

ほんとびっくりしたよぉ、気が付いたら病院のベッドに居るんだもん。

えっとー…階段から落ちたんだよ!

大丈夫かな~と思ったんだけど、家着いたらそのまま倒れちゃったみたいで…。

お見舞いなんていいよ!今日退院したんだから!

お母さんもまた離婚協定で忙しいんだから気をつけなよぉ?

そうなの、誰が救急車呼んでくれたのかわかんないんだよねー。

通報の声は男性だったらしいんだけど…

彼氏?違うってば!今は彼氏なんていないの!

お母さん、もう切るからね?また連絡する!じゃあねー!

(電話終了)


もう、男関係の心配ばっかして…自分はまた離婚するっていうのにさぁ。



(SE:ドアが開く音)



夕菜:

ただいま、クー!心配かけてごめんね!

よしよーし。

どうしたの?首輪気にしてる…。

かゆいのかな、取ってあげるね?

よいしょっと…

 

え?首輪に何か埋め込まれてる…?

何これ…ものすごく小さいけどこれって…


カメラ?

 



(SE:ピンポーン)

 



夕菜:

誰か来た…大家さんかな?

はーい!

…って、あれ?どなたですか?

 

クー?:

退院出来たんだね、おめでとう、夕菜(ゆうな)。

やっと会えたね。

 

夕菜:

え、なんで私の名前…


クー?:

おじゃまします。

いや、「ただいま」かな。


夕菜:

ちょ、ちょっと!勝手に入ってこないで下さい!


クー?:

どうしたんだ?

ここは俺の家でもあるんだから勝手にってことはないだろ?


夕菜:

あれ…?あなたの顔、どこかで…?


(SE:猫の鳴き声)


クー?:(猫を撫でながら)

クー!よしよし、いい子だな。

俺の分身。えらかったね。


夕菜:

思い出した…!

この部屋のエアコンを付けてくれた業者さんだ…。

廊下で少し話しただけだけど…そうですよね?!

 

クー?:

あー…。この子の首輪に付けてたカメラに気づいちゃったんだね。

それじゃあ動揺するのも無理ないか。

心配させてごめん。

でもそのカメラは、俺の「目」だから。

安心していいよ。


夕菜:

「目」って、どういうこと…?

まさか、このカメラでずっと私のこと見てたってこと?!


クー?:

夕菜(ゆうな)、落ち着いて。

俺はクーだ。

この猫と俺は、「目」を共有してたんだよ。一心同体なんだ。

だから俺はクーだし、この子もクー。


夕菜:

な、何を言って…


クー?:

俺はエアコンの修理業者なんかじゃなくて、猫になりたかった。

猫になって、誰かに愛されたかった。


夕菜:

け、警察…っ


クー?:

必要ないよ。(夕菜の腕を掴む)


夕菜:

痛っ、手を離して…!


クー?:

あの時、救急車を呼んだのは俺だよ。


夕菜:

あなた、が…?


クー?:

そうだよ。

俺は猫になって、この先もずっと猫のまま君と一緒に居られればそれで良かった。


夕菜:

じ、じゃあ、どうしてこうやって姿を現したの?!


クー?:

君が俺に助けを求めたからだよ。

「助けて」「ずっと一緒にいて」って言ったじゃないか。

君が望んだんだ。


夕菜:

それはクーに言ったの!猫のクーによ!あなたじゃないっ!


クー?:

違うよ。だって、猫に救急車は呼べないじゃないか。

ドアを開けて人を呼んでくることも出来ない。

だからあの「助けて」は、クーと一心同体だった、カメラ越しの俺に言ったんだよ。


夕菜:

そんな…違う!

私はカメラで見られてるなんて知らなかったものっ!


クー?:

だからこそ運命を感じたんだ。

君は、猫のクーの中に「俺」という存在を本能的に感じ取ったってことなんだよ?


夕菜:

そんなの…あなたの妄想だよっ!


クー?:

君の気持ちを感じたから、俺は猫でいることを止めて救急車を呼ぶことにした。

ずっと猫のままでいいと思ってた俺をつき動かしたんだ…!

人間関係に疲れ果てて絶望していた俺を、君は必要としてくれた…。

君はすごい人だよ。


夕菜:

私はあなたなんて知らない…っ

ただの、ただのエアコンの業者の人だよっ!クーじゃないっ!!


クー?:

クーが突然「人間」になったものだから戸惑ってるんだね?

でも大丈夫だよ。

猫のクーもこの通りちゃんといるし、しばらく一緒に暮らせば

俺もクーだってことはすぐに分かるさ。

だって、この部屋に夕菜(ゆうな)が来た時から、ずっと見てきたんだから。

だらしないところも寂しがりなところも、ぜーんぶ知ってるよ。


夕菜:

や…だ…


クー?:

まさか、俺の存在に気づいてくれて、

しかも俺を必要としてくれる人が現れるなんて思いもしなかった…。

本当に嬉しいよ。


夕菜:

待って…話を聞いて!


クー?:

これからはクーと三人で仲良く暮らそうね。


夕菜:

おねがい…私の話を…


クー?:

あー、でもクーが二人になっちゃうから呼びにくいね?

はは、呼び方はまた考えようか。

ほら、猫のクーも君の足元にすり寄ってる。

三人で暮らすことに賛成みたいだ。


夕菜:

あ…あ…


クー?:

これからはずっと一緒だよ…?

君の願い通り、君を一人ぼっちにしたりしない。


夕菜:

や、だ…助けて…


クー?:

夕菜(ゆうな)の男運の悪さも今日で終わりだ。


これからは俺が、


君を傷つける全てのものから、


守ってあげるからね。

 

 

 


 

End.


あとがき。

猫好きさんのために補足させて頂くと、

猫ちゃんはただただ人懐こいだけの猫さんですw男の味方とかそういうことではありません。

男のほうも盗撮魔というわけではありません。彼は猫になってかわいがられたかっただけなので、カメラは猫目線になるための道具でしかなかった。かわいがってくれる人なら彼は別に誰でも良かったんですが…まぁあんなことに←



「無償の愛」って全部が全部尊いわけではな(ry

何にせよ、お互いのベクトルがズレているというのは…気をつけた方がいいのかもしれません。