Unreasonable death and Unnatural death
東京都監察医務院に行ったことがある。親戚が急死して解剖されたので、死因を知りたいという親戚一同を代表し、故人とは三親等にあたるわたしが単身出向いたのだった。
当時社会人一年生で、何も知らなかったくせに、もう社会人なんだからこんなの簡単、大丈夫と、根拠のない自信というか、虚勢を張っていたのを覚えている。
そのころの監察医務院は創設当初からの建物で、ぱっと見はホラー映画のロケ地になりそうな感じだった。あれこれ手続きを済ませ、一枚の紙を手渡された。
死体検案書。
死因の欄を見て、息を呑んだ。こんなことで亡くなったのか。あの日夜中にタクシー飛ばして助けにいった両親はどう思うだろう。くやしいのと悲しいのと、それよりも理不尽な死に涙が出た。
11月も終わりに近づいた日のことだった。
それではお聞き下さい、米津玄師『lemon』
まー、そういうこともあったんですよー。
一族に医療関係者が多いので、翻訳者を志した当初はメディカル翻訳の勉強をしていました。製薬会社にいた父の同期が早期退職し、製薬に特化した翻訳会社を立ち上げたところ、これがまあ儲かるとかで、父から「翻訳やるならメディカル翻訳者になれー」としつこく言われましたが、娘、あっさり挫折。
で、あんまり儲かってない翻訳やってますー。
だからそういうことは関係なく、『アンナチュラル』が終わってしまったんです。それを書きたくてブログを更新しているのに、話がどんどんあさっての方向に行くのは、
『アンナチュラル』が終わったことを認めたくないからです。
『アンナチュラル』とは、3月16日に最終回を迎えたTBSテレビのドラマで、異状死、すなわち“Unnatural Death”の死因を究明する架空の研究施設、UDIラボで働く人々が、日々遭遇するご遺体から犯罪の兆しを見つけては真相を追うという、基本一話完結のドラマです。
しっかりした医学監修がついているのでしょう、ご遺体のわずかな痕跡から異常性を見いだし、自然死ではなく他殺の可能性を追うプロセスが実に理路整然としていて、メディカル翻訳者になるのをあきらめたわたしなどは「ほー」、「へー」、「そう来るかー」と感心して見入るしかありません。
今のところ挫折していないミステリ翻訳者モードで見ると、トリックや伏線の張りめぐらし方が絶妙で、またしても感心してしまいます。
そしてキャラクター造形。練炭で一家心中した家族の生き残り、法医学者の三隅ミコトを主人公に、8年前に恋人を殺されてから心を閉ざし、ときに常識を逸脱した行動に走る、同じく法医学者の中堂、これからどう生きていけばいいのかわからず、流されるがままマスゴミの手先となってUDIラボのスキャンダルを探るために潜入したアルバイトで医学生の六郎。この3人が陰のパートなら、仕事きっちり、だけど私生活も充実しなきゃねの臨床検査技師、東海林に、厚生労働省の天下り(というと本人は抵抗する)でUDIラボの所長をつとめる、みんなのお父さん的存在だけどやるときはビシっとやる神倉や、ムーミン大好き坂本検査技師は、陽のパートと言えるでしょう。このメンバーに葬儀業の木林、刑事の毛利と向島、ゲスい週刊誌の編集者やフリーのジャーナリストが絡んで、合計10話にみっちりとエピソードが詰め込まれています。一話完結のつもりで見ていくうちに、各話のふとしたエピソードがつながって別の視点を作り上げるなど、ストーリーの重層性や細かな配慮にもうならされました。
脚本を書いた野木亜紀子氏は『重版出来』など原作つきドラマの脚本でヒットを飛ばし、今回が初のオリジナル作品ですが、ストーリーテラーとしての才能はここ数年の脚本家の中でも、トップクラスに挙がると思います。個人的には『重版出来』のドラマオリジナルエピソードで、書籍を断裁するシーンを挿入し、売れなかった本はこうやって葬られるのだと視聴者に見せたところを高く評価していました。この人はいつか、すごいことをやってくれるんじゃないかという予感が、今回見事に的中しました。
普段ドラマは録画して、お昼食べながらてれってれと観ているわたしですが、『アンナチュラル』はあえて仕事用のPCでTVer視聴しました。集中したい、夫氏に後ろから変な茶々入れられたくない、そして、泣いても大丈夫な環境で観たかったのです。
TVer視聴はいいんだけどさ、終わってからDVD(わたしのPCではBlu-rayが読めない)発売まで、どうやってロスを埋めろというのだ、わたしのバカ。
というわけで、アダチ、生まれてはじめて日本のドラマの円盤を買います。
面白かった。
『アンナチュラル』の制作に携わった皆様に、感謝。