【Geo Valueセレクション】SDGs時代にみるサーキュラーエコノミーと環境浄化~岩手大学理工学部:晴山渉助教インタビュー
◆廃棄物を有効利用した土壌・地下水浄化技術の確立◆
これからは環境浄化においてもサーキュラーエコノミー(循環型経済)の考え方が重要だと思っています――。こう語る岩手大学理工学部の晴山渉助教(左下写真)は、指定調査機関であるセロリや大東環境科学など民間企業と連携して廃棄物を有効利用した土壌・地下水環境浄化技術の確立に向けた研究に取り組んでいます。その成果の一部は、今年6月に開かれた「第27回地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会」(横須賀市民会館)でも発表され、聴講者の関心を集めていました。持続可能な開発目標(SDGs)の実現に向けた取り組みが社会全体で重視される中、環境浄化においてサーキュラーエコノミーの考えを重視する晴山氏の取り組みに注目しました。(エコビジネスライター・名古屋悟)
※この記事はECO SEEDが発行する電子専門紙「Geo Value」Vol.154(2022年8月29日)に掲載したものです。
―――――――――――――――――――
◆ワイン残渣と貝殻の可能性を検証◆
晴山氏が着目し、環境浄化剤としての可能性を検証しているのが、「ワイン残渣」と「貝殻」です。どちらも、生産者にとって適切な処理のために費用をかけて処分する廃棄物であり、それ自体は生産者にとって、お金だけがかかるただのゴミに過ぎません。
その廃棄物に着目した理由について尋ねると、「廃棄物の削減、生産者のコスト負担の軽減に加えて、土地所有者等が困っている土壌・地下水汚染の浄化に役立てられれば、経済的な部分も含めた好循環が生まれると考えたからです」と晴山氏は語ります。岩手大学がある岩手県は、ワインの醸造や牡蠣の養殖が盛んな地域。そこから出るワイン残渣や牡蠣殻の処理は、生産者にとって大きな負担となっています。
ワイン残渣等は、VOC類を分解する促進酸化法の1つ「過硫酸法」での活用を検証しています。「過硫酸法」は効果が持続的な点が特長ですが、促進酸化法の1つであるフェントン法に比べて分解速度が小さい点が課題です。晴山氏らはこれまでの研究の中で、過硫酸イオンと鉄イオンの反応に、酒石酸が共存することで過硫酸法におけるVOCの分解速度を著しく増加できることを明らかにしていますが、試薬としての酒石酸は高価なため、浄化コストを抑制する視点から酒石酸を含むワイン残渣やヤマブドウ果汁残渣を酒石酸の供給源として用いることを検討しています。これまでに実汚染現場5カ所で検証した結果、VOC類の分解効果が確認できていることはもちろん、浄化後の土壌中のpHの回復、ブドウ残渣等由来の有機物・無機物が残存していないこと等も確認しています。ラボでの研究開始、実汚染現場での実証は延べ約10年に及び、その成果は実用化目前にまで至っています。
一方、貝殻はフッ素の対策に利用する吸着剤としての実用化を視野に検討が進められており、貝殻等に含まれるカルシウムを利用したフルオロアパタイト生成によるフッ化物イオン除去の検証が進められています。これまでの研究で、貝殻等をリン酸水溶液に浸漬させることで作製した吸着材により、水酸アパタイトの生成を経ずに、フッ化物イオンを固定化できることが分かっています。実汚染現場での使用を想定し、カキ殻吸着材のフッ化物イオンの吸着を阻害する要因等の検証も進めており、今後の研究成果が注目されます。
◆今後必要になってくる素材(ワイン残渣、牡蠣殻)回収、製造加工、流通の仕組み◆
実用化に向けた期待が高まるところですが、「実際に浄化剤等として販売していくには、どのように注入するのが良いかなど現場での使い方、コストにも関わってくるワイン残渣や牡蠣殻の回収方法などの課題があり、そうした部分での検証も必要だと考えています」と晴山氏は語ります。
有害物質に対する分解効果、吸着効果など基礎的な情報整理はおおむね進んだ中、広く普及させていくためには効率的な素材(ワイン残渣や牡蠣殻)の回収、製造加工、流通の仕組みが必要であり、今後はこうした面で連携していくパートナーの存在も重要になってくるといいます。
SDGs時代を迎え、東京都が「環境・経済・社会に配慮した持続可能な土壌汚染対策ガイドブック」を発行し、推奨するなど土壌・地下水汚染調査・対策のあり方も変わりつつあります。土壌・地下水汚染調査・対策工事を発注する企業にとってもSDGsやCSR(企業の社会的責任)等の観点から、廃棄物の削減に寄与しつつ、温室効果ガスの削減にもつながる原位置浄化技術でもある晴山氏らの研究開発は今後、関心を集める可能性が高く、その行方が注目されます。(終わり)
※「ワイン残渣等を用いた過硫酸法のVOCs浄化実証試験」や「貝殻等を有効利用した吸着材によるフッ化物イオン除去法の開発」の研究成果に関する問い合わせは、岩手大学理工学部の晴山渉助教e-mail(harewata“a”iwate-u.ac.jp )まで。
メール送信の際、“a”を@に置き換えてください。
※「Geo Value」(毎月2回発行:年間購読料¥19,800)は、土壌汚染調査、対策事業に携わる企業・団体等向けの電子専門紙です。数多くの土壌汚染対策法に基づく指定調査機関や行政の関係部局の方々にご購読いただいています。
「Geo Value」のお問い合わせは、当サイト問い合わせフォームをご利用ください。