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とある冒険者の手記

V.初めて知った誕生日

2022.10.14 01:44

「そういえば、もうすぐガウラの誕生日だな。何か欲しいものはあるか?」


突然、そう尋ねたのは霊5月14日の夜。

尋ねられた本人は忘れていたと言わんばかりの顔をする。


「あー、そういえば、あと4日で誕生日か」

「自分の事だろう…、忘れてたのか」


少し呆れながら答えると、ガウラは苦笑いをした。


「で、欲しいものは?」

「うーん。すぐには思いつかないな…、そこまで欲しいって物もないし…」


ガウラはしばらく悩んでいたが、突然ハッとした表情になった。


「なにか思いついたか?」

「いや、そうじゃなくて…。そういえばヴァルの誕生日を知らないなって思ってさ」

「そういえば、話してなかったな」

「それで?ヴァルの誕生日はいつなんだい?」

「今日だ」

「今日!?」


思わぬ答えに声がひっくり返るガウラ。

しれっと答えたヴァルの様子に、思わず焦ってしまう。


「な、なんで言わないんだい!」

「今まで聞かれなかったし、自分から言うもんでもないだろ?」

「そ、そりゃ、そうだけどさ…」


溜め息を吐きながら軽く頭を抱えるガウラに、困ったように微笑むヴァル。


「もう夜だし、店も閉まってるし…、何もしてやれないじゃないか…」


呆れながら言うガウラに、ヴァルは口を開いた。


「オレはガウラと一緒に過ごせるだけで充分に嬉しい」

「それじゃいつもと変わらないだろ?それに、私だけ何かしてもらうのは性にあわない」

「まぁ、そうだろうな」

「何かないのかい?して欲しいこととか」

「そうだな…」


ヴァルは少し考え、そして静かに言った。


「ガウラに甘えさせて欲しい」

「………へ?」


予想外だったのか豆鉄砲を食らった鳩のような表情になるガウラ。


「そ、そんな事でいいのかい?」

「あぁ。オレは誰かに甘えた事が無いからな」


その言葉を聞き、ガウラは少し考えた。

そして、大きく手を広げた。


「よし!ドンと来い!」


頬を紅くしながら凛々しい表情で言われ、ヴァルは小さく吹き出した。


「笑うな!結構恥ずかしいんだぞ!」

「すまない。あまりに威勢がいいものだからつい」


眉間に皺を寄せ頬を膨らませるガウラ。

ヴァルは小さく笑いながら、ガウラを抱きしめた。

それに合わせて、ガウラもヴァルの背中に手を回し抱きしめる。


「誕生日おめでとう」

「ありがとう、ガウラ」


その後、ガウラが思いつく“甘やかす“だったのか、ヴァルの頭を撫でたり、肩を寄せたりとスキンシップが多く見られた。

そして、その日の夜はガウラの提案で、久しぶりに同じベッドで眠りについたのだった。