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平穏死

2018.04.08 07:34

https://dot.asahi.com/dot/2017122700054.html   より

元フリーキャスターの小林麻央さんが2017年6月、34歳の若さで亡くなった。最期を迎えた場所は、家族と過ごすことができる自宅だった。好評発売中の週刊朝日ムック「さいごまで自宅で診てくれるいいお医者さん」では、ベストセラーとなった『「平穏死」10の条件』などの著書がある長尾和宏医師に、その選択の意義について語ってもらった。

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 自身の病状や感情をここまで素直にかつ詳(つまび)らかにブログでつづった有名人がこれまでいたでしょうか。若くて美しい芸能人ほど、がんになった自分の姿を隠したがるものですが、小林麻央さんは死の2日前までブログを更新しました。

■家族の顔を見て過ごし痛みが少ない

 彼女が最期の場所、「平穏死」の場所に選んだのは自宅でした。その選択のカギとなるのは、小さい子どもです。小さい子どもは、病院に泊まることができません。子どものために長くいっしょにいたい、子どもの中にちょっとでも自分の記憶を刻みたい。そう思って、自宅を選ぶ場合が多いです。「在宅を選んだ」というより「子どもを選んだ」というほうが正しいかもしれません。しかし、それは最良の選択でした。

 多くの人は、病院を退院することを心配したかもしれません。在宅医療は、病院よりも痛くてつらいのではないかと思っている人がまだ多いですが、むしろ、家族の顔を見て過ごせるので痛みが少ないことが多いのです。

 病院から退院した日のブログには、「やはり我が家は最高の場所です。」「今日から、自宅でお世話になります!!」とつづられている。その後も「昨日は一日、(中略)痛みで七転八倒していました。ですが、夕方最終的に、在宅医療の先生に相談し、忘れていた座薬を試したら、ようやく落ち着くことができました。」「今朝も在宅医療の先生がいらして、症状に合わせ、お薬や点滴の量を調整して下さいました。心強いです。」と書かれています。

 当初は在宅医療に不安があったようですが、徐々に信頼していった様子がうかがえます。自宅でも病院と同様の緩和ケアを受けられることを世間に知らしめたと思います。麻央さんは、在宅医療のよさを理解し、笑顔で、愛する家族に見守られながら、自宅で旅立たれました。まさに、自宅という「最高の特別室」での平穏死でした。偶然ではありますが、多くの人に、在宅医療のよさを知ってもらう機会になったと思います。

長尾和宏(ながお・かずひろ)/医師。医療法人社団裕和会理事長、長尾クリニック院長、日本尊厳死協会副理事長


https://dot.asahi.com/wa/2015112700086.html?page=1            より

死期が迫ったときに延命治療を断って穏やかな最期を迎える――。「平穏死」や「尊厳死」と呼ばれるそんな死に方を、病院ではなく自宅で迎えたいと希望する人は多い。

 家族は、その希望をかなえてあげたいと思うものだが、あわてて救急車を呼んでしまうと、延命治療がなされて、なかなか死ねない状態になってしまう。救急隊や搬送される病院は、延命治療をするのが仕事だからだ。

 とはいえ、自宅で放置して医師の死亡診断がなければ、不審死とみなされて警察の調べが入ることもある。

「もし自宅での看取りを希望するならば、まず、看取りのできる在宅医を見つけることが必要です」

 そう話すのは、『「平穏死」10の条件』(ブックマン社)などの著書がある長尾クリニック(尼崎市)院長で、日本尊厳死協会副理事長を務める長尾和宏医師だ。

 在宅医とは、定期的に患者の自宅を訪問して診療をおこない、本人や家族の呼び出しがあれば24時間365日いつでも駆けつけてくれる医師。それぞれ「訪問診療」と「往診」と呼ばれ、そうした医療を「在宅医療」と呼ぶ。現在では、訪問看護や訪問介護などと組み合わせて地域包括ケアの一部として考えられる場合が多い。

 長尾医師はこう説明する。

「いい在宅医を選ぶポイントは、三つあります。まず、[1]自宅から近いこと。[2]医師との相性。そして、[3]看取りの実績があることです」

 自宅から近いということは、在宅医療ではきわめて重要な条件だ。

 たとえば、がんの手術を受けるなら、遠くても手術が得意な大病院や「名医」を求める価値はあるだろう。しかし、在宅医療の場合、遠いと緊急時に医師の往診が間に合わない。医師が近くにいることが最大のメリットであり、中学校の校区を目安に探すのが理想だという。

 自宅から近いことの次に重要なのが、医師との相性。どんなにいい在宅医でも、患者や家族にとって合わないと、長くは続かない。

 3番目の看取りの実績は、これまで一般の人が情報を得る手段がなかった。

そこで、編集部が、在宅医療をおこない厚生労働省が定める要件を満たす診療所3980件の報告書を、厚労省の下部組織で各都道府県にある厚生局に情報開示請求。今年6月刊の週刊朝日ムック「自宅で看取るいいお医者さん」に看取り実績などの公的な情報を掲載した。

 長尾医師は話す。

「これまで講演会などでよく、『どうしたら看取りの実績がわかるのか』と質問を受けましたが、一般の人に紹介できる調べ方がありませんでした。しかし、このムックが出たことで『これを参考にして選んでください』と言える資料ができました」

 在宅医療をおこなう診療所のことを在宅療養支援診療所といい、全国に1万数千件あるとされる。その中でも、厚労省が定める基準の「自宅看取りの年間件数4件以上」「緊急往診の年間件数10件以上」などを満たす機能強化型という診療所と、14年度の診療報酬改定で新設された「在宅療養実績加算」を届け出ている診療所を、ムックに掲載している。患者数や自宅看取り件数などの数字は、14年7月に提出された直近1年間の実績だ。

 では、このデータをどう読み解けばいいのか。

 長尾医師は、「数字は正直です。その診療所の在宅医療の質がおおよそ推測できます」とした上で、次のように語る。

「まず看取りの実績が重要です。しかしその件数が多ければ多いほど良いとも限らず、ランキングをつけてもあまり意味がありません。そこががんの手術数とは違うところ。手術は多いほど、技術の質が担保される傾向があります。しかし、在宅医療の場合、年間数件以上の看取りをおこなっている診療所は、それで十分立派な診療所と言えます。厚労省の基準の年間4件を満たすのに、どこも四苦八苦しているのが実情です