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数と形とプラトン立体

2018.04.12 06:49

http://metalogue.jugem.jp/?eid=1818  より

■私は小学校から大学までの教育課程の中で、プラトン立体というものと出会った記憶がない。数の不思議さや形の美しさに夢中になって、自ら多面体を作るようになったのはずっと後になってからのことだった。だから万人の共通概念と思い込んでひとりよがりに「プラトン立体の美しさは私たちの精神構造の反映である」とか「プラトン立体を介して世界を見直してみよう」などと口にする前に、まず「何それ?」というピュアな質問に答えるところから始めなくてはならないと考える。

■プラトン立体とは5つの正多面体のことだ。堅苦しい言い回しである幾何学的定義だと「その表面を囲む全ての面が同じ形の正多角形で、各頂点への辺と面のつながり方も全く同じになっている3次元図形」となる。正3角形4枚からなるのが正4面体だ。8枚からは正8面体、20枚からは正20面体ができている。そして正方形6枚からなるのが正6面体、正5角形12枚からなるのが正12面体である。後節でまた見直すが、プラトン立体だけが外接球・中接球・内接球の3つの接球を持つ。

■紀元前2000年頃にスコットランドで作られた石玉の形状にも見られるように、このプラトン立体はギリシアの哲学者プラトンが発見したものではない。彼より百数十年前のピュタゴラスも知っていたし、その流れを汲むピュタゴラス学派の「火は正4面体、空気は正8面体、水は正20面体、土は正6面体の微生物から成り、創造者は宇宙全体を正12面体として考えた」などという自然哲学を、プラトン自身がまとめて論じたので、後世の人がプラトン立体と呼ぶようになったらしい。

■プラトンがアテネ郊外に創設したアカデミアの入り口には「幾何学を知らざる者、この門をくぐるべからず」と書いてあったという。若気の至りで昔は「へーん、何偉そうなこと言ってやがるんだい」と反発を覚えていた。この類の不遜な性分は今だに変わらないが、プラトン立体の美しさを知るにつけ、「幾何学を知らざる者」ではなく「幾何学を好まざる者」くらいにまけてほしいと望むほどにはトーンダウンした。今となってはどの道その門をくぐることはできないのではあるが。

■異なるジャンルにある同じ数の呼応には、重要な意味が隠れているという確信があるように、異なるスケールの間に見る形の相似にも世界構造の秘密が存在するという直観がある。未だ上手く説明することはできないが、この数と形の組み合わせからプラトン立体の上に立ち上がる世界の秩序を考えるようになり、私は最近ようやくおずおずと「プラトン立体の美しさは私たちの精神構造の反映である」と主張し、「プラトン立体を介して世界を見直してみよう」と口にするようになった。

■プラトン立体も全部で5つある。5は特別な数である。黄金比を生み出し、人体や生命にも直接関わっている。オクターブに対するペンターブ。ペンターブシステムとは世界を<5=1つ上の新たなる1>として見る世界認識法だ。例えば手の指を5つのプラトン立体に見立てれば、正4面体は他の4指をまとめて握り拳にする親指に当たり、全身では四肢を用いて1人の人間を統合する頭部がそれに当たるだう。…では先ずプラトン立体の最初であり最後でもある正4面体から見ていこう。

世界モデルとしての正4面体

■現在の科学的常識では、今から約46億年前に地球が形成された。そして約36.5億年前に海中で最初の生物である藻類が発生した。水と油は混じり合わないというのが常識だが、何事にも例外はある。例えば卵黄は水と油を結び付けてマヨネーズにするし、石鹸は油汚れを水に浮かべる働きをする。このように1つの分子の一端が油に馴染み、もう一端が水に馴染む性質を持つ物質をアンフィファイル(※)という。

■このアンフィファイルの分子の集まりをコアセルベートと呼ぶ。生物の膜はシート状に2分子の厚さだけ並んでいる。この油に馴染む方が内側に、そして水に馴染む方が外側に整列している生命の基本構造は二分子膜と呼ばれる。そしてこの薄膜が、水の中で自然に閉じて液胞というものになった。それは全くの原始的存在ではあるが、自らとそれ以外の世界を細胞膜で内と外に区別することに成功している。

           (※)amphifile…科学技術用語で「両親媒性物質」と訳される。

原始地球での化学反応から発生したアンフィファイルが、自他の区別を生じる液胞を創り出し、液胞がピロリン酸塩を生み、ピロリン酸塩はケト酸を、ケト酸はアミノ酸を創り出した。そしてアミノ酸は核酸を作り、核酸が遺伝子コードを創出した。そしてさらにこのような化学物質が集合して最初の細胞を形成して最初の生物となり、現在に至るまで進化を伴った生命の再生産を繰り返しているのである。

■さらに今度は地球の歴史が開始してから36.5億年の後、生物は自らの内に生命の場であった海を包み込んで上陸を開始する。これは海中から大気中への環境シフトであり、自己と環境、内と外という対性をより明確に区別させている。この上陸は地質学的な大過去の出来事なだけではない。私たちもまた、水生生物である胎児から大気を呼吸する人間へと、環境の激変を通してこの世に生まれてきたのである。

■正4面体とは、ちょうど原始の海の中の液胞のように、そしてその海を内包させて上陸した生物のように、最小の構成要素(面・点・線)でこの3次元空間を内と外とに2分している正多面体である。しかし自らを正4面体の反転と重ね見ることで、私たち人間存在は自我や身体で閉じられた閉鎖空間などではなく、世界に向けてあきれるほど開かれたクラインの壷なのだという世界観に至るかも知れない。

■でもなぜ、私たちがこの縦-横-高さの3次元空間において1番馴染んでいる3軸直交の立方体(正6面体)ではなく、正4面体なのだろう?実は正6面体の系ではなく正4面体の系で見た方が、次元連結の対応がシンプルなのが分かりやすいのだ。0次元は点が1個,1次元は線分で端点が2個,2次元は正3角形で点が3個,3次元は正4面体で点が4個,4次元は正5胞体で点が5個…というように。

果たして目の前の正4面体を見詰めているうちに、全世界をひっくり返して自らの内面に包み込んで、この世界を創出している他ならぬ自分自身が、実は内と外を作っているのだというような実感を味わえるだろうか。私たちは正多面体が分けている内面でも外面でもなく、実はその界面そのものであるという記憶を。…いや、急いては事を仕損じる。何はともあれ、まずは基本から始めることにしよう。

■炭素の結合角(腕同士で作る角度)は109.5度が最も安定すると考えられている。例えばメタン(CH4)分子の重心にある炭素の4本の腕は、この正4面体をなす角度に突き出て4つの水素と結合している。また同素体が複数存在するリンのうち原子4つからなる分子である白リン・黄リン(P4)は正4面体構造を取る。リンは水素・炭素・窒素・酸素と共に私たちのDNAを構成する5つの元素である。

そもそも正4面体とは何か

■人間の視覚系は絶え間なくパターンを見つけようとする。最もシンプルな例は、近接した点と点を結びつけて線として認識してしまうことだ。これは意識する前になされている無意識的な操作であり、実際には何もないところにまで見えてしまう関係線は、通常錯視として解釈されている。しかし単なる進化過程の勇み足ではなく、視覚の原初的反応と直接関係を持った、時空を超えた能力なのかもしれない。

■先ず点が1つ。「点」は0次元である。次に点が2つ。2点の間に関係線が引かれる。「線」は1次元だ。点が3個だとこれらをつないで正3角形の「面」ができる。2次元である。さらにもう1つ点を加えよう。4つの点を6本の力線がつなぐと、外部と内部を分ける正4面体ができる。3次元である。余計な設定がなければ各点と各線は単純で安定した位置関係を保ち、それが最も対称性が高い形となる。

■それにしてもそもそも正4面体とは何だろう。自然界は無駄をしないという表現があるが、正4面体は最小の素材、つまり4の点・4つの面・6本の線で、3次元空間を内と外の2つに区分する単位ユニットだ。この内側の閉鎖空間を専門用語で「胞」という。この立体に対する視座は外側からだけでなく、内部側にも想定できる。この内と外という交換可能な双対があって初めて立体は存在できるのである。

■「4面体は宇宙で最も単純な最小の構造システムである」とバックミンスター・フラーは言った。あらゆる多面体は4面体を構成要素として再分割できるが、4面体より少ない構成要素の多面体には分割できない。また自然のあらゆる構造が4面体から形成されていることを化学者や治金学者や生物学者たちは発見した。この様々な4面体のバリエーションの中で最も対称性が高いものが正4面体である。

幾何学的に言えば、正4面体は5つあるプラトン立体(正多面体)の内の1つで、内接球・中接球・外接球の3接球を持ち、また7本の回転対称軸を持っている。5つのプラトン立体において、正6面体と正8面体、正12面体と正20面体という双対関係の立体があるが、正4面体だけは自分自身と双対の関係である。直角90度から19.5度引いた70.5度の2面角と、19.5度足した109.5度の中心角を持つ。

■正4面体はそれぞれ面・点・線の強調によっても表現できる。まず面の強調では正3角形4枚を組み合わせることで下図左のような正4面体ができあがる。また点の強調では同じ大きさの球体4つを互いに接するようにして積むと図中央のような正4面体となる。(重心をつないだ形に注目。)線の強調では同じ長さの6本の棒を1点に3本が集まるようにつなげば、図右のようなフレームの正4面体となる。

■正4面体が点・線・面で結合することで異なる構造と特性を持つものが生まれ、さらに胞を交差・相貫させることで他の多面体を生成していく。例えば双対に交差させて頂点をつなぐと正6面体となり、5重対称性を持つよう相貫させて頂点をつなぐと正12面体となる。そして面点変換すると正6面体は正8面体に、正12面体は正20面体となる。これで5つのプラトン立体が出揃うが、詳細は後でまた見よう。