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ベクトル平衡体から正20面体へ

2018.04.12 06:46

http://metalogue.jugem.jp/?eid=1829  より

■「1つの球体に同じ大きさの球体は最大いくつ接することができるか?」という最密パッキング問題の、3次元空間における解は12個だった。この時、外側の12個の球の重心をつなぐと、13種類あるアルキメデス立体の1つである立方8面体になる。この立体は各頂点間の距離も各頂点と重心との距離も全て等しい非常に安定した形状なので、バックミンスター・フラーはこれをベクトル平衡体と呼んだ。

■ベクトル平衡体の要素は点12、線24、そして正8面体由来の正3角形の8面と正6面体由来の正方形が6面で合計14面である。ベクトル平衡体には整数次の殻ができる。殻とはこの各面が、稜線部分の数は重なるが、それぞれ3角数と4角数(※1)として増大していくと考えることもできる。第1層は12、第2層は42だから中心の1個も数に入れると(1+12+42=)55となる。55は10の3角数でもある。

■ベクトル平衡体の第n層の総数は<10・n^2+2>で表される。第3層の92は自然界に存在する最大の元素U:ウランの元素番号でもある。以降第4層は162、第5層252、第6層362…という具合に続く。ベクトル平衡体の第n殻の総数がn2乗の10倍に2を足すとは、人間の精神構造が10進法をベースにしつつ世界を12で括り閉じていると捉えることとも深く関わっていることの目に見える形ではないだろうか。

■3次元図形を軸を中心に360度回転した時、2回以上の整数で対称性を取り戻す時、その軸を回転対称軸という。プラトン立体の回転対称軸の総数はその要素である点・線・面の総数の半分である。正4面体は点と面と線の総和が4+4+6=14なので、回転対称軸はその半分の7本だ。正6面体と正8面体の要素の和は26なので、その半分の13本だった。そして正12面体と正20面体は62の半分の31本である。

■正4面体を自己相貫させると正6面体と正8面体が生じた。しかし同様にして正6面体と正8面体を相貫させても、そこから正12面体と正20面体は生まれない。正12面体はその各面が正5角形であり、正20面体は各頂点に5本の線が集まっている。この形状からも分かる通り、この2立体は黄金比を生む5重対称性を持つ。ではいかにしてプラトン立体の正12面体と正20面体に繋げることができるのだろうか。

■図中央に示したように正4面体を5重に自己相貫させると、正12面体と正20面体へと繋ぐことができる。図左はその頂点を繋ぐと正12面体となることを示したものであり、図右は内部で5重に重畳している部分が正20面体であることを示している。また正6面体の5重自己相貫体の頂点を繋いでも正12面体となる。しかし正8面体の5重自己相貫体の頂点を繋いでも正12面体とはならず、20-12面体となる。

■また正6面体及び正8面体に中接するベクトル平衡体を変形して正20面体に至るという方法もある。1つの球体に12個の球体が接した細密パッキングの形から、中心にあって見えない13個目の球体を取り除けばそこに空間ができる。すると残る12個の球体はそのスペースを埋めるように少しずつ移動して安定する。その変形後の12個の球体の重心を結べば、その形は正12面体の12個の頂点であることが分かる。

■基本的にはこの最密パッキングの13個の球から中心の1個を抜き出す操作と同じことだが、正6面体と正8面体から正20面体を切りだす操作を簡単に見てみよう。正6面体の各面を直交3軸方向に2分する線を、それぞれ1から1/φに縮めて、その12の端点を結ぶと正20面体になる(図左)。また正8面体の各面の面積が1/4だった正3角形の各点を、稜線の1/2の位置からφ/2の位置までスライドさせると、正方形の面も2つの正3角形に折れて正20面体となる(図右)。

プラトン立体とケプラー・ポアンソ立体

■正3角形と正方形は、すぐ隣りの頂点を飛び越して頂点をつないだ図形を描こうとしても不可能だ。正5角形で初めて5芒星が描け、正6角形には正3角形2つからなる6芒星が描ける。正7角形には1つ飛ばしの太った7芒星と2つ飛ばしの痩せた7芒星が描け、正8角形には1つ飛ばしで正方形2つからなる8芒星、2つ飛ばしでひと筆書きの8芒星ができる。以下、正9角形以降も同様に多芒星が描ける。

■2次元平面の多角形には1角形・2角形がなく3番目の3角形から始まっている。同様に多芒星には3芒星・4芒星がなく3番目の5芒星から始まっている。3次元空間のプラトン立体とケプラー・ポアンソ立体の関係もこの多角形と多芒星の関係に似ている。ただしプラトン立体にはさらに面の数が正3・4・5角形だけに限られ、そして点に集まる線の数も3・4・5本だけが許されるという制限があった。

■プラトン立体には、正4面体・正6面体・正8面体・正12面体・正20面体の5種類しか知られてなかった。しかしケプラーは正12面体と正20面体の辺を星型化することにより、1619年に小星型12面体と大星型12面体の2つを発見した。またほぼ2世紀後の1809年に、ポアンソがその双対立体である大12面体と大20面体の2つを発見した(※1)。この4立体をまとめてケプラー・ポアンソ立体と呼ぶ。

■プラトン立体とケプラー・ポアンソ立体の最大の違いは、前者が凸多面体であるのに対し後者は凹多面体であるということだ。なお正12面体と正20面体及び4つのケプラー・ポアンソ立体は、みな黄金比を生む5重回転対称性を持つ。ここでこの9立体を戯れに10進法の1~5まで及び6~9までの数と対応させてみる発想は、さほど悪趣味ではなかろう。なお数字の0に当たるものには球体を据えてみた。

■プラトン立体の定義を緩めて、面が同一ではなく複数の正多角形でも良いアルキメデス立体は13種類あった。この双対立体のカタラン立体も13種類あるので合わせると26種類になる。また全ての面が正3角形の凸多面体のデルタ多面体は全部で8種類(3種類はプラトン立体)ある。さらに面が全て同一の菱形のみで構成されている等面菱形多面体は4種類存在する。星型多面体はここでは言及しない。

■全ての面が正多角形で全ての辺の長さが等しい凸多面体のうちで、プラトン立体・アルキメデス立体・アルキメデスの角柱・アルキメデスの反角柱を除いた立体をジョンソン・ザルガラー立体と言う。これらは全部で92種類あるが、この92という数は自然界に存在する最大の元素ウランの原子番号(陽子数)や、正4面体を除く4つのプラトン立体の面と点の総和数などを想起させる興味ある数である。

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(※1)1811年にオーギュスタン=ルイ・コーシーが星型正多面体は全部でこの4種類しかないことを証明した。