クワイエットルームにようこそ
クワイエットルームにようこそ
2007年12月2日 シネカノン有楽町1丁目にて
(2007年:日本:118分:監督 松尾スズキ)
くせもの・・・松尾スズキ。
この映画の原作、脚本、監督をしていますが、前作『恋の門』に続き描くのは「若者」なんです。
しかし、その若者を見る目は、シビアでなんとも冷たいものを感じます。
フリーライターとして忙しい生活、乱れた食生活、投げやりなような日常・・・・酒を飲んでは、睡眠薬を飲み、煙草がやめられなくて、自傷的とも言える生活をしている女性、明日香(内田有紀)28歳。
お笑いバラエティ番組のライター(宮藤宮九郎)との同棲生活もボロボロ・・・・
そんな時に、気がついたら、真っ白なメタリックな部屋のベッドで、体を拘束されている・・・ここはどこ?
から映画は始まります。
映画は、忙しい荒れた生活をしている明日香と、自殺未遂をして精神病院に入った明日香・・・が平行して描かれます。
精神病院には、拒食症の女の子(蒼井優)、過食症の女性(大竹しのぶ)などがいます。
明日香は自殺しようとして、睡眠薬を多量摂取したわけではないのですが、結果としては自殺行為。
上手くいかないことばかり・・・鬱屈した明日香のイライラとした表情が、なんとも、痛々しい。
この映画に出てくる人は、どこか痛々しいのです。
そんな鬱屈した女性に腫れ物でもさわるようにしか接することのできない同棲相手。
「わたしって鬱陶しい?」
「・・・・・・・・・うん、鬱陶しい」
そんな会話も、なんとも痛い。
悩みや鬱屈を抱えて、明るくない人のことを、「重い」というようになったのはいつからでしょうか。
「お前、重いよ」そんな残酷でワガママな言葉の方が、ずっと重いのに。
しかし、この映画では、そんな重い女性が、過去をひきずりながらも、なんとか生きていく・・・という決心を描いています。
内田有紀は、やけくそになったときのあばれ方とか、半端ではなくて、ただの綺麗な女優さんという、特別待遇扱いなんてされていません。
それは蒼井優も大竹しのぶも、クールな看護婦、りょうも同じことで、綺麗な女優さんを綺麗な映像世界で、遊ばせるなんてことは松尾スズキはしない。
デフォルメされているけれども、出てくる人たちは若くてもなんとも、痛いのです。
でも、痛みがあるから、痛みがわかるのではないか・・・明日香は、最初は精神病棟なんて出たくて仕方ないけれど、考えが少し変わる。
入院前だったら、「鬱陶しい」なんて言われていたら、あばれるのでしょうが、精神の多少の安定を得た明日香は、ただ、黙っているだけで、それを認める。
でも、だから、なんなんだ・・・という独特の考え方が、ありますね。
綺麗事なんて、いくらでも言えるけれど、実際はどうなんだ?
そんな事を、黙って発している松尾スズキ・・・の姿が、スクリーンの向こうにぼやけて見える・・・そんな映画です。