白い馬の季節
白い馬の季節
季風中的馬/Season of Horse
2007年11月28日 神保町 岩波ホールにて
(2005年:中国:105分:監督 ニンツァイ)
モンゴルの映画・・・というと、緑あふれる大草原に、遊牧民、素朴でほのぼの・・・といったものが多い中で、この映画は、「今のモンゴル」を扱っていているところが他のモンゴル映画とは、違うものになっています。
遊牧民が多かったモンゴルでも、どんどん人々は街に出て行く・・・それは、干ばつや大雪で草は枯れ、放牧が実際出来ない状態であることと、ジャガイモなどの農業作物がどんどん進んで、緑というものを減らしている・・・という現実があり、また、映画にも出てきますが、そんな危機状態にある草原を国が放牧禁止として保護しようとする動きがある、という事です。
映画はある放牧一家です。
父と母、息子の3人家族。
放牧ではもうやっていけなくて、息子を街の学校にやるお金ないから・・・と言うと、学校に行きたがって男の子は泣いてしまうところから始まります。
もう、羊を売っていくしか・・・奥さん(ナーレンホア)は、生活を変えて街に出よう・・・とことあるごとに夫に訴えますが、夫(ニンツァイ)は無骨な人で、放牧以外で生活していく気はない、となんとか放牧にしがみつこうとします。
映画は、そんな一家の葛藤を描いていて、家には白い馬がいますが、もう年老いて使い物にならないけれど、家族の一員でずっと一緒にいたから、もう使い物にならないから売ってしまうしか・・・ということになり悩む夫です。
この白い馬というのが、モンゴルの放牧民を現わしています。
もう、年老いて使い物にならない=もう生活していけない放牧生活。
奥さんは、ある人から、手作りのヨーグルトが美味しいから、道で売ったらどうですか?と言われて、ヨーグルト路上販売などするけれど、夫はいい顔しないし、そうそう売れるものでもない。
羊などを売ろうとしても、ちゃっかりとした商売人に、いいようにピンハネされてしまうのです。
夫を演じたのが監督、脚本、主演をしたニンツァイさんですが、本当に無骨で男らしいといえば、聞こえがいいけれど、ある意味、頑固で変化についていけない無骨な人でした。
奥さんを演じたナーレンホアは、従順な、でも、前向きに考えるという強い女性を演じていました。この映画のプロデューサーでもあります。
さて、白い馬は、仕方なく売られていきますが・・・・何処へ売られて行ったのか・・・そしてそれを知った夫は・・・・という迷いを経て、そして白い馬は、また家族のもとにもどり、そして、とうとう街へ出て行く決心がついた家族から、祝福をされて放たれる・・・
白い馬が、草原でなくて、道路をぽつぽつと歩いていく姿と、街に出るのだから・・・と着慣れない洋服を不器用に来た夫が、ぽつぽつと歩いて行く・・・この2つは実は同じ事を現わしていると思います。
新しい世界へ、飛び込んでいくというより、仕方なく、不安を感じながら歩いていく・・・そんな姿。
出てくる草原も茶色で、枯れてしまった風景が多く、道路があって大型トラックが行き交う。
なくなりつつある草原への想いもありますが、放牧地を鉄線で囲まれて、保護だから・・・放牧立ち入り禁止だ・・・と一方的に言われて、怒るそんな姿も、今、環境問題が騒がれているなかで、「ただひたすら保護すればいいのか」という問題も提示しています。
息子が、また小学生くらいなのですが、学校に行きたいといって泣くけれど、白い馬と別れる時も大泣きする。
学校と白い馬・・・どちらか、とるしか方法がない・・・そんな現実を見せる男の子の涙。