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更夜飯店

ヘルプ・ミー・エロス

2018.03.11 20:44

ヘルプ・ミー・エロス

Help Me Eros/Bangbang Aishen

2007年11月23日 有楽町 朝日ホールにて(第8回東京フィルメックス)

(2007年:台湾:104分:監督 リー・カンション)

コンペティション作品

 いやいや、映画というものは観てみないとわからないものです。

タイトルと紹介の一枚の写真では、優先度、期待度・・・どうもわたしは、エロスとつくと、観たい!という気持がひいてしまうのでしたが、この映画、結果からすると、今年の東京フィルメックスで観た映画の一番、お気に入り、ということになりました。

いや~好きだな、この映画。

 何が、って映像美。

どこを、どう切り取っても、完璧といえるくらい映像美なのです。

映像「美」といっても色々あるわけで、この映画の、色合いは透明感と落ち着きと鮮やかな色合い・・・ステンドグラスのような印象を残します。

 描いているものは、いわゆる欲というもの。

性欲、食欲、物欲・・・といった欲づくしの映画です。

また、主人公は、落ちぶれても、部屋で大麻を大事に育てているし、ビンロウと呼ばれる、ヤシの実をすりつぶしたようなものをはさんだ木の実(嗅ぎ煙草と同じような効果があるそうです)、煙草、酒・・・そして宝くじや、日本でいう「命の電話」・・・に依存、すがる姿をよく映しています。

 観光地の風景のようなわかりやすい美しい風景を、キレイキレイに撮るのは、もう、テレビでも何でもあり、ですが、この映画ではそういった「わかりやすい」綺麗なものは出てきません。

夜の街の風景、ビンロウ売りの露出度の高い、コスプレかキャバクラのホステスみたいな、エロエロの格好をした女の子たち、次々と作られる料理・・・そういったものを、大変美しく、透明度の高い映像で、なめらかに「堕ちていく様子」を映します。

 監督、主演は、ツァイ・ミンリャン監督の映画の主演をしていた、リー・カンションですが、ツァイ・ミンリャン監督がプロデュースをして映画を監督した2本目だそうです。

 最初に、夜のビンロウ売りの屋台が映ります。

煙草と一緒に、すりつぶしたビンロウをはさんだ木の実を売っているのは、肌の露出度が高い若い女の子です。

鉄の棒があって、車が近寄ってきて「ビンロウちょうだい」というと、その棒につかまって、クルクルと滑り降りてきていかにも「チラリ」と肌を見せるようにして、持ってきてくれる・・・という。

ビンロウ屋台合戦の結果、売子の女の子の服が過激になっていくのを台湾政府が規制したというほど、一瞬、これは「売春婦なのか?」と思ってしまう女の子たちです。

 主人公は株式投資で、全財産を失った男(リー・カンション)

株式のボードを、じっと見ているだけなのですが、もう、家賃も払えない・・・かといって働く気もおきない、部屋のインテリアなどを売りに歩くくらいです。

そのインテリアの数々でかつては、金持のいい暮らしをしていたんだな・・・とわかります。いかにも・・・贅沢品なのですが、もう、質屋行き。

 男はビンロウ売りのあるマンションに住んでいる。

ビンロウ売りの若い女の子とのセックス。部屋で育てている大麻。虚無感に襲われると、命の電話に電話して、「もう死にたい」と愚痴を言う。

でも、死ぬ勇気すらない男は、ひたすら若い女の子とのセックスにおぼれる・・・。

命の電話で、男の電話を受ける女性は、とても太っている。

夫が有名な料理研究家で、家でたくさんの料理を作って食べているうちに・・・太ってしまった。

夫は、本格的に料理を作る・・・ソーセージ、腸詰めも自分でつくる・・・そんな料理のグロテスクもよく出てきます。

 男は宝くじに、残り少ない全財産をかける。

夜の道を、宝くじ当選発表実況中継をスクリーンで流している車をひとり、追いかけて、「お金」にとりすがろう・・・と走る姿なんて・・・。

 料理研究家の夫は、食材の大量のうなぎをバスタブに入れる。

もう、自分には興味を持っていないと欲求不満な太った妻は、そのうなぎのバスタブにひとり、つかる。

男が、セックスするときの布団は、なぜか細長いクッションを丸く丸めたもの。ずるずるひっぱるとニョロニョロと長いクッション。

腸詰めを作る課程も丁寧にとりますが、ニョロニョロ~~~~。

 映画の後の監督への質問で、「監督はニョロニョロしたものがお好きなんですか?」っていうのがあって、笑ってしまったのですが、真面目に、「この映画で、ニョロニョロしたもの・・・を観て何を想像されたか?その通りのもので、性です」ときっぱり言われていましたが、性を描く時にこういうメタファーの連続というのは、衝撃的というより、インパクトありますね。

いやらしい、というより、「欲」の象徴。

 監督は、「エロス」の事を愛神という言い方をしていました。

満たされないもの、空虚を満たすもの・・・それが愛の神なのではないだろうか。

映画の中でも、聖書の言葉がちらりと出てきたり、決して宗教を描いたものではないのですが、弱い人間たち・・・がすがるもの・・・欲がゆえに、すがりつきたくなるもの・・・それが愛の神・・・エロスなのだろう、と。

 そして美しい幻想的なラスト。

一粒の種から、たくさんの種がとれる・・・そんなイメージと、ビンロウ売りの女の子が白い天使の羽根をつけて、空から降る白いはずれ宝くじの雪の中でたたずむ。

空から降りそそぐはずれ宝くじは、何ももたらしてくれなかった。それでも、下にはちょこん、と天使がいるのです。

 決して明るい「話」ではないのですが、救いがたい暗い気持にはならない・・・グロテスクなものを見ても、不快とは思わない。

むしろ、どのシーンも瞳の快楽の映画なのです。いや、本当に救われる、ヘルプ・ミー!と叫んで救われる・・・って何?

 ツァイ・ミンリャン監督の映画では出演はしても、台詞が一切なかったり、印象からすると無口のようなリー・カンション監督が、スーツ姿(映画祭だとフランクな格好が多い中)で、実に理路整然と、何を聞かれてもはぐらかさず、答える頭脳明晰さが、映画の後のプラス感動ですね。