雑念エンタテイメント vol.3<もーにんぐしー>
「地獄でなぜ悪い」
皆さんが思い浮かべる「編集者」ってどういう感じだろうか。
多くの人は「原稿を書く」という動作を思い浮かべる。真夜中にスタンドライトの下、頭を搔きむしりながら推敲を重ね、朝方にやっと完成させた渾身の原稿を、エンターキー思いっきし叩いて送信する。そしてそのまま倒れこむ。映画やドラマでよく見る感じだ。
ちょうど一年前の今頃。私は雑誌編集の仕事をしていた。半年ちょっとの短い期間ではあったが、その頃の生活といえば朝8時には出社して12時間は会社で仕事。校了が近づいてきたら食事せず仕事(何か食べると頭がにぶるから)。どんな生活の合間でも書ける原稿があったら書く。バンドでのフェス出演の前に車で原稿作成。遠征先の楽屋で校正。宿泊先で誌面チェック、打ち上げ行けず撃沈爆睡。もう本当にこんな調子だったので見ている家族もバンドメンバーも友達も、心配しつつ手を付けられない感じになっていたと思う。
最終的には健康状態もメンタルも終了。ご飯の味はしないわ三半規管狂うわで音が遠くなってきていた。月曜から終電で帰るハメになった日に銀座線表参道のホームで大泣きしながら友達に限界を告げ、その一か月後には会社を辞めた。地獄のような日々でもあったが、編集という仕事から学んだことはとても多く、その知識はいまも物事を考える上でとても役立っている。
編集の仕事は大きく分けると三ステップに分かれていると思っている。
まずは、テーマの設定。これが一番大事。雑誌であれば「日本の若者が盛り上がるような最新ヤングカルチャーを発信する」、「結婚を考えているカップルのための情報誌」というような、雑誌で言う特集ではなく、発行される理由=目的を明確に定義する。
その次に、そのテーマに沿って、コンテンツ(内容)を決める。例えばゼクシィみたいな結婚情報誌であれば、特集で「結婚までに準備するもの」「ハネムーン旅行」、連載で「みんなのプロポーズエピソード」「結婚式までにいい女を目指す!」みたいなものが考えられる(なぜか例えに自分が全く読まないジャンルを選んでしまった)。
そして最後がアウトプットだ。つまり原稿化する作業。原稿にも種類があって、普通の文章から対談している話し言葉のままのもの、エッセイ的なもの。一つの内容でも、どういう風に見せれば読んでいる人が楽しいか、飽きないか、あと全体のバランスは、という事を検討しながら形にしていく。まあ細かく言えばもちろんまだまだあるが、ざっくりはこんな感じだ。
この三ステップの考え方は、様々なことに応用できると思っている。例えばバンド。仮にフルアルバムを作るとしたときにも、テーマとしてアルバムコンセプトや聴いてほしいターゲットを設定。コンテンツは曲。アウトプットはレコーディングなので、バンドメンバーで普通に演奏するもののほかに楽器弾かずアカペラでやるとか、オーケストラと一緒にやる、みたいなバリエーションが考えられる。そういう意味で言えば、ライブハウスでの企画なんかも、同じ骨組みで考えていくことができる。
まあ頭が良い人はこんなんお前に言われなくても普段からやっとるわーい!という感じなんだと思いますが、頭の中がいつもごちゃごちゃしている私にとっては、こういう考え方の順序を学べたことはとても大事なことだった。生活においても、服を買ったりご飯を食べたりどこかへ出掛けたり、いわば誰だって自分の人生を編集しながら生きている。そんな気付きも含め、この内容は大袈裟だけど私が地獄の日々の中で得た知の財産だ。地獄でなぜ悪い。
文:もーにんぐしー