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紅く色づく季節

平和と強い意思

2022.11.01 17:46

【詳細】

比率:男1:女1(又は男2:女2)

ファンタジー・ラブストーリー

時間:約30分


【あらすじ】

十六歳の誕生日。

婚約と同時に二年後の結婚のため隣国へと嫁ぐことになった王女・オリヴィア。

彼女を待っていたのは婚約者である王に直接会うことが出来ないというおかしな環境。

顔も知らない婚約者。

国のための結婚。

大人の事情に翻弄されるオリヴィアだったが……


【登場人物】

オリヴィア:隣国の王女。

      政略結婚の為にこの国へとやってきた。

      自分の意思をしっかりと持つ強い女性。

      *幼少期があります


  リアム:王国の人間。

      物腰柔らかな青年。

      *幼少期があります



●王室の暗い部屋

   幼いリアムが一人で泣いている。

   そこに泣き声を聞いた幼いオリヴィアがそっと扉を開けて入ってくる。


  リアム:(泣いている)

オリヴィア:誰か、そこにいるの?

  リアム:っ!

オリヴィア:貴方は、お父さまのお友だちの子?

  リアム:あ……

オリヴィア:どうして泣いてるの?

  リアム:……兄さまたちにここに閉じ込められたの

オリヴィア:え?

  リアム:かくれんぼしようって言われて、いいよって言ったら、お前はここなって言われて……

オリヴィア:ひどい!


   オリヴィア、勢いよく部屋を出ていこうとする。


  リアム:あ、待って! どこに行くの?

オリヴィア:お父さまに言いに行くの!

  リアム:ダメ!

オリヴィア:え?

  リアム:僕が言ったってわかったら、また兄さまたちにいじめまれちゃう……


   リアム、泣き出す。


オリヴィア:(ため息)情けないわね!

  リアム:え?

オリヴィア:男の子でしょ! 男の子はこんなことで簡単に泣いちゃいけないのよ!

  リアム:だって……

オリヴィア:(リアムの傍に戻って袖で涙を拭う)ほら! しっかりしなさい!

  リアム:あぁ! 僕の顔拭いたら、涙で服が汚れちゃう……

オリヴィア:そんなの良いの!

  リアム:……

オリヴィア:いい? 男の子は強くなきゃダメよ!

  リアム:どうして?

オリヴィア:だって、将来、自分が好きになった子を一生守っていかなきゃいけないんだから!




●数年後・城内・植物園・夜・

   オリヴィアがストールを羽織り、花を眺めている。


オリヴィア:(花に話しかける)やっぱり納得いかないわ。私より長くこの城にいるお前なら納得できる?

      この城に来てもう数か月たつけれど、一度も私の婚約者様にお会いすることが出来ないのよ

      城の者に聞けば、忙しい忙しいって……私よりたった二つ年上の男の子が政務で忙しいとかって納得いく?

      そんな年の者が実権を握っているはずないわ。どうせ飾り物の王様でしょう

      ……まさか、女嫌いとか?

      それとも、もう他に王妃候補がいて、私の国との同盟という名目上、どうしても私をこの城に引き取らなきゃいけなかったから引き取ったけれど、相手にするなんてめんどくさいとか?

      ……ありえるわね。だったら、いらないって言いなさいよ!

      もう! めんどくさいな!

  リアム:(クスクス笑う)

オリヴィア:(驚いて)誰かそこにいるの?

  リアム:こんばんは、お嬢さん。驚かせてしまってすみません

オリヴィア:誰?

  リアム:怪しい者ではありません。ちょっと、花たちの様子を見に温室に来たら貴女のお声が聞こえたので

オリヴィア:こんな時間に?

  リアム:はい。花たちの観察は僕の仕事終わりの日課なので

オリヴィア:……どこから聞いていたの?

  リアム:え?

オリヴィア:どこから聞いていたのよ!

  リアム:おや? 言った方がいいですか?

オリヴィア:えぇ!

  リアム:(微笑んで)お嬢さんが花に向かって話しかけたところから

オリヴィア:最初っからじゃない! 信じられない!

  リアム:え?

オリヴィア:レディの独り言を最初から盗み聞くなんて、紳士としてどうなのよ!

  リアム:先程のは独り言だったんですか? あんなに大きい声で騒いでいたのに?

オリヴィア:騒いでなんて!

  リアム:そうですか? それは失礼いたしました

オリヴィア:そ、そもそも、盗み聞きする前に声をかけなさいよ! 

  リアム:よろしかったんですか?

オリヴィア:え?

  リアム:いろいろと溜めこんでいらっしゃるようだったので、全て吐き出されてからお声をかけようと配慮したつもりだったのですが……

オリヴィア:……

  リアム:余計なお世話だったみたいですね、失礼いたしました

オリヴィア:……別に……

  リアム:それで、どうされたんですか?

オリヴィア:え?

  リアム:安全な城内と言えども、こんな時間にお付きの者も付けずに外を出歩かれるのは感心しませんね、オリヴィア姫

オリヴィア:え……

  リアム:ん? どうかしましたか?

オリヴィア:……貴方、私のことを知っているの?

  リアム:はい、存じ上げておりますよ。我が王の花嫁様ですから

オリヴィア:(身構える)……っ……

  リアム:あぁ、身構えないでください。僕は怪しい者じゃないって言ったじゃないですか

オリヴィア:……なら、どうして私のことを知っているの? 私のことは、まだ限られた人間しか知らないはずよ。それに、例え存在を知っていたとしても、私の顔までは知らないはず。王はまだ私のことを公にはしていないのだから……

  リアム:流石、あの国の王族ですね。しっかりとした観察力と現状把握能力をお持ちです

オリヴィア:お前は誰!

  リアム:どうぞ、ご安心ください。僕はリムと申します。王の側近を務めさせて頂いております

オリヴィア:リム?

  リアム:はい

オリヴィア:証拠は?

  リアム:証拠ですか……そう言われると難しいですね……

オリヴィア:ないの?

  リアム:城内の者は私のことを知っているので、誰かをここに呼んでそれを証明してもいいのですが……それはオリヴィア姫がお困りになられるでしょう? こんな時間にここにいらっしゃるのがバレたら、カミラ夫人から大きい雷を落とされるでしょうし

オリヴィア:う……それは……

  リアム:だから、証明するのは難しくて……

オリヴィア:……

  リアム:あっ!

オリヴィア:な、何よ?

  リアム:証拠になるかはわかりませんが、これならどうですか?


   リアム、胸元に隠し持っていた短剣をオリヴィアに差し出す。


オリヴィア:それは? 

  リアム:これは王家に代々伝わる短剣です。王からいただきました

オリヴィア:……触れても?

  リアム:かまいません

   

   リアム、オリヴィアに短剣を差し出す。


オリヴィア:王家の紋章と青の宝石が入った飾り細工の短剣……

  リアム:これでは証拠にはなりませんか?

 

   オリヴィア、黙ってリアムに短剣を返す。


  リアム:オリヴィア姫?

オリヴィア:……

  リアム:(苦笑して)う~ん、証明は難しいでしょうか……

オリヴィア:(遮って)貴方の王は……

  リアム:え?

オリヴィア:陛下はどんな方ですか?

  リアム:オリヴィア姫?

オリヴィア:私はこの城に来て以来、一度も陛下にお会いしたことはありません

  リアム:え? そんなことは……

オリヴィア:あるんです! 私は陛下にお会いしたことがない……直接お姿を見たことがないのです

  リアム:……

オリヴィア:初めてこの城に迎えられた時も、王座にはしゃ幕が引かれ、お顔を拝見することは出来ませんでした。それ以降、いくら陛下に謁見をと望んでも叶えられません。皆、忙しいからと言いますが、私はそうは思えません

  リアム:……それは、なぜですか?

オリヴィア:陛下は私と二つしか違わないと聞きました。その話が本当であるのならば、陛下のお歳は十八。その年齢の方がいくら父王がお亡くなりになられたとはいえ、政務の全てを担っているとはどうしても思えないのです。陛下には他に兄君もいらっしゃいますし、この国には優秀な側近の方も多くいると聞きました……

  リアム:おぉ、それは光栄ですね

オリヴィア:はい?

  リアム:僕もオリヴィア姫がおっしゃった優秀な側近の一人ですから

オリヴィア:……本当に優秀な者は自分で優秀とは言わないものよ?

  リアム:そうですか?

オリヴィア:そうよ

  リアム:(微笑んで)そうですか。では、今度から気を付けましょう

オリヴィア:……それで?

  リアム:ん?

オリヴィア:実のところはどうなのですか?

  リアム:陛下のことですか?

オリヴィア:えぇ

  リアム:……僕から多くを語るわけにはいきませんが、陛下が忙しいのは本当ですよ

この国には優秀な人物が多くいるのも事実ですし、陛下に兄君がいらっしゃるのも事実ですが、最終的に判断を下すのは陛下御自身ですから

オリヴィア:……そうですか

  リアム:(優しく微笑んで)ですから、安心してください

オリヴィア:え?

  リアム:陛下はオリヴィア姫、貴女のことが嫌いだからお会いしないのではありません

オリヴィア:っ!

  リアム:陛下はとても不器用な方なんです。幼い頃からね。だから、少し待っていてあげてください

オリヴィア:……私は……

  リアム:はい

オリヴィア:陛下にとっていらない存在ではないのですか?

  リアム:もちろんです

オリヴィア:でも、私は陛下の素顔さえも知らない、彼のことを何も知らない……

  リアム:(嬉しそうに微笑み小声で)……本当にお優しい方ですね

オリヴィア:え?

  リアム:う~ん……僕から聞いたってことは誰にも言わないでくださいね。いろいろと問題が起こりそうですから……

オリヴィア:何をですか?

  リアム:陛下はオリヴィア様、貴女様しか妃にと望んでおりませんよ

オリヴィア:……嘘……

  リアム:本当です

オリヴィア:だって! それだったら、何故……

  リアム:ん?

オリヴィア:何故すぐにでも式をしてくださらないのですか?

  リアン:オリヴィア様……

オリヴィア:結婚は私が十八になってからなんて条件を付けて。それなのに、城には住めなんて……

      私はお人形ではありません! 女あっても王家の人間です!

      自分の運命ぐらい、いくらでも受け入れられます。待っていただかなくても陛下の妻になれますし、その為の教養も知識もすでに身に着けております。城に呼んでおいて婚約だけ、そんなの、そんなの……

   

   オリヴィア、スカートの裾をギュッと握りしめ俯く。


  リアム:姫?

オリヴィア:(はらはらと涙を流す)私では何の役にも立ちませんか?

      役に立たぬのなら立たぬと言ってください。気に入らないのなら気に入らないと言ってください。このまま何もなくここにいるのは屈辱でしかない!


   オリヴィア、泣き崩れる。


  リアム:……オリヴィア様……

オリヴィア:……

 リアム:オリヴィア、今だけ、あなたに触れることをお許しください


   リアム、オリヴィアを抱きしめる。


オリヴィア:っ! 離して!

  リアム:離しません

オリヴィア:私は、私は……

  リアム:わかっております。貴女様は、未来の我が国の王妃様です

オリヴィア:……

  リアム:でも、今はそんなこと忘れてください

オリヴィア:……

  リアム:……ずっと不安だったんですね

オリヴィア:……

  リアム:申し訳ございません。もっと早く貴女の元を訪れるべきだった

オリヴィア:……リム様?

  リアム:どうぞ、今は泣いてください。ここには僕の他に誰もおりません。貴女をただの幼い少女として接しましょう。貴女は今この時だけ、姫でもなんでもありません。王家の者としての責任も役割もすべて捨ててください

オリヴィア:……

  リアム:よく他者の視線から耐えてくれましたね

オリヴィア:(声を殺して泣く)

  リアム:これは今日、この日だけの僕たちだけの秘密にしましょう

オリヴィア:(M)その日、私はこの国に来て初めて泣いた

      ……リム様の腕の中で

      王妃候補という立場で、陛下以外の腕の中に納まるというのは許されることではないが、彼の腕の中は暖かく、どんなものからも守ってくれる、そんな安心感があった

      その日から、私とリム様の夜の植物園での交流は続いた

      彼は陛下がどんな方なのか、今何をしているのか、どんなものがお好きなのか、逆にどんなものが苦手なのかいろいろと教えてくれた

      きっと、彼なりの気遣いなのだろう。私が不安にならないようにと。私が陰で何かを言われても、それが本当に陛下の意思なのか、それとも他の者の意思なのかが分かるようにと

      時に笑いあい、言い合いをしたり、泣いてしまったり……

      あれ以来、彼が私に触れることはないけれども、彼の存在が暖かくて、私の心に平安をもたらしてくれた

      そして、ついに陛下の顔を見ることのないまま、二年の月日が流れ……




●城内・植物園・夜

   オリヴィア、ベンチに座ってリムを待っている。


  リアム:こんばんは、オリヴィア様

オリヴィア:こんばんは、リム様

  リアム:ようやく明日ですね。オリヴィア様にリムと呼んでいただけるのも今日が最後ですね

オリヴィア:……

  リアム:ずっとオリヴィア様が待ち望んでいた日が参ります

オリヴィア:……そうね……

  リアム:オリヴィア様?

オリヴィア:ねぇ、リム様

  リアム:はい

オリヴィア:私、一番最初に貴方にお祝いの言葉を言ってほしいの

  リアム:僕にですか?

オリヴィア:今まで、私のことを支えてくださったこと、感謝いたします。陛下のことやこの国のこと、政情もきっと本を読んだり、他の誰かに聞くよりも詳しく知ることが出来ました。ありがとうございます

  リアム:そんな、恐れ多いお言葉です

オリヴィア:明日になれば私も陛下のため、この国のために働きます

  リアム:よろしくお願いいたします

オリヴィア:この植物園に来ることもきっとなくなるのでしょうね

  リアム:そうですね。王妃様となれば、身辺の警護はもっと厳戒になるでしょうから。夜にお部屋を抜け出すなんてお転婆は出来なくなるでしょう

オリヴィア:お転婆だなんて……

  リアム:ご自身のお部屋のベランダの横に生えている木を使って外に出たりするのは相当なお転婆だと思 いますよ?

オリヴィア:(拗ねながら)知っていらしたんですね……

  リアム:(微笑みながら)はい

オリヴィア:リム様にはかないませんわ……

  リアム:ご安心ください。陛下にはご報告していませんので

オリヴィア:当たり前です!

  リアム:(楽しそうに笑いながら)そうですね

オリヴィア:……

  リアム:オリヴィア様? どうされたんですか?

オリヴィア:……リム様にお会いすることもなくなるのですね

  リアム:そうですね

オリヴィア:……

  リアム:オリヴィア様?

オリヴィア:今日は私の十七歳の最後の夜です

  リアム:はい

オリヴィア:今夜までは、リム様は私のことをただのオリヴィアとして見てくださいますか?

  リアム:はい。今日まではオリヴィア様の我儘もお聞きしますよ? 何かありましたか?

オリヴィア:では、最後に私のことを抱きしめてはいただけませんか?

  リアム:……オリヴィア様……それは……

オリヴィア:正直に申します。私は貴方に恋をしました。王妃候補という立場にありながら、あなたに惹かれてしまいました

  リアム:……

オリヴィア:初めてこの植物園でお会いしたあの日、不安と屈辱とでぐるぐるとしていた私の心を貴方はそっと抱きしめてくれました。泣いてもいいと言ってくださいました。私はそれが嬉しかった。初めて、私という存在を見てくれた。王族としてではなく、王妃候補としてでもなく、ただのオリヴィアとして

  リアム:オリヴィア様……

オリヴィア:私がただの少女ならと何度も思いました。ですが、私はオリヴィアです。国同士の和平のため、この国に嫁いできた者です

  リアム:はい

オリヴィア:ですから、私は明日、誕生日を迎えるとともにこの国の王妃となります。陛下の横でこの国を守っていきます。陛下とちゃんとお話しできるのか、私なぞにこの国の王妃という立場が務まるのか不安ではありますが……

  リアム:オリヴィア様

オリヴィア:リム様、貴方が教えてくださった陛下は本当に素敵な方です。それはリム様だから知っている陛下のお姿なのかもしれませんが。私は貴方の教えてくださったあの陛下のために、王妃としてお傍で支えたいと思います

  リアム:はい

オリヴィア:だから、今日、この場でただのオリヴィアとしての恋心を終えさせてください。明日からきちんと陛下の横に立てるように

  リアム:……かしこまりました。失礼いたします……


   リアム、オリヴィアをそっと抱きしめる。


オリヴィア:ありがとうございます、リム様。これで、私の恋心は終わらせられます

  リアム:僕は……

オリヴィア:いけません

  リアム:え?

オリヴィア:貴方の言葉は聞きません

  リアム:……オリヴィア様

オリヴィア:貴方は私の我儘を聞いただけ、ただそれだけです……

  リアム:オリヴィア様

オリヴィア:(微笑んで)ありがとうございます、リム様。この腕の強さだけで貴方のお気持ちはしっかりといただきました




●翌日・謁見の間

   煌びやか衣装を身にまとったオリヴィアが入ってくる。謁見の間は人払いされている。


オリヴィア:失礼いたします

  リアム:(威厳のある声で)入れ

オリヴィア:はい

  リアム:よく参られた

オリヴィア:お久しゅうございます、陛下。こうしてお言葉を交わすのは私がこの国に来たとき以来でしょうか

  リアム:あぁ

オリヴィア:本日、この日を持ちまして陛下の妻となります、オリヴィアにございます

  リアム:あぁ

オリヴィア:この身が朽ちるまで、陛下とこの国のために……

  リアム:本当に良いのか?

オリヴィア:え?

  リアム:今日までそなたは我と言葉を交わすことはなかった

オリヴィア:はい

  リアム:そなたはそんな男の妻になるのか?

オリヴィア:はい

  リアム:何故

オリヴィア:それが私の役割にございますから

  リアム:……そうか

オリヴィア:そう、考えておりました

  リアム:……

オリヴィア:私も王家の人間です。それが私の役割だということはわかっております。ですが、今はそれだけで陛下の妻になりたいとは思っておりません

  リアム:なに?

オリヴィア:私はこの国が好きです。陛下とお会いすることが出来ない間、様々な本を読んだり、お話を聞いたりいたしました。この国の全てを知れたわけではありませんが、私は私の意思でこの国を守りたいと思いました

  リアム:そうか

オリヴィア:それに……

  リアム:それに?

オリヴィア:ある方から、陛下のことをずっとお聞きしておりました。とても不器用な方だと

  リアム:……そうか

オリヴィア:ですから、陛下のことを全く知らないわけではありません

  リアム:……

オリヴィア:(楽しそうにクスクス笑う)

  リアム:姫?

オリヴィア:もう、お姿を見せてくださってもいいのではありませんか?

  リアム:……それは……

オリヴィア:では、私は一生貴方のお顔を見ることは出来ないのですか?

  リアム:……

オリヴィア:また、私のことを抱きしめてはくださらないのですか?

  リアム:……え……

オリヴィア:リム様。いいえ、我が王リアム様

  リアム:(普段の声に戻って)……オリヴィア姫、気が付かれていたのですか?

オリヴィア:はい

  リアム:何故、僕のことを……

オリヴィア:初めてあの温室でお会いした時に見せていただいた短刀

  リアム:短刀……あれだけで?

オリヴィア:はい。あの短剣は確かに王家の紋章が入っていて、陛下に仕える者が持ていてもおかしくはありません。ただ、飾り細工に王家の守り石が埋め込まれていました。守り石が入っているものを持てるのは王族の方だけです

  リアム:……流石ですね

オリヴィア:さぁ、ここまで私は待たされました

  リアム:……

オリヴィア:私が十八になるまで結婚をしなかった理由とお会いに来られなかった理由を教えてくださいませ

  リアム:……それは……

オリヴィア:もうごまかしはなしですよ?

  リアム:……僕の我儘なんです

オリヴィア:え?

  リアム:最初は本当に一国の主として、和平を結び貴女と結婚をするのが一番だと思っていました。でも、どうしてもあの時の貴女の言葉と笑顔が頭から離れなくて……政略結婚ではなく、普通にただのリアムとして見てもらいたいと思ってしまって……

オリヴィア:それは、どういう……

  リアム:覚えていませんか? 僕たちは幼い頃、一度会っているんです

オリヴィア:え……

  リアム:僕が幼い頃、まだこの国と貴女の国の間柄が穏やかだった時のこと。父に連れられて、僕は兄たちと一緒に貴女の国に招待されました。その時、兄たちにいじめられ、暗い部屋に閉じ込められた僕を貴女は助けてくれました

オリヴィア:あ……

  リアム:思い出してくれましたか?

オリヴィア:はい

  リアム:あの時。貴女に出会ったときに僕は貴女に恋をしてしまったのです

オリヴィア:リアム様……

  リアム:貴女はあの時僕に言ってくれましたね。男の子は好きになった子を一生守っていかなくてはと

オリヴィア:……はい

  リアム:僕は考えました。どうしたら貴女を守れるのだろうと……そんな時、貴女の国が危うくなったのを知りました。このままでは貴女は政治の道具としてどこかの国に行かされてしまう。それは阻止しなければならないと思ったのです。貴女の意思が、綺麗な心が土足で踏みにじられるのだけは避けねばと。それならば、僕が壁になれればと思ったのです

オリヴィア:それで、私をこの国に?

  リアム:そうです。幸い僕は兄たちよりも政治に向いていたので誰も僕の即位を反対するものはいませんでした。貴女を強引にでもこの国に住まわせ、その間に貴女の国が建て直せれば僕の方から、勝手な理由をつけ、ただの人質で結婚する気はなかったと手放せばいいと思いました。だから、十八までという長い期間を設けたのです

オリヴィア:……そうだったのですね……

  リアム:僕は僕の我儘で貴女をこの国に縛り付けました。二年という長い日々。いくら謝罪しても足りないことはわかっています……

オリヴィア:謝らないでください

  リアム:え……

オリヴィア:リアム様は私の心を守ってくださったのです。感謝こそすれど、貴方に謝っていただくことはありません……

  リアム:……

オリヴィア;私は何度も貴方に助けれらました。王としての貴方にも、仮の姿のリム様にも

  リアム:……

オリヴィア:ねぇ、リアム様

  リアム:はい

オリヴィア:私たちは今日、夫婦になります

  リアム:……それは……

オリヴィア:もちろん、決められたからではありません。私の意思です

  リアム:……オリヴィア姫……

オリヴィア:だから、ここから恋をしませんか?

  リアム:え?

オリヴィア:あぁ、違いますね。これから、好きを、愛を伝え合いませんか? 長い間すれ違って、お互いに伝えられなかった言葉を

  リアム:オリヴィア姫!

オリヴィア:リアム様、どうかオリヴィアとお呼びくださいませんか?

  リアム:オリヴィア

オリヴィア:はい

  リアム:貴女をこの腕に抱きしめることをお許しいただけますか?

オリヴィア:もちろんです、リアム様

  リアム:オリヴィア!


   リアム、オリヴィアを抱きしめる。


  リアム:もう、絶対に離しません

オリヴィア:はい。私も、もうこの恋心を終わらせることはしませんからね

  リアム:(微笑んで)あぁ

オリヴィア:(微笑む)

  リアム:(顔を近づけて)……オリヴィア、誓いの証を……

オリヴィア:はい


   リアム、オリヴィアに優しくキスをする。



―幕―




2020.10.13 ボイコネにて投稿

2022.11.02 加筆修正・HP投稿

お借りしている画像サイト様:フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)