ノートに眠った願いごと
ノートに眠った願いごと
Trace of Love
2007年11月17日 シネマート新宿にて
(2007年:韓国:108分:監督 キム・デスン)
第11回釜山国際映画祭オープニング作品。
映画祭のオープニングとクロージングは、その映画祭の性格を現わしているような気がします。
日本では、単館公開ですけれども、韓国では、大々的に公開された映画だそうです。
俳優さんというのはスタイルの良い人が多い中で、足が長い・・・と思うのは、ジム・キャリーとこの映画の主演のユ・ジテだと個人的に思っています。
足が長くくてスタイルがいいのに、顔はどちらかというとはにかみ顔なんですね。
だから、真面目な役が多いのですが、『オールド・ボーイ』では、そんなスタイルの良さを悪役にもってきたところがうまい!とうなってしまったわけですが、この映画では、ユ・ジテさん得意のキャラクターとも言えましょう。
ヒョヌ(ユ・ジテ)は、弁護士をめざす法司生なのですが、恋人はテレビ局で旅番組のディレクターをしているミンジュという女性で、プロポーズするところから始まります。
プロポーズするところからして、奥ゆかしいというか、この映画を貫く奥ゆかしさを、最初から出してきます。
大袈裟でなく、はにかむようなかわいらしいプロポーズ・・・恋人の両親に会いに行って緊張してしまう様子。
真面目で、頭が良くて、性格も穏やか・・・そんな男性です。
ところが家具を見ようと、待ちあわせしたときに、「先にデパートで待っていて」と言ったばかりに・・・突然のデパート崩壊事故。
これは、韓国で実際あった事件をモチーフにしているそうですが、ヒョヌが駆けつけた時は、もうデパートは全壊。
突然の恋人の死から、10年たって、検事にまでなったヒョヌの手元に、ミンジュの父が、ミンジュが死んだ時持っていたノートが届けられる。
そこには、仕事で韓国各地を回った経験から、新婚旅行に回ろう・・・とミンジュが丁寧に書いた「新婚旅行プラン」が書込まれていました。
10年間喪失感と、恋人を死なせてしまった責任感、罪悪感から逃れられないヒョヌが、休暇をとることになり、そのノートに書かれた場所をめぐる旅に出るのです・・・・しかし、行く先々である女性に出合う。まるで、ノートの計画を知っていて、一緒に回っているようで、不思議に思うヒョヌ。
その女性は、何故、ミンジュのノートの内容を知っているのか・・・といった謎も描かれます。
このヒョヌが旅する先々が、もう観光旅行案内のように名所揃いなんだそうです。
季節は秋。紅葉の美しい山寺や海辺など、とても綺麗な風景ですが、そこにたたずむのは、ひとりの寂しい男。
そんな男にユ・ジテはぴったりですね。
旅先で女性と知り合うといっても、すぐに親しくなるわけでなく、なんとなく・・・そろりそろり・・・と近づいていく。
主人公にあるのは、一番に罪悪感なので、そう、はしゃいだ雰囲気はなく、奥ゆかしいという表現が一番あっているように思います。
そして、死んだ恋人の父から、「もう、いいんだ・・・」と許された時の顔。
別に殺したわけでも、傷つけた訳でもなく、事故だったとはいえ、残酷なめぐりあわせになってしまった事への、誰にもぶつけられない怒りが哀しみになって映画全体を包み込むわけです。
監督は『バンジー・ジャンプする』のキム・デスン監督ですが、あの映画も恋人の死から、めぐりあわせ・・・かなりびっくりするような(強引ともいえる)ものを描いていましたが、この映画ではより円熟したものを感じました。
はしゃぐことなく、しっとりと、奥ゆかしい映画で、派手ではないけれども、しっかりとした恋愛映画だと思います。
観終わった後に、なんともいえない、しみじみとした後味を残す映画でした。