思い出の西幹道(公開タイトル:1978年、冬。)
思い出の西幹道(仮題)
西幹道/The Western Trunk Line
2007年10月27日 渋谷 シアターコクーンにて(第20回東京国際映画祭~コンペティション)
(2007年:中国=日本:101分:監督 リー・チーシアン)
第20回東京国際映画祭 審査員特別賞受賞
東京国際映画祭は、なんといっても上映本数が多いので、何を観るか・・・迷うところですが、迷わず選ぶのは「コンペティションに出る中国映画」です。はずれなし。
この映画は、結果として審査員特別賞を受賞したのですが、映像美にあふれた静かな映画です。
いかにも映画祭的な映画。
監督はロウ・イエ監督の美術監督をしていたそうですが、美術に凝る・・・というよりも、きちんとした構図で、静かな落ち着いた風景を映し出します。
人物のアップはほとんどなく、せいぜいバストショットくらいで、風景の中にたたずむひとびとの姿がとても絵画的というか写真的な映画で、ドラマドラマした部分は極力説明を省いてしまったところ、スクリーンで集中して観たい種類の映画です。
時代は1979年で、文化大革命が終わり、開放改革が始まる前・・・という空白の時期。
『孔雀 ある家族の風景』と同じ時期を舞台にしています。
人々は、熱烈に何かを支持することなく、かといって裕福、自由になったわけでもない生活をしている。
一種の狂乱の時代が終わり、すぐに新しい時代が幕開けするか?というと、なんだか、ぽかっと穴があいたような時代もあるわけです。
そんな中でのある一家。
18才の長男とまだ小学生の弟がいますが、兄は仕事をさぼってばかり。弟は絵が好き。
お向かいの家に美しい女の子が、越してくる。
かわいくて踊りが上手くて、二胡という楽器が上手な女の子。
なんとなく、兄と女の子は近づいていくけれど・・・弟はそんな年上の2人を見守っているばかり。
兄弟の家の近くは線路があり、駅がある。
学校や工場への通勤通学専用列車なんて走ってていて、兄弟はそれに乗っていく。
しかし、映画の風景に一番多く出てくるのは、画面を分割するように延びる線路。
線路の映画、といってもいいくらいで、あまり列車が走らない線路を子供たちも大人もてくてくと歩く。
電車、列車、線路・・・というのはよく映画の絵として使われるのですが、この映画ほど、線路を美しく撮った映画はないのではないでしょうか。
しかし、恋心を抱くようになった兄と少女は、なかなか上手くいかない。
逆に、口さがない近所の人々の噂になって弟は学校で、嫌がらせをうける始末。
なにもやる気がないような兄。美しいけれど、どこか頑なな少女。無口で絵を描く少年。
別にひとりでいるわけではないのに、スクリーンからは孤独・・・がたちのぼっています。
工場をさぼる兄を、弟はついていって、見届けなさい・・・と言われた時に、距離をとりながら歩く兄弟・・・・弟は見届けて、学校に向かうけれど、しばらくすると兄がそぉ~~~と工場から出てきてさぼりに行ってしまう・・・なんていうところを1シーンで描き、何度か出てきます。
それが、後の兄がいなくなったとき、ひとりでてくてく歩く弟の「ひとりぼっち」感を倍増させる
兄弟の母は、普段は口うるさいけれど、厳しいようで、何かあったら兄弟の為にはなりふりかまわず・・・になる。
あれほど、兄には厳しかったのに、軍隊に入るとなると・・・・わあわあ心配して、あれこれ走り回るお母さん。
少女は街を出ていってしまい、残されるのは少年ひとり。
孤独と静けさ・・・そんなものをきれいな絵で映画にするってとても難しいと思います。
起承転結きっちりしたドラマのほうが、どれだけやりやすいか。
しかし、風景映画を貫いた監督の美学が感じられてとても印象に残る、胸に残る映画です。