大好きな彼女へ。・・・さようなら
【大好きな彼女へ。・・・さようなら】
~10分
俺は捨てられた・・・。
5年半一緒にいた彼女に・・・。
彼女には・・・もう・・・、別の相手ができたみたいだ・・・。
俺が彼女と初めて会ったのは、お店だった。
俺はそこで、看板を張るような存在だった。
いろんな人が俺を落とそうとお金を使っていく。
そこはそういう世界。
そして彼女も、同じようなただのお客様。そのはずだった・・・。
みんな俺が落ちないとわかると、すぐに他に行く。
でも、彼女は違った。彼女だけが、何度も俺のところにやってきたんだ。
そして・・・。気が付くと俺は・・・落ちていた。
その日から俺は、彼女と過ごすようになった。
すぐに一緒に住むようになり、家にいる間はほとんど一緒にいた。
テレビを見るのも、漫画を読むときも、寝るときも・・・。
そうそう。彼女は俺が居なくなると、すぐに目を覚ましてしまうんだ。(笑)
だから俺はおとなしく、毎日彼女に抱きしめられながら眠るんだ。
俺は彼女の話を聞くのが好きだった。
毎日、いろんなことを話してくれた。
楽しかったこと、面白いもの。愚痴や悩み・・・。イライラして俺に当たってくることもあったね。
懐かしいな・・・。もっと一緒に居たかったな・・・。
5年半・・・すごく楽しくて、あったかくて、幸せだった・・・。
そして、5年半は・・・俺の体の限界が来る時間だった。
もう俺の体はボロボロだった・・・。
彼女もなおそうといろいろしてくれた、けど・・・。元には戻らなかった・・・。
片目を失って、毛もいっぱい抜けた・・・。
腕は、彼女が何度も縫い直してくれたんだっけ・・・。
裁縫は苦手だったのに、俺のために覚えてくれたんだよね・・・。
俺はくまのぬいぐるみ・・・。
ボロボロになって、汚れて汚くなって、お母さんに捨てられてしまった。
彼女は最後まで、『俺が良い』って、泣きながら言ってくれた・・・。すごくうれしかった。
ありがとう。さようなら。
そして今、彼女の隣には、新しくクレーンゲームで取った、ぬいぐるみがいる。