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ケアマネ矢田光雄のひとり言

何処に向かっているのだろう

2022.11.08 09:29

令和4年11月1日介護保険制度の根幹に関わる重要な裁判の判決がおりた。原告はヘルパーで相手は国である。内容は訪問介護員への待機時間、移動時間、キャンセル等活動時間以外の労働時間に対する報酬が払われていないという現状に対して国は不作為であり、そもそもヘルパーの活動費に対する価格設定そのものがそれらを反映したものではない、という至極ごもっともな訴えである。これに対して一審の判断は予想通り「請求棄却」である。

介護保険制度が始まった当初ある医師がこんな話をしていた。「いろいろと不備はあるが、新しい社会保険制度としてはかなりよく出来ているね」と。その言葉を思い出しながら今「物語 介護保険(上下)大熊由紀子著」を読み返している。本文600ページに届こうかという力作である。著者の大熊氏は70の物語に寄せて当時の永田町、財界、野党、学者、労組、市民夫々に小突かれ苦悩しながらも高揚する厚生官僚の熱気を伝えている。その甲斐あってか介護保険制度が始まって6年、平成18年までは理念と費用のバランスが取れた、なんとか希望が持てる制度として運用されていた。その証左として多くの人材がこの業界に流入していたし、特に訪問、通所系では小規模事業所に多彩なキャラが躍動していた。どの分野でもそうだが、多様性の許容が創造性を豊かにする。介護は創造をエネルギーとし、駆動され、実体となる。

2000年4月1日の朝小渕首相は「医療、年金、雇用、労災に続く第5の社会保険の第一歩です。老後の不安を解消する最大の対策として、世界が注目しています。」と高らかに謳い上げた。しかし、その日の夕刻連立与党であった自由党が離脱を表明し、翌日小渕首相は倒れた。兆しは既にあったというべきか。

今現在この制度は当時思い描いていた風景をどの程度現実化しているのだろうか。「走りながら考える」で始まった制度であるが、果たしてランナーはゴールに向かっているのだろうか、正しく山の頂上を目指しているのだろうか。陽は落ちて、暗闇の中、道を失い彷徨っているのではなかろうか。

この裁判を私は警告と受け止めている。

令和4年11月8日