形態の異なる幽霊
昔、俺を含めて友人と4人で、夜に車で心霊スポット巡りに行った。 車は俺が出し、運転も俺が行った。 行く途中、コンビニでジュースとかお菓子を買って、遠足気分だった。
目的地はバイパスが出来てからは使われていない廃トンネルで、地元じゃ一部で有名な心霊スポット。 まあ、よくありがちな、幽霊が出るとかの噂があった。
ただ気になったのは、聞く人によってその幽霊が、 女の人だったり、子供だったり、男だったりと、形態が異なっていたことだ。 しかし、当時の俺はそういうのを信じていなかったので、その時は何も気にしなかった。
で、目的地に着いて、トンネルの中を散策した。 トンネル内部は真っ暗で、懐中電灯で照らすと、ぼろぼろの壁の様子などがわかるだけだった。 いくらか散策して飽きてきた頃、 連れの一人が「うわっ!!」と声を張り上げ、入り口に向かってダッシュし始めた。 残りもびびって、そいつにつられてダッシュし、車に乗り込んだ。
何があったのか聞くと、そいつが言うには「何か黒い人影っぽいのが見えた」ということだった。 ほんとかよと思いつつ、俺は慌てて車を出した。 結局それだけで、そのトンネルで特にはっきりと幽霊だとか、何か起きたとかは無かった。
まあ、ちょっと怖かったけど、いい体験ができたかな。 と思いながら車を運転していたが、あることに気づいた。
連れの3人が皆、後部座席に座っていたことだ。
「お前ら、何で誰も助手席に座らないんだよ」と聞くと、 3人とも「はあ?もともと後ろに座ってたぞ」と言った。 俺は「そうだっけ」と思いながら、また運転に集中した。 いくらかして助手席を見ると、ホルダーに飲みかけのペットボトルが入ってることに気づいた。 「じゃあ、あれは誰のだよ」と聞くと、 3人とも知らない、自分のものではない、ということだった。 もちろん俺のでもない。
コンビニのレシートを3人に調べてもらったところ、俺達は確かにそのジュースを買っていた。 でも、誰も買った記憶が無いという。もちろん俺含めて。 じゃあこれは誰のなんだ? 皆無言になり、そのまま家に帰った。 結局その後は、俺にも連れにも特に異常なことは起きず、平凡に暮らしている。
しかし、俺はその時の事が気にかかって、たびたびその事を思い出しては、いろいろ考えていた。
今となって感じることだが、あのトンネルに入る前まで4人ではなく、5人いたような気がする。
気がする?いや、俺達はいつも5人で・・・
しかし、あのトンネルから出た時に、何故か分からないが4人になってしまった。 確証はないが、そう考えることで俺の中ですっきりする。 そして、トンネルの中で連れが見たという黒い影、あれはもしかして・・・
さらに、あのトンネルについての噂話も気になる。 見る人によって幽霊の形態が異なる?
いや、幽霊とかではない。かれらは、もともとこの世に存在した・・・
思い過ごしと言われればそうかも知れないが、
あの不可解な経験について、10年近くたった今でもたびたび考えてしまう。