繊弱な成形美(駄玩具素材:セルロイド編)
セルロイドで出来ている玩具はご存じだろうか。
セルロイドはニトロセルロースと樟脳から
合成されたもので象牙の代用品として開発された。
歴史上最初の人工の樹脂である。
加熱(約90℃)で軟化し、成形が簡単であることから
かつてメガネのフレームや万年筆の軸、ピンポン玉など
日用品をはじめ多岐にわたって使われていた。
そしてもちろん昭和の駄玩具にも採用され
名もなき秀作がたくさん存在した。
セルロイド製玩具は
昭和10年代より日本の植民地だった台湾に
樟脳の原料になるクスノキが豊富だったことで
戦前戦後にかけて大量につくられたようだ。
ただ発火しやすいことや
耐久性が乏しく劣化しやすい等の難点があり
その後は徐々にソフビなどに代わっていった。
その繊弱性から
今では美品の状態で残っている物は少ない。
今回はそのセルロイド製の駄玩具を集めてみた。
まずはキューピー人形。(全長約12cm)
1909年に米国のイラストレーター、ローズ・オニールが
キューピッドをモチーフとしたイラストで発表したのが
起源と言われる。
セルロイドは着色が容易だったこともあって
キューピーも黄色や黒、赤などカラフルなタイプも存在した。
首筋の拡大画像は
キューピットの特徴である羽部分。
きれいなミントグリーンに塗装されている。
余談だが
マヨネーズのキューピーは
キユーピー株式会社=「ユ」の文字が大きい。
商標登録の関係の制約があったためではないだろうか。
女の子のお人形である。(中央/全長約10cm)
しっかりとした成形で
スラリとしたスタイルが表現されているが
手足の縦スジが目立つ。
これは成型方法による特徴で
圧縮成型であるためで
例えるとタイ焼きと同じ方法。
卵のパックと言った方が分かりやすいかもだ。
シート状のものを型押ししてレリーフ状にした後に
貝のふたを閉じるようにして立体にする
なので合せた部分にどうしてもスジが入ってしまう。
女の子のお人形・小(全長約5cm)
この小ささだと表裏1枚型で
足の裏を境に折り曲げて立体にしている。
軍艦(全長約13cm)
昭和初期では定番の軍事物。
この成形は左右で合せた型であることが分かる。
かなり玩具っぽくデフォルメされているが
第一煙突の雰囲気から戦艦長門だろう。
戦前は連合艦隊の旗艦(後に旗艦は大和となる)
として庶民の認知度も高かった。
ハッカパイプ戦闘機(全長約9cm)
縁日の露店の定番商品であった懐かしいアイテムだ。
中にはハッカ砂糖が入っていて
機首のカバーを取って吸うと爽やかで甘い風味が楽しめた。
縁日ではまずこれを買って首から下げ
時折スパスパと大人の煙草をまねるように
風味を味わいながら
露店めぐりをおこなった。
ハッカパイプ キャラクター(全長約8cm)
先に紹介したは戦闘機などは珍品の部類で
このようなキャラクター系が主流であった。
TVアニメ全盛以前の時期のものだろう
この後TVマンガが大人気になるとアトムや鉄人ものが
登場した。
1個1個手塗りのため
同じものでも微妙に表情が違う。
なので選ぶ時は出来栄えの良さを判断しつつ
どれにしようか結構迷った。
お面 各種(全長:約15cm~16cm)
セルロイド製の駄玩具の代表といったらお面
と言っていいだろう。
圧縮成型の得意とする仕上がりの形状
であったことが大きなの理由で
種類も生産量も一番多かったのではないかと思う。
ではその成形の美しさ、出来栄えを見ていただきたい。
鞍馬天狗とひと目でわかるよう
額部分に天狗面を大胆に配している。
迫力ある見事な立体感だ。
ゴールドで塗装された七色仮面。
当時はもう少しピカピカ感があったのかもしれないが
経年で色が沈み渋い感じでかえっていい風合いを醸し出している。
仏像のような神々しさすら感じるではないか。
堂々とした金彩のタイトルがまず目に入る。
アトムって書かなくてもわかるよ
と声を掛けたくなるが。
全体に鮮やかなピンク色だが
派手なカラーで目立てば良い売れる時代だった。
眉毛が勇ましすぎる月光仮面。
この配色と雰囲気
なぜだか漁船の大漁旗を連想してしまった。
口もとの丸い形状は笛になっていて
ピーピー鳴らしながら月光仮面ごっこができた。
サングラスは半透明(七色仮面も同じ)のセルで
仕様もこだわっている。
越後の龍と言われた上杉謙信かな。
龍のモチーフだから。
とにかく
こんなキャラまで
と思うものまで商品化されていた。
王女様?
こういうキャラこそ
額に名前を刻んでほしいいところだ。
でもこれ女の子受けしたのだろうか。
あまり幸せそうに見えない花嫁さん。
結婚式ごっこ用か?
男の子側からすると
逃げ出したくなる遊びになりそうだ。
残念ながら割れてしまった例。
成形は美しく立体感も申し分ないのだが
とにかく壊れやすい、へこみやすいのが
セルロイドの難点だ。
でもその繊弱でデリケートな部分も含めて
何故か愛おしくなる不思議な魅力を醸し出してくる。