バレンタイン
著:結城隆臣
刀剣乱舞の二次作になります。姉弟の審神者の物語。
※刀剣乱舞の世界観の自己解釈と、マイ設定があります。
※史実に忠実ではありません。
※いろいろ都合よく解釈しています。ご注意ください。
「うわっ! あぁー!」
今日も今日とて寒い宮城本丸に央海の叫び声が響く。
その声に何だ何だと数人の刀剣男士が集まった。
「どうした……?」
「何事だっ!? お? なんだコレは」
「大丈夫!?」
「主、いかがされたっ!」
「大将、無事か?」
現れたのは上から大倶利伽羅、鶴丸国永、燭台切光忠、へし切長谷部、薬研藤四郎の5人。
その5人が見たもの、それは、小さなプレゼント箱を廊下にまき散らしている央海の姿だった。
「や、やぁ……」
苦笑しながらこちらを眺めてくる。
5人は顔を見合わせてやれやれと笑うとプレゼント箱を拾い始めた。
「これは何だ? 大将」
薬研藤四郎が言う。
「あー、バレンタインのチョコレートだよ。姉貴からみんなにって……。いつもありがとうございますって意味を込めてって言ってた」
「ばれんたいん?」
「ちょこれーと?」
へし切長谷部と大倶利伽羅が首をかしげる。
「そそ、女の人が好意を持つ男の人にチョコを送る日。チョコレートは洋菓子だよ。甘いよ」
「ほぉー! それは興味深いな!」
「成程。この一つ一つが柊ちゃんの好意なのか。嬉しいね」
鶴丸国永が驚いたように目を丸くし、燭台切光忠がふんわりと微笑んだ。
「でね……あっ」
「どうした、大将、顔色が悪いぞ」
チョコレートを拾っている途中で固まってしまった央海を薬研藤四郎が覗き込む。
「おーい、大将」
「やばい……やっちゃった……」
「どうしたの?」
「渡す順番に並べてあったのに、落としたから……わかんなくなっちゃったよ!本命チョコも入ってたのに」
「本命チョコとは!?」
ぐっと鶴丸国永が身を乗り出す。
「あなたが好きですってチョコ……」
「なにっ!?」
「柊殿の本命……」
へし切長谷部が、手に持つチョコの箱をひっくり返して見つめる。
「恥ずかしいからってラッピング全部同じにしたらしくて、これじゃわからないよ」
「本命のヤツに渡さなければ、柊に悪いだろう」
「どうやって探すかだねぇ」
大倶利伽羅と燭台切光忠が顔を見合わせる。
ラッピングは全て薄いピンクの包み紙に覆われて、そこに赤紫のリボンが付いている。
リボンが染め物なのか、紫寄りだったり赤かったりまちまちだが、全部同じ種類のモノだとは一目で分かる。
「で、大将、柊の本命ってのは誰なんだ?そいつに全部開けて貰って、それ以外を配れば良いんじゃないか?」
「わかんないよ!」
「うーん。心当たりはあるんだけどねぇ」
「燭台切?何か知っているのか?」
「いやーたぶん、たぶんだよ、たぶん!」
「はっきりしろ!燭台切!柊殿のために!」
「んーじゃぁ、ここに呼んでくるけど、変なこと口走らないでね、特に鶴丸さん。柊ちゃんのために」
「おうっ。任せな!」
「光忠、俺が黙らせておく……」
「伽羅ちゃん!頼んだ!」
「そこまで信用無いかねぇ……俺」
かくして、燭台切光忠が連れてきたのは歌仙兼定だった。
央海とへし切長谷部を除く3人が内心やっぱりかと呟く。
「柊ちゃんからバレンタインデーのプレゼントで、みんなに配っていた所なんだよ」
「配っていたのなら、わざわざ呼ばなくても良いだろうに」
「まあまあ歌仙さん、1個選んでよ」
歌仙兼定が訝しげな表情のままプレゼント箱を眺める。
すると、突然フワッと微笑んで、中央にあった箱を手に取った。
ラッピングは他のモノと大差は無いが、リボンの色ムラがほぼ無く、包み紙も1番整っているように見える。
「じゃぁ、僕はコレをいただくとするよ。戻っても良いかな?」
「ああ、ごめんね、呼び出して」
歌仙兼定がチョコを手にいなくなった後で、突然へし切長谷部が口を開いた。
「柊殿の思い人ってもごもがッ!な、何をするっ倶利伽羅!燭台切!」
「良いから、僕たちは帰ろうねー」
「……女々しいぞ」
「うるさいッ!離せッ!」
何かを叫びたそうにしているへし切長谷部を両脇で固め、大倶利伽羅と燭台切光忠がズリズリと引きずりながら去っていく。
「うーん、コレで良かったのかなぁ……」
央海がつぶやく。
それを見た鶴丸国永が、央海の頭をポンポンと叩いた。
「まぁ、大丈夫だろう。あの分なら」
「ああ。問題なく本命を取ったな。アレは」
薬研藤四郎が頷く。
「愛の力ってヤツか?」
「あー、多分それは無いな、歌仙の旦那は」
「鈍い奴だなぁ!」
「え、ちょっとどういう意味?」
「主には分からなかったか?まぁ、そのうち分かる」
鶴丸国永がニヤリと笑いながら1つプレゼント箱を手にとった。
「さて、配りに行こうとするか。まぁ、訳を話せば違った中身が届いてもみんな納得するだろう」
「手伝うぜ」
「うん」
「さて、箱を開けたみんながどんな顔をするのか楽しみだ!」