Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

MoonDay SunnyDay

屠るもの

2018.02.01 19:40

著:結城隆臣


刀剣乱舞の二次創作。神喰竜也の物語。


刀さに要素はありません。
流血・暴力的表現が含まれます。


※刀剣乱舞の世界観の自己解釈と、マイ設定があります。
※史実に忠実ではありません。
※いろいろ都合よく解釈しています。ご注意ください。




「主や、のう、主」





青い着物を纏い透き通った美しい瞳を持つ刀剣男士が、ゆっくりと竜也の方へ振り返る。





「……なんだ」





竜也は眉間にしわを寄せながら面倒くさそうに返事をした。
刀剣男士がそれを面白がるように微笑みながら見つめ返す。
この刀剣男士は名を三日月宗近と言った。
竜也が初めて降ろした付喪神で、この本丸の副近侍を務めている。
本丸の主の部屋にある縁側に日向ぼっこをするかのように腰かけている三日月宗近を竜也はあまり好ましくは思っていなかった。
槐から与えられた刀剣である上に、自分の力の一部を封じるカフスの管理を任されている。
どう見ても政府の息がかかった存在で、副近侍に降格したにも関わらず常に傍らにいるその様は監視されているかのようで気味が悪い。





「竜也」





気が付けば、三日月宗近が座敷に上がり近くまで来ている。





「歌仙が作る今日のおやつは何だろうね。茶の席が楽しみで胸の高鳴りが止まらぬのだ」
「は?」





ニコニコと笑って子供のように体を揺らしている。
竜也は頭を鈍器で殴られたような痛みを感じて、大きくため息をついた。





「……知らん。それよりこれから会合に向かう」
「誰を共に連れて行く?」
「……」





ニッコリと三日月宗近が笑う。
その笑みに竜也は何とも言えない威圧感を覚えた。
薄く弧を描いて反り返った瞳がじっとこちらを見つめている。
三日月宗近は自分を連れて行くよう遠回しに言っているのだ。





「それは――」
「主、そろそろ時間だぞ。準備は出来ているか?」





ドカドカと大きな足音を立てて、大柄で豪快な刀剣男士、岩融が現れた。





「おう、宗近。先程歌仙が菓子は洋菓子、茶は紅茶と言っておったぞ!」
「よきかなよきかな。本日は西洋の茶の席のようだ」





ニコニコと笑い合う。
岩融は竜也の近侍を務めている、三日月宗近と同じ流派の刀剣男士である。
同流派であるが故か一癖も二癖もある三日月宗近の扱いが上手かった。
数多くの刀剣男士が副近侍であるのに近侍のように振る舞う最古参の三日月宗近に遠慮して近侍になるのを断っていたのに、岩融だけは受け入れてくれ、今に至る。





「……そうか、岩融と共に行くのか」





思い出したかの様に三日月宗近が呟いた。





「何だ? 宗近よ。貴様が供をしたかったのか? そうさな……いつもいつもここでただ座っているだけなのは飽いただろう。介添え、貴様に譲っても良いぞ!」
「うむ、実はな、そうだったのだ。岩融はよく分かっているな。主は俺を戦場にすら送り出してくれぬ。ずっとそこで日向なたぼっこよ」
「そうしないとアンタは怒るだろうが!」





身嗜みを整え、鞄の中に必要な物を入れながら竜也は怒鳴った。





「怒る? いやいやまさか。主は勘違いをしているようだ」





はっはっはと片手を口元に添えて笑う。
その様は竜也の神経を逆撫でするのだった。





「……岩融、行くぞ」
「おっと、俺で良いのかな?」
「ああ。……三日月、アンタは茶の湯でも嗜んで待っていろ!」
「やれやれ今日もまた留守番か。相分かった、そうしていよう」





キッと三日月宗近へ向けて怒りの視線を向けるも、残念なことに相手はすでに茶菓子の事で夢中になっている。
竜也は素早い足取りで本丸を後にした。










会合は政府管轄の施設で行われた。





緑色の髪を豊かに長く伸ばした女性と、灰色の髪をおさげに纏めた一見少女のような女性がそれぞれ共の刀剣男士を連れ添って現れる。
竜也はその2人を眺めながら軽く会釈をした。





審神者には女性が多いとは聞いてはいたが、なんとも複雑な気分になる。
そもそも、何故女性が多いのかと言うと、刀剣に降ろす付喪神が男性を模した姿形であるために、女性が審神者である方が何かと都合が良いから、らしい。





共も含め、6人で会議室へ入る。
中で政府より派遣された槐が待っていた。
灰色の髪の女性が小声であっと呟く。
どうやら槐の事を知っているらしい。
席に着くと、槐が書類を手に口を開いた。





「お忙しい中、お集まりいただきまして、ありがとうございます。あらかじめお渡しした書類でお名前はご存じかとは思いますが、今作戦の管理を任されております槐と申します。念のためこちらから自己紹介願えますか?」





槐の視線が緑の髪の女性へと向かう。
後ろに控えている明るいエメラルドグリーンの髪をした刀剣男士に耳打ちされ、彼女はスッと立ち上がった。
整った顔立ち、白い肌に赤い唇、閉ざされている瞳。
美人だなと竜也は思った。
だが、彼女の一挙一動に何か違和感を覚える。
姿は人間だ、しかし何かがおかしい。
訝しげに見つめていると、彼女の共の刀剣男士が憎悪の瞳でこちらを見つめてきた。
竜也はその視線の意味が理解できず、内心首をかしげる。





「翡翠と申します。以後お見知りおきくださいますよう。こちらに控えていますのは、近侍の一期一振、過保護なところが玉に瑕ですが、よろしくお願いいたします」





優雅な身のこなしでゆるゆるとお辞儀をする。
倣って一期一振も頭を下げた。





緑の女性……翡翠が座ったのを確認して、続いて灰色の髪の女性が立った。
小学生かと思える位背が低い。
前髪は目を覆う程。
竜也の視線に気付いて気恥ずかしそうに可愛らしい微笑みを浮かべる。
こちらの女性に対しても竜也は違和感が合った。
2人とも人であるが人ではない何かを秘めているように感じられる。





気にはなるが、今この場で話すようなことでもない。
竜也は違和感を心の隅に追いやることにした。





「私は椿と申します。こちらは加州清光。審神者にはまだ成り立てでして……。お二人の足を引っ張らないよう頑張りたいと思います。よろしくお願いいたします」





一礼の後、席に直る。
そして竜也の番になった。





「ロウと呼ばれている。コイツは岩融、よろしく」





席を立つ事もなく、荒い態度で名乗る。
作戦さえ成功すれば良いのだから、馴れ合いは不要だと竜也は考えていた。
一期一振と加州清光が、一瞬何様だ?と言いたげな表情を浮かべたが無視した。
後ろで岩融がクックと笑っているのは2振りの様子を見てか。





「ひとまず、今作戦の概要を説明します。歴史修正主義者が小隊を組んで福島は会津若松の地に現れそうだという情報を得ました。会津若松は城下町です。最悪、町中や城内戦も考えられます。隊を組まれる際は気を付けますようお願いいたします」





書類をペラペラ捲りながら槐が口早に話を進める。





「皆様には敵が現れそうな場所にそれぞれ布陣していただく予定です。作戦内容には歴史修正主義者を倒すことは勿論のこと、史実通りに物事が進むか見届けていただく事も含まれます。こちらが歴史資料ですので、後程ご覧下さい」





槐に手渡された資料にざっと目を通す。
場所からして何となく竜也には推測が立ってはいた。
予想通り、新撰組や白虎隊関連の時代を守るようで、こちらは新政府側を支援する形となっている。





新撰組と言えば……。





竜也は椿と名乗った女性の傍らに立つ加州清光を見た。
この場に連れてきているということはおそらく近侍であることは確かで、この作戦にもつれてくる可能性が高い事は目に見えていた。
新撰組の面々がバタバタ死んでいく土地で果たして戦えるのであろうか。
そんな疑問が心の中に浮かび上がる。
視線に気付いたのか加州清光がこちらを見たが、たちまちその顔に嫌悪の感情を浮かばせた。
ため息をついて竜也は視線をそらした。





その後、槐がまだ何かを説明していたが、竜也はそんなことはどうでも良いとばかりに、書類に目を通し続けた。
史実通りに終わらせるには新撰組にはほぼ壊滅状態になっていただかねばならない。
白虎隊も同様。
自害も含め多数の死者が出ているのは事実。
確か一般人にも被害が出ていたはずだ。
そんな血なまぐさい現場に女の審神者が降りて果たして仕事を全うすることができるのだろうか。
この作戦は行動範囲が広く、今まで通りに本丸から指示を飛ばしている余裕はない。
刀剣男士とともに戦場を駆け抜けなければならない。
精神力、体力ももつのか?
一抹の不安が竜也の心の中を通り過ぎるのだった。









「兼さん、あっち!」
「何だ? 国広。……っち、まだ居るのかよ」





堀川国広が指さす方を見れば、歴史修正主義者が放った打刀や脇差、短刀がそれぞれ二体ずつ路地裏を駆けている。





「次々湧いて出るね。もーさ、勝手に首落ちて死ねって感じ。ねえこれ、もう一部隊いた方が良かったんじゃない?」
「激しく同意。火の手も上がって来たから煤で汚れるし……。あ、ねぇ、主、大丈夫? ついて来られてる?」





大和守安定と加州清光がため息をつきながら顔を見合わせ、加州清光の肩にちょこんと留まっている小鳥の方へ向き直る。





「大丈夫です。ロウ様も広い市街地周辺等を担当しております。私たちだけ楽をする訳にもいきません」
「無理すんなよ、大将!」
「ええ、もちろんです。皆さんも無理をしないように行きましょう」





加州清光の隣で小鳥―――椿の形代を見上げるように厚藤四郎がにこっと可愛らしい笑みを浮かべる。
その様子を、一歩引いた位置で長曽祢虎徹が見ていた。





「ほら、ぼさっとしていると敵さんが逃げちまうぞ! 抜いた抜いた!」
「分かってらぁ!」





和泉守兼定がすらりと刀を引き抜く。
それに倣うように全員が武器を構え、一斉に駆けだした。









敵方の小隊を切り崩し、一息ついた時だ。
長曽祢虎徹が顎に手を当て難しい表情を浮かべた。





「……どうも弱いな」
「如何されましたか?」





その様子を見て椿は首を傾げる。





「奴さんたち、町内を駆けずり回っているだけで、ちっとも新政府軍をつぶそうとしているようには見えないんだが。しかも弱い。牽制のためだけにただいさせているだけじゃないのか?」
「おかしいですね、この近くにも新政府軍は進行してきているのですが」
「……白虎隊の奴ら今どのあたりにいる?」
「時刻的におそらく、前線へ向かった頃合い……――っ!?」





椿は長曽祢虎徹の方へ向き直った。
長曽祢虎徹も察して頷く。





「翡翠様が危ない!!」








遡る事、数時間前――。









3人の審神者が刀剣男士らを率いて政府本部にあるテレポートに集う。
槐が全員がそろっているのを確認した後、それぞれに腕時計状の不思議なアイテムを手渡した。





「これから向かう先は過去です。姿を目撃されて歴史が変わってしまっても困りますから、これをお付けください。過去の方々に目視されなくなるアイテムです。ただし、音は消せませんし、接触もできますので近付いたりしない様お気を付けを。それと、歴史修正主義者からは隠れられませんのでご注意を。後、これには通信機能もありますのでご活用ください」





「へえ、便利な物があるもんだな」





竜也は感心しながら腕にそれを付けた。
刀剣男士達もそれぞれ身に着ける。





「それでは、維新の記憶は会津へ」





ふわり。体が一瞬宙に浮いたような感覚が襲い、次の瞬間には辺りの景色が一変していた。
3部隊を一気に送ったというのに、それぞれが目標としていた位置に転送されている。
相変わらずの素晴らしい技術力にヒュゥと息が漏れた。





竜也は自分の後ろに並ぶ刀剣男士達の方を向き、メンバーを確認した。
三日月宗近を筆頭に、岩融、太郎太刀、同田貫、鯰尾藤四郎、小夜左文字が並ぶ。





「それでどうするのだ、主」





三日月宗近が楽しそうに竜也を見る。





「まずは偵察だ。時間的に新撰組の連中は大半が崩され、白虎隊を導入せざるを得ない状況になっているだろう。翡翠隊が十六橋・戸ノ口原付近、城下町に椿隊がいるから……そちらは放置で構わん。俺達はその間の山林を行く。まずは隊を二つに分けるぞ。三日月、岩融、太郎、お前たちは林の中は不利だからこのまま市街地の外れを回れ。そして遡行軍を見つけ次第それを処理しろ。残るは俺とともに十六橋付近まで道を行く。おそらく激戦地は翡翠隊がいる所だろうからな。そして、翌日、白虎隊が飯盛山に逃げ込んだ頃合いで飯盛山にて合流しよう。何かあったらこれで通信しろ、いいな? 無理はするなよ」
「あい分かった」
「任された!」
「承知いたしました」





馬を呼び出しそれに跨る三日月宗近に続いて、岩融と太郎太刀が軽く会釈した後、騎乗する。





「行くぞ」





竜也は残る三人の刀剣男士を引き連れ、一路東へと向かう。