#うちの子が寂しいという言葉を使わずに寂しさを相手に伝えるとしたら【タグお題】
著:結城隆臣
刀剣乱舞の二次創作。神喰竜也の物語。
流血・暴力的表現や刀さに、BL表現が含まれます。
※刀剣乱舞の世界観の自己解釈と、マイ設定があります。
※史実に忠実ではありません。
※いろいろ都合よく解釈しています。ご注意ください。
政府に申請する書類を一通り作成した後、竜也は大きく伸びをした。
肩や背骨がボキバキと軋み、痛みに思わず机に伏せる。
恐る恐る伸ばした右腕でコップを持てば、すかっかり軽くなっていた。
「……チッ」
小さく舌打ちをすると、のっそりと立ち上がって厨房を目指す。
自室の1つである書斎を出た瞬間廊下の先から数振りの短刀達に声をかけられ、半ば引きずられるままに向かった大広間で脇差らに捕まり、何とか振り切った先で若手の打刀達から相談事を持ちかけられ、やっと厨房前に着いたと思えば大太刀と槍の二人に広間まで引き戻されて、隙を見て逃げようとした瞬間に眼帯を付けたとある太刀に声を掛けられた。
「主、ちょっと良いかな?」
「光忠。俺は飲み物を取りに行きたいんだが」
眼帯の彼は内番服を着て、肩にタオルを掛けていた。
苦笑しながらこちらを見下ろしている。
「ああ、分かっているよ。そうなんじゃないかなって思って声をかけたんだから。コップを持ってウロウロしていれば一目瞭然だし、さっきからみんなに絡まれて連れ回されているのも知ってるよ。さぁ、一緒に行こうか」
「頼む」
七里本丸の刀剣達は竜也の部屋には滅多に来ないくせに、何故か竜也が部屋から出るたびに皆がちょっかいを出してくる。
全てに付き合うと気付けば数時間経過するときもあるため、たまに参ってしまう時もあった。
だが、光忠がいれば適当にあしらってくれる。
竜也は内心ホッとしてやれやれとため息を吐いた。
「本当にみんな主のことが好きだよね」
光忠がくっくと笑いながら言う。
「それは構わないが、限度があるだろう」
「部屋に閉じこもってばかりだから、みんな寂しいんだよ。……もちろん、僕も含めて」
体をちょっと屈ませて、見上げるように首をかしげる。
竜也は若干引いた表情で応えた。
「ははっ! そんな顔すると思っていたけど、本当にされるとちょっと傷付くなぁ」
「光忠、アンタに限ってそれはないだろう。それに、好きで部屋にいる訳じゃない。仕事だ」
「うん、知ってる。でも、時々寂しく思うのは本当だよ」
「……わかった。なるべくもう少し部屋から出ることにする。だが、毎度あんな風に集られたのでは、やってられん」
軽く頭痛を感じて頭を抑える。
光忠に苦笑されながらも、何とか厨房に到着し、飲み物をコップに注ぐ。
「そう言えば……」
自身も飲み物を用意しながら、光忠が口を開いた。
「三日月さん、今日見てないけど、何か知ってる?」
ハッとして竜也は光忠を見た。
そう言えば全く気配がない。
不思議そうに首をかしげながらこちらを見返す視線に目をそらしつつ、今日1日の流れを思い出す。
朝、岩融が起こしに来た時には近侍の部屋に三日月はいた。
岩融と二人で通常服の着付けを手伝ったから覚えている。
その後朝食をとって、午前の執務に取りかかろうとした時、突然真名を呼ばれたかと思えば、思えば……。
急にカッと顔が熱くなった気がして、竜也はダンと音を立ててテーブルにコップを置いた。
「びっくりしたぁ。どうしたの? 顔真っ赤だよ」
慌てて光忠に背を向ける。
三日月に軽く押し倒されて、流されるままにキスしたことを思い出して顔が赤くなるなど、生娘かと自分に突っ込みたくなる。
いや、これは三日月に対する怒りを思い出したのだ。
そう考えて首を振る。
それにしてもあの刀は何故たまにそんなことをするのか、時折異常なのではと思うときもある。
「部屋に戻る」
「ん。……あ、一緒に行こうか?」
「……頼む」
帰路また誰かに捕まるかもしれないと想像して竜也は大きなため息を吐いた。
竜也の部屋は本丸にある本殿からちょんと飛び出したプチ離れにあった。
離れには部屋が3つあり、1つは竜也の寝室。もう1つは近侍の部屋で、最後の部屋は書斎だった。
執務室はこの離れの1番近くにあり、普段はそこから出撃などの管理をしているが、基本的な書類の仕事は彼の書斎で作っている。
この4部屋は何故か皆口を揃えて近寄りがたいと言う。
特に1番近付き難いのは、竜也の寝室だとか。
近侍である岩融や、2番刀の骨喰、3番刀の光忠は別段そんな感じはしなかったのだが、後から来た刀であればあるほどそう感じるらしい。
しかし、今日は光忠にも近寄り難さがあった。
「主、ちょっと僕はこの辺りで戻るよ」
「ああ。ありがとう助かった」
「ううん。また飲み物が欲しくなったら内線で呼んで?」
「そうする」
離れから100m位離れた位置から竜也を見送る。
この先に見えない柔らかな壁のような物があって、何とも進みにくい。
これはいったい何なのか、光忠は首を傾げた。
まるで結界の様にも見えるが、本丸内に結界を張る必要性等を考えても答えが出ず、とりあえず自分の部屋に戻ることにした。
書斎に戻った竜也はいつも三日月が腰掛けている縁側をに目を向けた。
しかし、当然ながらその姿はなく、近侍の部屋も覗いてみたががらんどうだった。
三日月は何処に行ったのか。
鬱陶しく思うときが大半だが、いつもある気配が感じられないのも妙に落ち着けずイライラが募る。
1度でも気にしてしまったが最後、仕事の合間に縁側を眺めてしまっている自分に気付いて、竜也はゆっくり頭を振った。
誰もいない縁側、気配の無い隣の部屋。
寒いわけではないのに体か振るえ、きゅっと口を閉ざす。
竜也の胸にツンと重く切ない気持ちが広がり、首を傾げたその時、縁側の方から見慣れた青い着物が見えた。
「やれやれ、政府の奴ら、今回の調整はいくらかキツかったぞ」
竜也の書斎に縁側から回り込んで入ると、三日月の瞳に目を丸くして硬直している竜也の姿が映った。
「どうしたのだ?」
ゆっくり近付いて傍に腰掛ける。
ニコッと微笑みかけてやれば、ひと組の腕が自分の体を包んだ。
いつもの竜也であれば絶対にこんなことはしない。
不思議に思って様子を見てみると、『一人にするな』と震えた小声が耳に届いた。
思わぬ言葉にぞくぞくと湧き上がる愛おしさで笑みがこぼれそうになるのを押さえながら、三日月はそっと竜也を抱きしめると、俯く顔を片手で包んでその唇にキスをした。