Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

Photo小説:『桜めぐり』

2018.03.22 14:05

 去年、あなたと見上げた桜。


 ひとりで見上げる。


 繋いだ手は、話さないと誓ったあの日。


 幸せな時間は、淡雪のように消え、あの夜が奪い去った。


 桜の花の絨毯が、夜道を埋めたあの夜に、花見ぬ花見でしたたか酔った、男の巻き添えで桜と共に散らされたあなたの命。


 握りしめた掌に、残されたプラチナの指輪嵌めた左手を、薄蒼い空に翳す。


 見上げた睫毛の先に、舞い落ちる桜の花びら。


 空の上から見えますか?


 去年あなたと見上げた桜が、私の顔が。


 目の中で、淡く滲む薄紅色の花びらが、震えて落ちて、桜の色の涙に変わる。


 去年あなたと見上げた桜。


 ひとりで見上げる今年の桜。


 あなたの命を繋ぐ小さな人を腕に包んで見上げる、一年(ひととせ)の後に巡る春に。



photo/文:麻美 雪