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とある冒険者の手記

V.守護天節2022

2022.10.19 03:47

「ガウラ、誕生日おめでとう」

「ありがとう」


霊5月18日。

ラベンダーベッドのガウラ宅で、彼女の誕生日を祝っていた。

テーブルには甘さ控えめのバースデーケーキに、豪華な料理が並べられている。

これらは全て、ヴァルの手作りだ。

ガウラが料理に舌鼓を打っていると、ヴァルは細長い箱を差し出した。


「誕生日プレゼントだ」

「ありがとう!開けてみても良いかい?」

「どうぞ」


箱を受け取ると、かなりの重みがあった。

開けると1本の小刀が出てきた。


「小刀?」

「あぁ。結局、なにが欲しいか決まらなかったろ?だから、里の風習に肖った」

「風習?」


首を傾げて尋ねると、ヴァルは答えた。


「悪しきモノや厄災を切り払う守刀をパートナーに送るんだ。パートナーを護る意味でね」

「なるほど…」

「ただでさえ、ガウラは厄介事に巻き込まれるからな、気休め程度だが」

「はは…耳が痛いよ」


ヴァルの言葉に、ガウラは苦笑いを返す。


「そういえば、明日は守護天節だったな」

「そうだね」

「良かったら2人で行かないか?」

「良いね!行こうか!」

「パートナーになって初めてのシーズナルイベントだしな」

「そうか、新生祭はエタバン前だったか」


そんな会話をしていると、玄関の方でノックの音がした。

誰が来たのかと2人で玄関を開けると、そこにはアリスとヘリオの姿があった。


「こんにちは!義姉さん!」

「おや、アリスにヘリオじゃないか。どうしたんだい?」

「今日、義姉さんの誕生日ですよね!誕生日プレゼント持ってきました!」

「わざわざありがとう!」


アリスから小さな包みを受け取るガウラ。


「この前、ヴァルさんも誕生日だったって聞いたんで、2人分入ってます!」

「それは感謝する」

「いえいえ!ところで、明日守護天節ですよね?4人で行きませんか?」


その言葉にガウラがヴァルの方を見ると、無表情ながらもこめかみ付近がピクリと動いたのが分かった。

これはヴァルが感情を抑えながらも、不機嫌な事を意味していた。

これはヤバいと察したガウラは慌てて口を開いた。


「い、いや…、守護天節はふたr…」

「そうだな、4人で行くのもいいかもな?」


ガウラの言葉を遮り、ヴァルは冷たい口調で言い放つ。

そのヴァルの雰囲気に、アリスは顔から血の気が引いていた。


「あ、あの、不都合があるなら別に…」

「ん?別に構わないぞ?親戚付き合いも大事だしな?」

「そ、そうですか…?じ、じゃあ、明日グリダニアでお昼頃に待ち合わせで…」

「承 知 し た」


ヴァルの不機嫌で引きつった笑顔の迫力に負けて、アリスは声を震わせながら予定を伝えた。

そして、要件は終わったのか、そそくさと帰って行った。

それを見送り、ガウラは改めてヴァルに向き直り、少し呆れた様子で口を開いた。


「断れば良かったのに、不機嫌になるなら何故誘いを受けたんだい?」


ごもっともな意見に、ヴァルは意地の悪い笑みを浮かべた。


「まさか、アイツがここまで新婚に対する配慮が無いとは思わなかったからな。少し怖い目に合わせてやろうと思ってな。ちょうど守護天節だし」

「うーわー……」


ヴァルの言葉に、アリスに哀れみを感じるガウラ。

その後は、ヴァルも気持ちを切り替え、ガウラの誕生日を笑顔で祝ったのだった。


***********



翌日、守護天節。

グリダニアのエーテライトプラザで、ガウラはアリス達を待っていた。

遠くから手を振って小走りに近寄ってくるアリスを見つけ、小さく手を上げた。

その後ろから、ペースを崩さず歩いてくるヘリオの姿もあった。


「お待たせしました!義姉さん!」

「そんなに待ってないから気にするな」

「ところで、ヴァルさんは?」


ヴァルの姿が見えない事を不思議に思ったアリスが、周りをキョロキョロと見渡す。


「あぁ、ヴァルは用事があるから後で合流するそうだよ」

「そうなんですか?じゃあ、先にミィケットに行きましょうか」

「そうだな」


そう言って3人は旧市街にあるミィケット野外音楽堂へと足を進めた。


「いやぁ、やっぱりイベントになると人が凄いですね」

「ほんとだな」


なんて会話をしていると、ガウラとヘリオがアリスの後ろを見てギョッとした顔をする。


「ん?2人とも、どうしたんで…っ!?」


アリスは言いかけて息を飲んだ。

首に冷たい感触。

恐る恐るゆっくり振り向くと、目の前に現れたのは、レイスのドアップだった。


「うぎゃぁぁぁああああああっっっ!!!!」


壮絶な悲鳴を上げながら尻もちをつき、足をバタつかせながら後ずさる。

口をパクパクさせながら、完全に涙目なアリス。

その直後、ボフンッと言う音を立ててレイスは煙に巻かれ、その煙の後から姿を現したのはヴァルだった。


「予想以上のビビり方だな」

「なっ……なっ………!?」


相当怖かったのか、言葉が出ないアリスに、ヴァルは見下ろしながら言った。


「なんでこんなことをしたのか?と聞きたいんだろうな。なら言わせてもらうが、お前、オレが新婚だって分かっているか?」


言われてハッとするアリス。


「言われるまで忘れてたみたいだな?言葉で伝えるだけでも良かったが、身をもって野暮な事をしたと分からせてやりたくてな。少々怖い目を見てもらおうと思ったが…予想以上の反応にこちらが驚いた」


呆れた口調で話すヴァル。

アリスは未だ、体をガクガク震わせながら金魚のように口をパクパクさせていた。


「これに懲りたら、1年は新婚だということを忘れるな」


ヴァルがそう言うと、アリスは首をコクコクと縦に振った。

それを見て満足したヴァルは、ガウラの元に歩み寄った。


「1人で待たせて悪かった」

「それは別にいいけど…、やり過ぎじゃないかい?あれは暫くは立てないぞ」


言われてアリスに目を向けると、ヘリオに支えられているアリスの姿。


「あそこまでビビるとは思わなかったんだ。あれは相当な弱点だぞ」

「あれでも大分マシになったんだ。最初の頃はタムタラ墓所やハウケタなんかも、震え上がって中に入れなかったぐらいだ」


そんな会話をしている間、ヘリオはアリスを支えて移動し、ベンチに座らせ背中を摩っていた。

それを見たヴァルは、大きく溜め息を吐き、アリスが動けるようになるまで待機することにした。


アリスが快復し、守護天節の宣伝の為に薬を飲んで変身し、人々に話しかける。

ヴァルがレイスに化けていたのはこの薬だったのだ。

宣伝し終えた4人は、革細工ギルドの近くで調査員と待ち合わせた。

だが、その調査員はパパ·ブルーセと言う魔族だった。

宣伝で来た人々に使う薬は永久効果の物を使うという。

そう、全てはパパ·ブルーセが魔族で有名になる為の罠だったのだ。

捕まえるよりも先に消えてしまったパパ·ブルーセ。

どうしようかと考えていると、白衣を着、マスクを被った流れの科学者と名乗る女が現れた。

彼女はどうやら薬の解毒薬を持っているらしい。

そして、パパ·ブルーセを捕まえるのに協力をしてくれると言う。

作戦は、パパ·ブルーセの変身を解くクッキーを食べさせること。

食べさせるにあたって、ママ·ブルーセに変身して油断させようと言うことになった。


「そういう役なら、オレに任せてくれ」


ママ·ブルーセ役を立候補したのはヴァルだった。


「良いのかい?」

「何かを演じるのは得意だからな。それに、さっき少しだけ現れたママ·ブルーセを見て、どういう行動をとるのか大体把握した」


配役が決まり、他の3人はパパ·ブルーセと思われる調査員の居場所を突き止め、ヴァルに連絡。

ママ·ブルーセに化けたヴァルは、連絡があった場所へと向かった。

ガウラ達3人は、バレない位置で身を潜め、様子を伺っていた。

そこに化けたヴァルが現れる。


「大丈夫ですかね?」


小声で尋ねるアリスに、ガウラも小声で答える。


「ヴァルなら大丈夫さ。実は1度、裏稼業をしてるヴァルと鉢合わせたことがあってね。完全に別人女性みたいに振舞ってて凄かったよ」

「へぇ~」


そんな会話をしていると、完璧と言わざる得ない程の演技を見せるヴァル。

流石だなと改めて感心するガウラ。その隣で演技の凄さに唖然とするアリス。ヘリオは「凄いな」と小さく呟いていた。

そして、見事クッキーを食べさせることに成功し、パパ·ブルーセの変身が解けたところで、ガウラ達3人は、化けているヴァルの元へと駆け寄った。

驚くパパ·ブルーセに追い打ちをかけるように変身を解くヴァル。

悔しがっているパパ·ブルーセの元に、流れの科学者が現れる。

その正体は伝説のパンプキンヘッドだった。

パンプキンヘッドは、パパ·ブルーセをお仕置すると言って去っていった。

それを見届け、安堵の溜め息を吐く4人。


「とんだ守護天節だったな…」

「まぁ、これで何事もなく皆が楽しめるようになって良かったよ」


ヴァルのボヤキに、笑顔で応えるガウラ。

それを見て「そうだな」と微笑み返した。

ミィケット野外音楽堂へと戻った4人は、本物の調査員から報酬として科学者の衣装を貰った。

衣装を広げて見ていると、声をかけられた。

声の主はパンプキンヘッドだった。

話を聞くと、屋敷に招待したいと言われ、それを受けることにした。

案内人に連れられて向かった先には、広い庭に何席ものテーブルと沢山の料理があった。

飾り付けは守護天節らしく、かぼちゃやオバケをモチーフとした物が多かった。


「是非、ゆっくり楽しんでいってちょうだい」


そう言われ、4人はその言葉に甘えることにした。


かぼちゃ頭の案山子がケタケタ笑い出したのを見て悲鳴を上げるアリス。

アリスに抱きつかれ焦るヘリオ。

それを料理を口にしながら、呆れた顔で眺めるヴァルとガウラ。


そして、後から招待されたであろう冒険者や住民達も集まりだし、賑やかなパーティー会場となる。


楽しそうな人々を眺め、ガウラとヴァルは、平和な守護天節になって良かったと、胸をなでおろしたのだった。