【女3】エマニュエルの願いを、愛する貴女に
女3/時間目安40分
【題名】
エマニュエルの願いを、愛する貴女に
【登場人物】
ヴィクトリア:アンヌが働く酒場の店主
アンヌ:黒い髪と青い目の踊り子
ルイーズ:領主の娘
N:ヴィクトリア兼役(台詞番号001番・002番のみ)
街人:アンヌ兼役(台詞番号304番のみ)
(以下をコピーしてお使い下さい)
『エマニュエルの願いを、愛する貴女に』
作者:なる
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ヴィクトリア・N:
アンヌ・街人:
ルイーズ:
001N:ノートルダム大聖堂。そこはジプシー達にとっての聖地であった。ジプシーに産まれた者ならば、誰でも一度はその目で美しい薔薇窓を拝み、その耳で聖歌を聞きたいと願う。そんな場所。
(間)
002N:ここにも一人、パリのスラムに産まれ、ノートルダムに夢を見るジプシーの女がいた。名をアンヌ。長く艶(あで)やかな黒髪と、青い目を持つ美しい女だった。
003ルイーズ(タイトルコール):エマニュエルの願いを、
004アンヌ(タイトルコール):愛する貴女に
005ルイーズ:横、失礼しても?
006アンヌ:あたしの横が嫌じゃないなら。
007ルイーズ:ふふ、ありがとうございます。
(少し間)
008アンヌ:お嬢様もこんなところに来るんだね。
009ルイーズ:大聖堂は皆(みな)に開かれた場所ですから。私にも、もちろん貴女にも。
010アンヌ:あー、いや。そういう意味で言ったわけじゃなくてね。お嬢様が住んでいるようなところからここに来るまでに必ずスラムを通らないといけないでしょ?そんな危ない道を通ってわざわざここまで来たのね、ってこと。
011ルイーズ:安全な道は通ってもらっていますし、必ず誰かが一緒ですから。お気遣いありがとうございます。
012アンヌ:あぁ、そこの人はお嬢様の護衛か。なるほどね。……それで、お嬢様は何をお願いしに来たの?
013ルイーズ:お願い?
014アンヌ:何か神に祈りたくてここまで来たのかなって。違った?
015ルイーズ:そう、ね。……結婚が無くなりますように、ですかね。
016アンヌ:それって祈るような事なの?そもそも結婚ってしたくてするものでしょう?
017ルイーズ:お相手が好きな人なら、そうだったかもしれないですね。
018アンヌ:好きな人じゃないんだ。
019ルイーズ:えぇ、まあ。親同士の口約束なんです。会ったことはほとんど無いけれど、優しい方だそうで。
020アンヌ:優しい人ならいいじゃない。暴力振るわれないんでしょう。
021ルイーズ:暴力、ですか。
022アンヌ:暴力振るわれないことが一番大事なんだから。うちのマーマもよく言うの。『暴力を振るわない いい男を捕まえなさい』ってね。
023ルイーズ:……そうですね。手をあげないことは一番大事な事かもしれませんね。
024アンヌ:でしょう?だからお嬢様の結婚相手はきっといい男だよ。
025ルイーズ:ふふ。ありがとうございます。
026アンヌ:いーえ。……それにしても意外だなぁ、こんな所でお貴族様を見かけるなんて。
027ルイーズ:そうですか?
028アンヌ:そうだよ!この辺りにはお貴族様に蹴飛ばされるのが当たり前みたいな人生送ってるやつがほとんどだから。ここに好んでくるようなお貴族様はいないよ。……それに、あんたみたいな全部持ってそうなお嬢様も神に祈るような事があるんだなって。それも意外だった。
029ルイーズ:素敵な出会いもあった事ですし、ここに来たかいがあったというものです。
030アンヌ:そっか。あはは、こんなに面白いお嬢様がいるならお貴族様も捨てたもんじゃないや。
031ルイーズ:そう言っていただけて光栄ですわ。……それで、貴女は何をお願いしたのですか?
032アンヌ:あたし?!
033ルイーズ:えぇ。私も聞いてみようかと思いまして。
034アンヌ:わ!意地悪の顔してる!
035ルイーズ:貴女のまねをしてみただけですよ?
036アンヌ:まったく!あと、あたしの名前はアンヌ!貴女じゃなくてちゃんと名前で呼んで。
037ルイーズ:はい、アンヌ。
038アンヌ:お嬢様の名前はなんて言うの?
039ルイーズ:そう、ですね……えっと……。
040アンヌ:あーいい、いい。こんなところに来るくらいだから余程事情があるんでしょう。
041ルイーズ:え?
042アンヌ:いい?まずお貴族様は皆、家に祈るための部屋があるの。お嬢様の家もそうでしょう?
043ルイーズ:えぇ、そうですね。
044アンヌ:だからお貴族様はわざわざこんなところに来ないの。この綺麗な薔薇窓を拝みたいとか、そんな理由でもなければ訳ありって事。皆に開かれてる場ではあるけど、その辺気をつけなきゃ。言う相手があたしじゃなかったら人攫いとか、それこそ暴力とか振るわれてたかもしれないわ。
045ルイーズ:そうだったのね……。
046アンヌ:街のみんなは仲良しって言ったってあたしたちとお貴族様じゃ住む世界が違うんだよ。違う世界に住む人間は仲間じゃないの。お貴族様を嫌ってる奴も大勢いるんだから。
047ルイーズ:……えぇ。
048アンヌ:それに、お嬢様のその格好。あたし達みたいな下の人間が見ればお貴族様ってすぐ分かる。バレたくないならせめてあたしみたいなつぎはぎのワンピースとか着なきゃ。
049ルイーズ:……ふふ。
050アンヌ:あっ……あたし喋りすぎた?
051ルイーズ:そんな事ないわ。誰もそんな助言してくれなかったから、助かったわ。
052アンヌ:いーえ。この近くはスリも多いし気をつけてね。
(背後の扉が開く)
053ヴィクター:アンヌ!
054アンヌ:マーマ、どうしたの?
055ヴィクター:またここにいたのかい。もう店の時間だよ。早く戻りなさいな。
056アンヌ:え、もうそんな時間?!ごめんなさい!じゃあまたね、お嬢様。
057ルイーズ:えぇ、また……。
058アンヌ:あぁ、そうだ。お嬢様は笑ってた方がいいよ。その方が何倍も可愛い!
059ヴィクトリア:アンヌが戻ったよ!早く支度しな。
060アンヌ:遅れてごめんなさい!
061ヴィクトリア:どこに行ったって構いやしないけど、せめて時計は見てほしいね。
062アンヌ:ごめんなさい、つい時計見るの忘れちゃうの。
063ヴィクトリア:全く……あんたって子は……。
064アンヌ:あれ、いつもと衣装違くない?
065ヴィクトリア:あんたに着させて欲しいってお客さんが渡してきたのさ。
066アンヌ:どっかのお偉いさん?
067ヴィクトリア:この国の宝石商として有名な人だね。
068アンヌ:ああ、あのいつも宝石いっぱい付けてる人だ。あの人嫌いなんだよね、いつもお酒臭いから。
069ヴィクトリア:まぁそう言うんじゃないよ。その服に使われてる布だって高級品だからね、好かれておいて損は無いよ。
070アンヌ:マーマが止めないなら危険な人ではないだろうしいいけど。……ほんとこの服センスない。
071ヴィクトリア:そうね……アンヌの美しさを邪魔してるね。
072アンヌ:だよね!この辺とかさ、無駄に宝石着いてるし、踊るのに邪魔そう。
073ヴィクトリア:まぁとりあえず今日くらいは我慢しなさい。
074アンヌ:宝石付けておけば喜ぶとか思ってるんだろうなぁ……センスなーい!
075ヴィクトリア:ほら早く着替えて。もうすぐ店を開けるよ。
076アンヌ:はーい。……うーん、やっぱりなんかしっくり来ないな……よし。
077ヴィクトリア:アンヌ?何してるの?
078アンヌ:こうするのよ!(服を破る)
079ヴィクトリア:ちょっとアンヌ!
080アンヌ:ここを結べば……ほら!もっとよく見えるでしょ?
081ヴィクトリア:あんたね……。
082アンヌ:これで腰周りもスッキリしたし、踊りやすくなった!
083ヴィクトリア:せっかくのドレスをあんた……。
084アンヌ:あの人もあたしの踊りを見に来てるんでしょ?なら踊りでカバーするし、大丈夫!
085ヴィクトリア:そうね。頼んだわよ。虜にしてらっしゃい。
086アンヌ:うん!任せて。ドニ、今日も可愛くしてくれてありがとう!じゃあ行ってきます!
087ヴィクトリア:アンヌ!あんたに手紙だよ!
088アンヌ:(欠伸)……なにー?
089ヴィクトリア:手紙!この前ドレスを送ってきた人から!
090アンヌ:えぇ……なんで?
091ヴィクトリア:そんなの私が知るわけないだろ。早く開けて。
092アンヌ:っていうか、あたしが開ける意味ある?
093ヴィクトリア:当たり前でしょ。
094アンヌ:文字読めないのに?
095ヴィクトリア:アンヌ宛てに来てるんだから、アンヌが開けるの。
096アンヌ:はいはい、分かったよ……うわ、文字がびっしり……マーマ読んで。
097ヴィクトリア:『麗しの踊り子へ。昨日は良い時間を過ごさせてもらった。もしよければ我が家で開かれるパーティに招待させて頂きたいと思う。』
098アンヌ:うえぇ〜麗しの踊り子だって、なんかヤダ。
099ヴィクトリア:で、どうするんだい?
100アンヌ:なにが?
101ヴィクトリア:パーティだよ。招待は受けるの?受けないの?
102アンヌ:行かないよ。ちゃんと踊り子として呼ばれてるなら行くけど、絶対違うもん。
103ヴィクトリア:まぁそうだろうけど……パーティに呼ばれる機会なんてそうそう無いだろう、いいのかい?
104アンヌ:いいの。
105ヴィクトリア:美味しいものも沢山あると思うけど。
106アンヌ:くっ……いや、いい。行かない!
107ヴィクトリア:じゃあ断りの連絡しておくからね。
108アンヌ:はーい、お願いしまーす。今日私何時から?
109ヴィクトリア:いつもと同じだよ。ああ、今日もアンヌの出番は一番最後だからね。
110アンヌ:はーい。じゃあ出かけてくるね!
111ヴィクトリア:時間までに帰ってくるんだよ!
112アンヌ:分かってるって!
113アンヌ:お嬢様、また会ったね。
114ルイーズ:まだお嬢様って呼ぶのね。
115アンヌ:だって結局名前聞いてないから。なんて呼んだらいい?
116ルイーズ:うーん……難しいわね、何も思いつかないわ。
117アンヌ:じゃああたしが付けてもいい?
118ルイーズ:ええ、是非。
119アンヌ:そうね……マリーなんてどう?可愛いでしょ?
120ルイーズ:素敵ね。気に入ったわ、ありがとう。
121アンヌ:どういたしまして!
122ルイーズ:どうしてマリーって付けてくれたの?
123アンヌ:マリーはね、昔あった大鐘の名前なの。
124ルイーズ:へぇ、鐘にも名前がついてるのね。知らなかったわ。
125アンヌ:今はエマニュエルしか居ないけれど、前はあの横にマリーが居たんだって。
126ルイーズ:あれがエマニュエル……。(見つめる感じ)
127アンヌ:そう!エマニュエルはヨーロッパで一番美しい音を鳴らすって言われててね、元々冬祭りはエマニュエルの設置を祝うものだったのよ。
128ルイーズ:そうなのね……アンヌは物知りね。
129アンヌ:あたしはエマニュエルを目指してるからね、そのくらい知ってる。
130ルイーズ:あの鐘になるの?
131:あはは!違うに決まってるでしょ!あたしが言ってるエマニュエルは、冬祭りの最後の日に一番美しい女を決めるイベントがあって、そこで一番に選ばれた人がエマニュエルの称号を得るの。
132ルイーズ:アンヌならなれると思うわ。
133アンヌ:ありがと。マリーも出たらいいのに。
134ルイーズ:私はそういうのに向いていないし、アンヌが出るなら私に勝ち目はないわ。
135アンヌ:そう?マリーは十分可愛いと思うけど。あとは歌か踊りが出来たら完璧ね。
136ルイーズ:踊りはちょっと。
137アンヌ:ダンスは社交界じゃ必須でしょう?どうしてるの?
138ルイーズ:私だってステップの練習くらいしてるわ。
139アンヌ:じゃああたしが先生になってあげる。
140ルイーズ:男性側も出来るの?
141アンヌ:あたし踊り子だよ?踊りならだいたいできる。
142ルイーズ:なら是非お願いしたいわ。
143アンヌ:じゃあここにいる間だけの、秘密のレッスンってことで。
144ルイーズ:えぇ。……私とアナタの秘密、ね。
(くすくすと笑うルイーズとアンヌ)
145ルイーズ:アンヌはどうして踊り子になることを選んだの?
146アンヌ:あたしのママもね、踊り子だったの。エマニュエルの座を手にしたこの国一番の美女。カッコイイでしょ?
147ルイーズ:えぇ、そうね。
148アンヌ:あたしのママも、マーマのところで踊っていたの。縁談も沢山来たってマーマが言ってたわ。
149ルイーズ:お父様は?どんな方だったの?
150アンヌ:あたしね、父親の事何も知らないの。
151ルイーズ:え?
152アンヌ:お店に来ていた縁談は全て断ったらしいの。それでママは一週間くらい失踪して、あたしを身篭って帰ってきたんだって。
153ルイーズ:お母様からお話を聞いたりはしなかったの?
154アンヌ:迷惑をかけたくなかったんだと思う。ママは何も言わなかったわ。ただ『立派な人だった、あたしのことを愛してくれていた』って。それだけ。
155ルイーズ:きっと、今のアンヌを見たら迎えに来なかったことを後悔するでしょうね。
156アンヌ:ふふ。そうだといいな。……ねぇ、あの後、結婚の話は何か進んだ?
157ルイーズ:旦那様になる方と初めてお会いしたわ。
158アンヌ:どうだった?
159ルイーズ:とても素敵な方だったの。優しそうな方でね。
160アンヌ:よかったじゃない。
161ルイーズ:そうね。アンヌが言った通り、いい男、だったわ。
162アンヌ:お嬢様が男なんていうんじゃないわ。
163ルイーズ:あら、いいじゃない。アンヌしか聞いていないもの。
164アンヌ:まぁいいけど。
165ルイーズ:ねぇ、一曲踊りましょうよ。
166アンヌ:いいよ。……一曲踊っていただけますか、お嬢様?
167ルイーズ:もちろんよ。
168ヴィクトリア:アンヌ、手紙だよ。
169アンヌ:またあの人から?
170ヴィクトリア:ずっと返事を渋っているからだろう。一度会って話をつけてきたらどうだい?
171アンヌ:いやよ。会ってもいい事なんてないわ。
172ヴィクトリア:いい、アンヌ。私はね、あんたに幸せになって欲しいんだ。少しのチャンスも逃して欲しくないんだよ。
173アンヌ:でもあの人は!
174ヴィクトリア:あの人の何を知ってるっていうんだい?
175アンヌ:服のセンスがないことくらい?
176ヴィクトリア:少しくらいあの人のことを知ってから決めるのでも遅くはないんじゃないか?
177アンヌ:まぁ……一度くらいなら。
178ヴィクトリア:きっとお金持ちだろうし、美味しいもの沢山食べて帰ってらっしゃい。
179アンヌ:さっきと言ってること違くない?
180ヴィクトリア:そのくらいの意気込みでいいんだよ。
181アンヌ:そっか。……いつもありがとうね、マーマ。
182ヴィクトリア:いいんだよ。返事出しておくからね。
183アンヌ:……痛た……。
184ルイーズ:アンヌ!?どうしたの?!
185アンヌ:ちょっと叩かれちゃって。
186ルイーズ:誰に?
187アンヌ:求婚してくる男に。
188ルイーズ:はぁ?!どの面下げて求婚してるの?!
189アンヌ:口が悪いよ、マリー。
190ルイーズ:アンヌはちょっと黙ってて。
191アンヌ:顔が怖いよ。ほら、スマーイル。
192ルイーズ:もう……。とりあえずこれで口元ちゃんと押さえてて。
193アンヌ:いや、こんな綺麗なハンカチ、
194ルイーズ:ほら、ちゃんと押さえてて。
195アンヌ:わ、分かった。
196ルイーズ:それで、話聞かせてくれるんでしょうね?
197アンヌ:そんな、聞かせられる話ないよ……?
198ルイーズ:私、結婚を迫ってくる男がいるなんて聞いたことないけど?
199アンヌ:そ、っか。言ってなかったね……。
200ルイーズ:はい、話して。
201アンヌ:マリーと初めて話した日にドレスを貰ってね。その日から手紙をよく貰うようになったの。家で開くパーティに来て欲しいとか、どこか食事でも行かないかって。
202ルイーズ:一回でも応じたの?
203アンヌ:今度一回だけ行って終わりにしようと思ってる。
204ルイーズ:断り続けるのも疲れるものね。
205アンヌ:ずっと送ってくるからいい加減ね。
206ルイーズ:……大丈夫な人なの?こんな怪我までさせた相手なのよ?
207アンヌ:うちのお店に来る常連さんだし、これ以上の事はしてこないと思うから。なるべく人が多いところで会おうと思ってる。
208ルイーズ:アンヌのマーマは知らないの?暴力を振るわれたこと。
209アンヌ:知らない。迷惑かけたくないもの。
210ルイーズ:そう……。そうだわ、これを貴女に。
211アンヌ:何?これ。
212ルイーズ:私からのプレゼント。
213アンヌ:キラキラしてて綺麗ね。
214ルイーズ:それはね、ターコイズっていう宝石よ。
215アンヌ:へぇ……。(宝石を見ている)
216ルイーズ:この石はね、持ち主を守ってくれる石と言われているの。
217アンヌ:何それ、魔法か何か?
218ルイーズ:馬鹿ね、この世に魔法なんて存在しないわ。
219アンヌ:じゃあ守ってくれないってこと?
220ルイーズ:気持ちの問題よ。いいから、持っておいて。
221アンヌ:こんなに高価なもの、本当にいいの?あたしが持てるような物じゃないけど。
222ルイーズ:じゃあそのペンダントに見合う人になって。それならいいでしょう?
223アンヌ:ふふ……あはは!何それ!……分かった。あたし必ずエマニュエルになる。
224ルイーズ:えぇ、そうして。冬祭りが楽しみだわ。
(鐘の音が鳴る)
225アンヌ:あっ、そろそろ戻らなきゃ!
226ルイーズ:お店の時間?
227アンヌ:そう!今日も踊るから準備しなきゃいけないの!
228ルイーズ:そう。……また会える?
229アンヌ:きっとね。マリーが会いに来てくれてもいいのよ?
230ルイーズ:ふふ。いくわ。……きっとね。
231アンヌ:楽しみにしてる。……またね。
232ヴィクトリア:遅かったね、アンヌ。
233アンヌ:ごめんなさい!ちょっと話に盛り上がっちゃって。
234ヴィクトリア:またあのお嬢様かい?
235アンヌ:……だったらなに?
236ヴィクトリア:あの子には気をつけなさい。
237アンヌ:何で?
238ヴィクトリア:金の髪に青い目だろう、あのお嬢様は。あれは災いを呼ぶ。
239アンヌ:また言い伝えの話?
240ヴィクトリア:ジプシーに災いをもたらす人間となんてお近づきになるんじゃないよ。
241アンヌ:言い伝えは言い伝えでしょう。私の友達は私が決めるわ。
242ヴィクトリア:お嬢様なんて何もしてくれやしないよ。捕まえるなら(※被せ)
243アンヌ:(※「捕まえ〜」くらいから被せ)捕まえるなら貴族の次男か成功してる商売人でしょ!もう何百回も聞いたって。
244ヴィクトリア:いいかい?言い伝えっていうのは、御先祖様が口を酸っぱくして言い続けた証拠なんだよ。だから金の髪と青の目はダメだ。
245アンヌ:金の髪に青い目なんてこの世界に山ほどいるのにどうやって避けて生きるの?
246ヴィクトリア:自分から仲良くしに行かなくてもいいだろう。
247アンヌ:マーマはそのお堅い頭をどうにかしたらきっと素敵な貰い手が見つかるだろうね。
248ヴィクトリア:アンヌ!
249アンヌ:ドニ、今日も可愛くしてくれてありがとう。
250ヴィクトリア:聞いてるのかい、アンヌ。
251アンヌ:聞いてる聞いてる。よし、ばっちり!どう?今日も可愛い?
252ヴィクトリア:(ため息)あんたが一番だよ。
253アンヌ:ありがと。
254ヴィクトリア:さぁ行っといで、みんなが待ってる。
(アンヌがヴィクトリアの頬にキスをする)
(音は入れても入れなくてもどちらでも大丈夫です)
255アンヌ:愛してるわ、マーマ。
256ヴィクトリア:私もだよ。行ってらっしゃい。
257ヴィクトリア:いらっしゃい。
258ルイーズ:こんにちは。2人 入れますか?
259ヴィクトリア:あぁ。お嬢様かい。ここはあんたの来るところじゃないよ。
260ルイーズ:一目あの子の踊りを見たくて。
261ヴィクトリア:……はぁ。ここであんたを追い払ったなんてアンヌが知ったら一週間は口を聞いてくれないだろうからね。いいよ、そこ座んな。
262ルイーズ:ありがとうございます。
263ヴィクトリア:そこのお連れさんは奥入りな。騎士さんなんて見かけたら店の連中みんな逃げちまうよ。
264ルイーズ:お気遣い感謝致しますわ。
(少し間)
265ヴィクトリア:あんたはあの子のことどう思ってるんだい?
266ルイーズ:アンヌはとてもいい子です。とても、優しい子です。
267ヴィクトリア:そうだね。あの子は母親によく似てる。
268ルイーズ:そうなのですか?
269ヴィクトリア:あぁ、それでいて芯の強い子だ。あの子も、あの子の母親も。
270ルイーズ:アンヌのお母様にもお会いしてみたかったですわ。……アンヌは私のことを何か言っていましたか?
271ヴィクトリア:アンヌに言ったんだ、お嬢様にはもう会うなって。
272ルイーズ:その理由をお伺いしても?
273ヴィクトリア:アンヌもあたしもジプシーって呼ばれる民族の出でね。ジプシーには言い伝えがあるんだよ、金の髪に青い目には気をつけろってやつがね。
274ルイーズ:それは興味深いお話ですね。
275ヴィクトリア:元はジプシーの女が金の髪に青い目を持つ男に恋をして酷い目にあったって話から出来た言い伝えらしいけどね。……お嬢様も同じ見た目をしているから。
276ルイーズ:残念ながら私は男ではありませんが。
277ヴィクトリア:……あんた。
278ルイーズ:私が男であれば、アンヌを連れ去ってでも幸せにできたのですが。
279ヴィクトリア:……あんたが男じゃなくて良かったと心から思うね。
280ルイーズ:まぁそうなった場合、ちゃんとお義母様にはご挨拶致しますけれど。
281ヴィクトリア:可愛い顔してなかなかやるね。
282ルイーズ:ふふ。……アンヌは私の恩人なんです。あの日、あそこで出会えてよかったと思っています。
283ヴィクトリア:そう。あの子が何かお嬢様の手助けになれたなら何よりだよ。
284ルイーズ:えぇ。臆病になっていた私の背中を推してくれたんです。……私が何か彼女にしてあげられることがあればいいのですが。
285ヴィクトリア:その気持ちがアンヌは嬉しいと思うよ。
286ルイーズ:そうだといいのですが。
287ヴィクトリア:さて、そろそろアンヌの出番が終わるよ。会っていくかい?
288ルイーズ:いいのですか?
289ヴィクトリア:今回だけ、仕方なくね。
290ルイーズ:ありがとうございます。
291ヴィクトリア:ちょっとここで待ってな。
(間)
292アンヌ:……分かりました。でも今回が最後ですからね。
293ヴィクトリア:アンヌ?あんたにお客さんが……
294アンヌ:あ、ごめんね、マーマ。今日は会えないって伝えておいて。
295ヴィクトリア:……どこに行くんだい?
296アンヌ:ディナーに。……また後でね。
297ヴィクトリア:ちょっとアンヌ!
(間)
298ルイーズ:遅いわね……。
299ヴィクトリア:ごめんねお嬢様、ちょっと取り込み中みたいだ。今日は会えないみたいだよ。
300ルイーズ:大丈夫なんですか?
301ヴィクトリア:どうだろうね……。
302ルイーズ:大丈夫だと良いのですが。
303ヴィクトリア:そうね、何も無いといいんだけど。……なんか嫌な予感がするね。
304街人:火事だ!火事だよ!
305ヴィクトリア:言わんこっちゃない!ほらお嬢様も逃げるよ!
306ルイーズ:アンヌは?!
307ヴィクトリア:人の心配より自分の心配!騎士さん、お嬢様と一緒にみんなと同じ方向に逃げるんだよ。いいね!
308ルイーズ:アンヌを探しに行かないと!
309ヴィクトリア:アンヌは私が探す!あんたは自分の身を守りなさい!領主の娘がこんな所で死んじゃいけない!あんたが出来ることをやって。いいね。
310ルイーズ:……分かりました。アンヌを、どうか!
311ヴィクトリア:言われなくても。さぁ!早く行って!
312ルイーズM:その後、お父様の元に戻った私は状況の報告と騎士団の応援要請をし、再び街に戻りました。戻った頃にはもう、音楽が溢れる陽気な街は黒い煙の中に消えていました。
313ルイーズ:医療班はこちらに、他は生存者が居ないか探して下さい!
314ルイーズM:皆が忙しなく動く中、太陽が顔を出した頃、街中に大きな音が響き渡りました。……大聖堂の鐘が、落ちたのです。
315ヴィクトリア:お嬢様!
316ルイーズ:ご無事だったのですね、ヴィクトリア様。
317ヴィクトリア:アンヌが!……アンヌが!
318ルイーズ:アンヌ。ここどう?いい眺めでしょう?パリの街が一望できるの。夜もすごく綺麗なのよ。貴女にも見えてるかしら。
319ヴィクトリア:お嬢様。
320ルイーズ:ヴィクトリア様。ご無沙汰しております。
321ヴィクトリア:様なんていらないよ。お嬢様はお貴族様でしょ。
322ルイーズ:友人のお義母様ですから、お気になさらず。
323ヴィクトリア:そう。……こんな素敵なところに墓を建ててもらえて……ありがとうね。
324ルイーズ:街の皆様に愛されたアンヌだからこそ、許可が降りたのです。私の力ではありませんわ。
325ヴィクトリア:こんなに素敵な友人なのに私はアンヌになんて酷いことを。
326ルイーズ:そんなに気に病まないで下さい。アンヌもヴィクトリア様のお気持ちは分かっていたと思いますわ。
327ヴィクトリア:……ありがとう。……そうだ、お嬢様はアンヌの事について何か聞いているかい?
328ルイーズ:この大火事の元になった家で瓦礫の下敷きになったと言う所までは聞いております。
329ヴィクトリア:その家はこの街で有名な宝石商の男の家でね。心中しようとしたらしいよ。
330ルイーズ:その方はアンヌに求婚していたというあの……?
331ヴィクトリア:お嬢様も知ってたんだね。……その男だよ。すっかり忘れていたんだけど、その男はアンヌの母親にも求婚していた男でね。母が手に入らないのならば娘を、と企んでいたらしい。
332ルイーズ:なんて下劣な……。
333ヴィクトリア:それでこの子が……(後ろに隠れている子に向かって)あれを見せてくれるかい?
334ルイーズ:まぁ、こんにちは。
335ヴィクトリア:この子、アンヌと同じ場所で見つかったんだが、これを持っていたんだ。アンヌから貰ったらしいんだけど、これはお嬢様のものじゃないかい?
336ルイーズ:これは!……私がアンヌにお守りとして渡したペンダントです。……持っていてくれたのね。
337ヴィクトリア:じゃあこれは返さないといけないね。
338ルイーズ:いえ、ぜひ貴女に持っていて欲しいわ。
339ヴィクトリア:いいのかい?高価なものだろう?
340ルイーズ:アンヌの代わりに大切にしてくれる?
341ヴィクトリア:……ありがとう。
342ルイーズ:こちらこそ。
343ヴィクトリア:それじゃ私達はまだやる事があるから、この辺で失礼するよ。
344ルイーズ:はい。また落ち着いた頃にお会いしましょう。
(間)
345ルイーズ:ねぇ、アンヌ。きっとあの子は近い未来にエマニュエルになるわ。きっと、貴女の夢を叶えてくれる。そんな気がするわ。
346ルイーズM:『貴方と踊るのが夢だったのに。』そんな言葉は胸に秘めたまま。
347ルイーズ:次に会う時はルイーズって呼んで頂戴ね。また来るわ。
348アンヌ:『エマニュエルの願いは』
349ルイーズ:『神に愛された貴女に』
(終)