Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

Alden of Tuck

「新喜皮革」訪問記

2018.03.24 07:04

兵庫県姫路市にある有限会社新喜皮革。以前からその名前は良く知っていましたし、何度か近くを通ったことはありましたが、「日本で唯一コードバンを作っているタンナー」ということを知っているぐらいで、新喜皮革のコードバンをじっくり見たこともなければ、詳しいことはあまり知りませんでした。そんなある日、「工場見学ができるので是非行ってみませんか?」とお誘いを頂き、友達と一緒に姫路まで行ってみることにしました!

有限会社新喜皮革は創業1951年以来馬革一筋のタンナーで、「牛革」は短期間で鞣すことができ大量生産に向いている一方、コードバンは特に鞣しに時間がかかるのですが、それでも頑なに「馬」にこだわってきました。毎年この時期に特別セールと、工場見学などのイベントをあわせて行なっているそうで、この日も多くの女性客も来ていて、大変賑わっていました。工場見学の予約は1時ということで、20名前後のお客さんが2列に並び、早速工場見学へと案内してもらいました。

ホーウィンでも見たような大きな樽状の前処理装置があります。原皮はヨーロッパから来るそうで、尻尾やたてがみがついたままの状態で塩漬けにされた原皮が輸入され、これを樽の中にいれて酸で洗いながら毛を取り去ります。

毎月二千から二千五百頭もの原皮がヨーロッパから運ばれるそうですが、フランス等では馬肉を食べる習慣があり、またドッグフードなどにも使用されることもあって馬肉の需要がそもそもあるるそうで、そこで残った皮を副産物として輸入してくるそうです。あくまでも革を作るために馬を殺すことはないというお話でした。

鞣し用のピット槽にはミモザ、アカシアなどの樹皮の液からつくられた原料が入っていて、ここに漬け込んで約1ヶ月の間鞣されます。ホーウィンでも見た、自動的にチャプチャプやる装置もついています。ところで「革を柔らかくする」と書いて鞣しですが、つまり皮の繊維層の中に樹皮の液を浸透させ、繊維同士を結合させて腐らなくするのが本来の目的だそうです。「皮」が鞣されて「革」になる工程を鞣しと呼ぶとのことで、鞣し自体は革の匂いや柔らかさとは直接関係はないそうです。

新喜皮革では、頭からお尻の先まで2.3m以上の原皮のみを仕入れているそうで、そうすることで比較的大きいコードバンが取れるそうです。コードバンはいわゆる表側、毛の生えている「銀面」と呼ばれる側ではなく、裏側、つまり「床面」と呼ばれるスエード側を削って行くことで内部から現れる緻密な層のことです。このコードバン層は繊維が密に絡み合っていて、ペーパーヤスリで削って行くと出てきます。

ちなみにシマウマは背中のあたりまでコードバン層があるそうですが、通常はお尻の部分にしかコードバン層は存在しません。ですので、まずお尻のところでカットし、裏側から削っていくことでツルツルのコードバン層を出現させます。このコードバン層は馬にしか存在せず、逆に馬の種類であればコードバン層は存在するようですが、サラブレッドなどの競走馬は脂肪が全くなく、脂肪がないと皮も薄いので、革として使用する強度を持たないため、用途に適さないとのことでした。

新喜皮革が輸入するヨーロッパの馬は、比較的馬体が大きく、肉付きが良いので、コードバンが大きい傾向にあるそうです。実際には削ってみないとどれぐらいの大きさのコードバンが取れるかは、全くわからないそうですが、ちなみにホーウィンはフランスとカナダ(ケベック州:フランス語圏で馬肉を食べる習慣がある)から輸入しているはずですが、カナダの馬の場合は、お尻に焼印をするそうで、最近は塩酸を使って焼印をするため、コードバン層にまで傷がある場合があるようです。そういえば、オールデンのコードバンの場合、時々傷っぽい、怪我が治った跡のようなものが残っている場合がありますが、このせいなんですかね(笑)。。。ちなみにヨーロッパには焼印の習慣はないそうです。またちなみに、焼印のことを、branding、と言い、いわゆる「ブランド」の語源だそうです。

新喜皮革ではペーパーヤスリで削り出すそうですが、その時の跡が筋になって見えます。ホーウィンの削り方とは少し違うようです。ホーウィンの場合は、カッターのようなもので削っていた感じでしたね。それとホーウィンの場合はこの時点で結構柔らかいというか、しっとりしていて、コードバン層のキワがくっきりと肉眼で見えました。新喜皮革のコードバンは、結構固かった気がします。乾燥工程がホーウィンの場合と新喜皮革の場合と順序が違うようですね。(あくまでも想像ですが)

ちなみにホーウィンでは、ガラスの板に貼り付けて乾燥させていましたが、ここでは天井に吊るして、扇風機を回して乾燥させています。縦に一枚でぶら下げているものと、二つに折ってぶら下げているものとありますね。。。湿度の高い日本ならではの乾燥方法でしょうか?

コードバンはそもそも生産に10ヶ月、鞣しだけで1ヶ月かかるそうです。ホーウィンは確か鞣し期間は60日でしたが、新喜皮革では、1ヶ月ピットにつけて鞣したあと、毛布にくるんで3ヶ月かけて熟成させるそうです。この間にタンニンが繊維の中にさらに深く浸透していき、繊維の中に定着するそうです。いろいろと製法の違いがあるようですね。ちなみに、ホーウィンの時と全く同じ強烈な匂いがしますが(笑)、これはいわゆる死んだ馬の原皮にタンニンの液体が浸透して熟成して行くときに出て来る匂いだそうで、工場見学が終わった後も結構服に染み付いていました。。。(笑)

ちなみにクロム鞣などの通常の革の場合は鞣しの工程は数時間もしくは1日程度だそうです。コードバンの場合は、クロムが緻密な繊維をボロボロに破壊してしまうため、時間のかかるタンニン鞣しでしか作れないとのことで、コードバン=100%タンニン鞣し、とのことです。

染色工程のところにも樽型の装置がありました。ここではクロム鞣や、タンニン鞣し前の「予備鞣し」を行うそうで、これはホーウィンでもやっていましたが、ピット槽でのタンニン鞣しの原料とは少し違う、似たような原料で「軽く」鞣しを行い、本格的な鞣しをやりやすくしているそうです(つまりタンニンが浸透しやすくなるそうです)。その目的もホーウィンで聞いた話と全く同じです。だいたい半日から1日かけて予備鞣しを行うそうです。

鞣しが終わり、毛布にくるんで3ヶ月熟成させたあとは、厚みを揃える工程があり、今度はまた似たような樽型の装置で回転させながら染色を行うそうです。画像はピット槽でのタンニン鞣しが終わり、毛布にくるまれて3ヶ月熟成を行っているコードバンです。タンニンが浸透して赤茶けた感じになっているのがわかります。

新喜皮革では様々な色のサンプルがあり、この工程ではある程度の色付けだけを行い、最終的な工程で色をきっちり合わせるそうです。ホーウィンは同じウィスキー、同じラベロでも色合いが異なりますが、またそれが味でもあるのですが、新喜皮革では黒でも色々な黒があって、きっちり揃えるそうです。国民性の違いがこう言うところにもあらわれていますね。

染色のあとは「加脂」工程で、天然の脂、工業脂などを使い分けてしなやかさと風合いを与ええていきます。

最後はグレージングという磨き工程です。ホーウィンにあった装置とそっくりの機械があり、ガラスの棒でガッチャガッチャとこするようにして磨きながらツヤを出して行きます。左足のところにペダルがあり、これを操作しながら革の厚みによって微妙に力加減を調整し、艶出しを行なって行きます。この時はナチュラルコードバンの艶出しを実演して頂きましたが、艶出しを行った箇所だけ、表面の毛羽立ちが寝てツルツルになり見事なツヤが出てきます。この段階になると、ホーウィンで見たような素晴らしい風合いのコードバンが出来上がってきます。

グレージングの工程の後に再び加脂を行う場合もあるそうですが、基本的にこれで工程は終了のようで、10ヶ月かけてコードバン完成となります。ガラスで磨かれた部分がツルツル、ツヤツヤになっているのがわかりますか?

ちなみにこのガラスの棒はイタリア製の純度の高いガラスでできており、5〜6万円するそうです。。。純度の高い、ちょっとでも傷があると革がツルツルにならないので、純度の高いこのガラスを使っているとのことでした。

この工程は結構熟練の技が必要なようで、この日実演してくれた職人さんは10年ぐらいのベテランの方でした。1枚およそ3分、毎日300枚ぐらい艶出しをやっているそうです。革の薄さ、厚さにあわせて神経を使いながらやる仕事です、と話されていました。

またこの日ずっと工場見学を案内してくれた社員さんは、新喜皮革でデザイナーをされていて、入社15年目と言われていました。雰囲気的にあホーウィンのニックが思い出され、職人さんを大事にして試行錯誤しながら、探究心を持って技術を追求しているところなど、ホーウィンと同じく良いものを作っている会社として何か通じるものがあるなと思いました。。。うーん、毎日こんな仕事やっていたら楽しいでしょうね。。。服に匂いは染み付きますが。。。笑

見学が終わって工場を出ようとしたところで、カラー4のようなコードバン発見!こうやってみると、ホーウィンのコードバンにもまったく引けを取らない感じですね。。。とてもツヤツヤしていて綺麗です。😍

工場見学の後は、イベント会場に移ってセール品を物色。リアルマッコイズの味のあるA-2を着たお兄さんがいますね。。。カッコ良い!☺️

と、そこへ聞いたことのある声が!あ、ターザン山下さんです!て、関西ローカルですね(笑)。このイベント、実に盛りだくさんで、コードバンが作られる工程についてだいぶ理解が進みました。と同時に、まだまだコードバンの製造工程についても不明なところが出て来てしまいましたので、また今度はホーウィン訪問して確認してこようと思います。笑