新球団誕生!台湾プロ野球について考える
激闘の日本シリーズ、その熱が冷めない中での侍ジャパンシリーズ。目前に迫ったサッカーのワールドカップに気を取られていたけど、気づけばWBCまで半年を切ってるんですね。ちなみに侍ジャパンシリーズって何事かと思ったら、いわゆる国際親善試合でした。侍周りはネーミングでいつも戸惑う。
2023年のWBCは台湾・台中の球場で開幕します。台湾はプロ野球があるので、野球人気向上のためにも国際大会には力を入れていて、誘致にも熱心ですよね。さて、そんな台湾球界から「プロ野球に新球団誕生」のニュースが入ってきたのは今年の春。2019年につづき、2023シーズンから新球団「台鋼雄鷹 TSG HAWKS(台鋼ホークス)」の加入が決定しました。今年7月のドラフトに参加したのに加え、トライアウトで選手を獲得し、2023年の二軍参入へ向けて着々と準備が進められています。10月の秋季キャンプでは、元中日ドラゴンズの井端弘和氏が臨時コーチを務めたことでも話題になりました。
これで台湾プロ野球のチームは全部で6球団となりました。アジアで日本、韓国につづいてプロリーグを立ち上げた台湾プロ野球ですが、私が現地で暮らしていた2018年までは、なんとたったの4球団で1年間のリーグを戦っていました。
台湾一はどうやって決めるの?とよく聞かれましたが、リーグを前半と後半に分け、前半の優勝チームと後半の優勝チームが対戦するという図式。前半も後半も同じチームが優勝した場合は、2位と3位のチームでプレーオフを戦うのです。もうほとんどの試合が同じ対戦カードです。
見ている方もちょっと飽きてくるし、選手同士もいろんな投手や打者と対戦することで進化するので、どうしてもリーグ全体を覆うマンネリ感が否めなかったんです。だから2019年に新しい球団が参入し(正確には復活なんですけどね)、5球団になったというニュースは嬉しかったです。めでたく6球団目の誕生が決まった記念に、今回は台湾プロ野球についてまとめてみました。
私は3年現地で観戦していないし、偉そうなことは言えないので歴史とか今後の展望はきちんとした記事を読んでいただくとして、台湾プロ野球のちょっとした(?)しくじりを振り返りつつ、台湾に縁のある野球ファンとして期待することを書いてみたいと思います。
台湾野球はビギナーに優しい
試合自体は投低打高と言われて久しく、4割バッターが出るほど打者優位のリーグになっています。投手戦をじっくり見たいという通の方には物足りないかもしれませんが、大量点の入る打ち合いが多いので、野球をあまり知らない人でも盛り上がれるという良さがあります。スタンドにもファミリー層が多いです。球団が少ないこともビギナーにはプラスで、すぐに選手を覚えられるので敷居が低いです。のどかで人と人の距離が近い台湾ならではの空気がスポーツ界にもあって、選手とファンが近く、親しみやすい雰囲気が魅力ですね。
ビールの売り子さんはいませんが、その分夜市と呼ばれる屋台文化が球場にも根付いていて、人気の台湾B級グルメをつまみながら、夜風に吹かれて観戦する気持ちよさは格別です。応援や球場BGMは日本より騒々しいですが、静かに見られる席もちゃんとあります。
近年はチアガールばかりが話題になりますが、真っ先に目が行くのも仕方ない、というくらい応援がポップで、チアガールたちがかわいい。台湾美女たちは足が長くて筋肉質なので、間近で見るとダンスもすごく見ごたえがあります。選手もイケメンが多いので、ビジュアルから入って楽しむのも全然アリだと思います。
低迷を招いた3つの「しくじり」
魅力あふれる台湾野球ですが、実は近年観客数が伸び悩み、低迷していました…。そのせいでチーム数も最大7から徐々に減っていくのですが、そこにはどんな理由があったのか、しくじり先生風におさらいしてみましょう。
しくじり①八百長事件が多すぎた
台湾プロ野球は1984年のロサンゼルス五輪銅メダル獲得で野球人気が上がったことから、1990年に4チームで中華職業棒球連盟(CPBL)として発足します。93年には2球団増えて6チームとなり順調に発展するのですが、創設6年目の96年に最初の八百長事件が発覚しました。
そこからの3年間で1チーム加盟、3チーム解散で-2球団。渦中にもう一つ別のリーグが立ち上がります。ただでさえ球団が減ったところに、新リーグ台湾職業棒球大連盟(TML)にごっそり選手を引き抜かれるという大混乱に陥ります。
2リーグで台湾シリーズを目指したらいいのでは?と思うのですが、CPBLとTMLそれぞれ独立していて、まったく試合をしませんでした。ちなみにヤクルトスワローズの高津臣吾監督が晩年所属したのはCPBL、渡辺久信氏(埼玉西武ライオンズGM)が選手兼監督で大活躍したのはTML、とそれぞれ別のリーグです。
大混乱の後も八百長発覚が後を絶ちませんでした。現地の「自由時報」がまとめた記事によると、台湾プロ野球30年の歴史で、少なくとも6回はチームぐるみの八百長が明るみに出ているんだとか。そのせいで観客動員数も激減したとあります。
ただ、最後の八百長スキャンダルは2009年です。私が台湾にいた2010年代は逮捕劇もなく、台湾プロ野球は徐々に黒歴史を払しょくしつつありました。特に2013年のWBC(ワールドベースボールクラシック)で台湾代表がベスト8に進出したり、日本で陽岱鋼選手(当時は日本ハムファイターズ所属)が活躍すると野球人気が高まりまして、陽選手も出場した2015年のプレミア12の台湾戦はそれはそれは大変な盛り上がりだったのを覚えています。
しくじり②プロとアマがすれ違いすぎた
国際大会での活躍で野球人気が復活したにもかかわらず、プレミア12に続いて開催された2017年のWBCで、ガッカリなことが起こります。プロ野球で前年優勝していたLamigoモンキーズという人気チームが、WBCに選手を出場させないと言い出したのです。理由はアマチュア連盟が主導となって代表チームを編成していたため。CPBLとアマチュア野球連盟が毎回揉めるのです。
この結果、日本球界からも注目されていた王柏融選手(現・日本ハムファイターズ)など台湾の有力選手が出場できない事態となり、結局台湾は1勝もできずに1次ラウンドで姿を消すのです。王選手はこの年台湾プロ野球で2度目の4割を打って三冠王になり、NPB入りするんですから皮肉なものです。
この時監督を務めていたのが、西武ライオンズ黄金期を支えた郭泰源氏でした。郭氏のネームバリューも手伝って注目されていただけに、ここで結果を出していれば野球人気が加速していたはずなのに…と残念でなりません。
しくじり③球団売却が多すぎた
八百長事件以降、2リーグに分裂→合併でチームがなくなったりチーム名が変わったり、選手が何十人もクビになったり、老舗球団が身売りしたり。親の代から応援してきた球団がそんな目にあったら、どんなに熱心な野球ファンでも応援しつづけるのはしんどいです。
球界きっての人気球団だったLamigoモンキーズも、2019年には日本の楽天に買収されました。台湾プロ野球のチームなのに、オーナーはあの三木谷浩史氏、フロントも東北楽天ゴールデンイーグルス関係者です。本拠地は国際空港のある桃園市。台北市内からアクセスも良く、今後発展が見込める開発中のエリアということころは、さすが楽天。
いつの時代も変わらずそこにあるチームほど、自分の人生と重ね合わせられるし、家族にも熱を伝えていけるものです。それにね、老舗球団が揺らぐのは球界全体にとって非常にまずい事態です。
悔しいからあんまり書きたくないけど、なぜ私が半世紀に1度しか日本一になっていないベイスターズのファンをやっていられるかといえば、それはやっぱり、東京にジャイアンツというラスボスがいるからなのです。歴史があってお金があって力がある巨人に勝って、巨人を倒してナンバーワンになることに、ベイスターズファンのカタルシスがあるわけです。だからラスボスは盤石でいてくれなくちゃいけない。
常勝軍団には強いチームの、暗黒球団には弱いチームの美学がある。それぞれのカラーで輝かしい栄光や敗北を積み重ねていく、その歴史を一緒に歩むことこそが、プロスポーツを応援する醍醐味ですからね。
球界再編、地域密着化、どっかで聞いたことある!
偉そうに台湾プロ野球について振り返ってみましたが、日本のプロ野球だってかなりの黒歴史を作りながら、試行錯誤して今日までやってきた、というのは野球ファンなら周知の事実だと思います。
国際大会も以前はアマチュア中心で組まれていたんですけど、WBCから侍ジャパンを事業化して、プロ野球全体の人気と財政の底上げに成功しているんですよね。これには賛否両論ありまして、私なんかも積極的に侍グッズを購入したりはしないファンですが、NPBエンタープライズの設立理由である「プロとアマが一体となって野球振興に取り組むため」という題目は、台湾プロ野球でも今後目指してほしい方向性ではあります。
NPBでも“球界再編”といわれた壮絶なゴタゴタがありました。オリックス・ブルーウェーブと近鉄バファローズが合併し、東北楽天イーグルスが参入するまで、ナベツネ、ダイエー、選手会と千両役者が連日マスコミをにぎわせました。選手がストライキを起こして試合中止となった時は、いよいよメジャー流になったなぁと隔世の感を禁じえなかったものです。スポーツに理解のないオーナーや球界の悪しき習慣をみんなで傷だらけになりながら断ち切って、今の健全なイメージと地域の人に愛されるプロ野球があるわけで、何事も一朝一夕にはいかないなと思います。
今回の新規参入で南部の高雄市を本拠地とした台鋼ホークスができて、6球団の本拠地が台湾全土にバランスよく散らばり、地域密着の体制が整ってきた、といえるのではないでしょうか。この6球団体制を維持するためにも、それぞれが地元の人に愛される球団になっていってほしいですよね。
いざNPBを引き合いに出してみると、復活のカギとなった国際大会での活躍、パ・リーグの復活、選手のクリーンなアスリート化、このすべてにおいて、イチロー選手の貢献はとんでもなく大きいと改めて思いました。どんな世界でもやっぱり一番重要なのは人ですよね。台湾プロ野球の新球団でも、あっと驚く選手の加入や、台湾球界を引っ張っていってくれるカリスマ的な存在の誕生が待たれるところです。
台湾でも上のマップの北から5球場では観戦しましたが、台鋼ホークスが本拠地にするという高雄の澄清湖球場だけは、行ったことがないんですよね。灼熱の高雄で台湾ビールを飲みながら、台鋼ホークスの試合を観戦する。その日が待ち遠しいです。