【あのり拍子(井出辰之助)インタビュー】地域に受け継がれてきた伝統をつなぎ、地元へと還元していくための新しい祭り(フェス)。
2022年は数多くのフェスが開催された。その多くが、コロナ禍からの再生という大きなミッションを持っていたと言っていいだろう。新しいフェスも生まれ、開催される時期は以前よりもはるかに長くなっている。11月最後の週末に、三重県志摩市で初開催されるのが『あのり拍子 -anorhythm-』。このフェスを企画し、立ち上げたのがインフュージョンデザイン。インフュージョンデザインは、GREENROOMやTAICOCLUB、NEW ACOUSTIC CAMPなどの数々の野外フェスの制作に関わり、現在の野外フェスの一役をかってきた会社だ。FUJI & SUNでは主催にも名を連ねている。
「たまたま志摩市にご縁ができたんですね。コロナ禍になりイベントやフェスが開催されなくなって。それで志摩の自然と音楽をコラボした映像プロジェクトをやろうと思い、提案したんです。地元の方々と話していくうちに、うちはイベント会社だし、いろんなフェスに関わってきたし、本気のものでこの場所と向き合いたいと思うようになっていったんです。本気のものっていうのは、つまりフェスの開催。志摩のなかでも、中心部から離れた安乗(あのり)という町の有志会の方々と知り合ったことで、一気に話が進んでいったんです」と語るのはインフュージョンデザイン代表の井出辰之助さん。
安乗は志摩半島の東端に位置し、この地域で継承されてきた安乗文楽(人形浄瑠璃)は戦国時代の九鬼水軍が起源だと言われている。
「安乗は人口が1200人から1300人くらいの小さな漁村です。町のほとんどの方が漁業に関係していて、海女さんも現役で多くいらっしゃる。有志会の方々は30代から40代が中心で、新しいことをやりたいっていうチームなんですね。話していたら、フィッシュマンズが好きですとか、角胴真美さんってやばいですよねって、会話のなかにそんな単語が出てくる。自分たちと同じような感覚を持っているだろうし、一緒におもしろいことができるなって思ったんです」
そして安乗という場所でのフェスの開催へ向かって動いていったという。安乗は名古屋から電車とバスを乗り継いで3時間以上もかかる場所であり、決して気軽行ける立地ではない。なかなか行けない場所だからこそ、フェスを開催する意義が生まれるし、フェスがそこを訪れたり知ったりするきっかけになる。
「会場近くにある安乗崎灯台は、来年150年を迎えます。そこに向かって、まず足跡を作りたかったんですね。コンセプトとしては、コンテンポラリーダンスと音楽が絡みあって、安乗の歴史や自然のなかに刻まれているリズムを呼び戻していくこと。これって、この場所にしか生まれないことだと思うんです。今回は、地元の方々と共闘しながらDIYで作っています。江戸時代から文化が継承されてきた町。今もその文化を大切にしているけれど、ここにも後継者不足という問題があります。『あのり拍子』を開催することで、安乗の人たちに『おもしろくなっていきそう』って感じてもらいたいんですね。そして安乗という場所が持っている可能性を感じてほしい。フェスを作っている概念は自分にはまったくなくて、地元の新しい祭りにフェスで培ったものをミクスチャーしていく感覚でいます。そして3年後か5年後には、地元が主催の祭りになって、それに僕らが参加させてもらう。そうなったときにはじめて、『あのり拍子』が成功したと言えると思っています」
それぞれの場所で培ってきたとの土地が持つオリジナルの魅力。それを外から俯瞰し、ちょっとの味付けをすることで再提出する。フェスと祭りを融合させ、いろんな人を交流させること。新しい祭りのあり方のひとつを『あのり拍子 -anorhythm-』は提示しようとしているのだろう。
開催日:11月26日(土)
会場:安乗岬園地(三重県志摩市)
出演:大友良英、角銅真実、冥丁、小暮香帆