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タイBLドラマ「A Tale of Thousand Stars / 千星物語」(2021年) GMMTV キャストとあらすじ

2022.11.24 03:56

おすすめ度:★★★☆☆ 誰かの幸せは誰かの不幸せ


GMMTVのタイドラマ「A Tale of Thousand Stars / 千星物語」(2021年)を見ました!裕福な家庭に育ち、バンコクで工学を学んでいる大学生ティアン。何不自由のない暮らしにどこか満たされず退屈で不毛な日々を過ごしていた彼に、ある日突然訪れた命の危機。心臓移植手術を受け、一命を取り留めたティアンでしたが、自分にとってのこの「幸運」は誰かにとっての「不幸」であることを知る。自分が手にした「第二の命」を臓器提供者への恩返しに捧げることを胸に決め、チェンマイへと向かうティアン。想像以上に心に響くストーリーで、偶然と運命の境目がわからなくなる展開に釘付けになります。細部の演出まで繊細でドラマチック。おすすめの作品です。


ティアンの心臓移植手術

バンコクの大学生ティアンはどこにでもいる普通のおぼっちゃま。裕福な家庭で甘やかされて育ってきてため、お金の価値もよくわからず、毎日をなんとなく過ごしている。ティアンはもともと心臓が弱く、心臓移植が必要と医者に言われていましたが、ある日、事故により病院に搬送された彼は今すぐにでも心臓移植手術をしなければ命がない状態に。そんな不幸が突然訪れた時、バンコク帰省中に交通事故で命を落とした女性の心臓がティアンのもとに届く。物語のスタートからなんともショックな展開ですが、これが後々ティアンの運命を大きく動かすことに。


トーファンの臓器提供を受けて命を救われたティアンは、自分の命が助かったと同時に誰かの命が失われたことにどこかやりきれない感情を覚え、自分に第二の命をくれたドナーが誰なのかを突き詰めていくことに。たどり着いた先にあったのは、チェンマイの山奥パパンダオ村でボランティア教師をしていたトーファンという若い女性だった。


パパンダオ村でボランティア教師に

教師として奮闘するトーファンの日記を見つけたティアンは、自分に命をくれた彼女への恩返しをするため、誰にも言わずにボランティア教師に応募し、トーファンの日記を胸にひとりパパンダオ村へと向かう。ミャンマーとの国境に近い山岳地帯で、電気も水道もないような村での生活に戸惑いながらも、少しずつ前向きに努力し、村人たちに馴染んでいくティアン。


都会からきた何も知らない生意気そうな青年が、大自然や人のあたたかさに触れて素直に成長していく過程が、観ていてとても爽快です。第二の命を与えられたティアンは、以前のようになんとなく生きていてはいけない、と強く自戒したんでしょうね…。学校の子どもたちに対しても、自分に教えられることは多くないと気づいたティアンは「先生」ではなく「ティアン兄さん」と呼ぶように言い、子どもたちも「生徒」ではなく「家族」だと思うようになります。


森林保護隊のプーパー隊長との出会い

そこでティアンが出会うのが山岳地帯を守っている森林保護隊のプーパー隊長。なぜかトーファンの存在を感じるティアンを気にかけて、あれこれと手助けをしてくれます。心臓移植をした人に、臓器提供をした人の記憶や人格が移るという話がありますが、このドラマはまさにそんな不思議な感覚をBLに取り込んでいます。そして、すべてのカルマがこのパパンダオ村でつながっていく。


BLドラマなんですが、ティアンに心臓を提供したドナーのトーファンが女の子だったこともあり、タイ映画「Dew / デュー あの時の君とボク」(2019年)の主人公デューの生まれ変わりと同じで、男女の恋愛とBLとの境界線が絶妙にぼやけています。この状況設定からBLへと発展させるシナリオは天才かも。これでBL自体が「いいか悪いか」「好きか嫌いか」といった一次元的なレベルからもっと進んで「不可抗力」になる気がします。


でも、ドラマが進むにつれて、トーファンに関わりなく、プーパー隊長がどんどんティアンの人間的な魅力に惹かれていくので、途中からトーファンだけではなくなるように見えます。やはりその意味では着地点はBLに間違いなし。でも、ティアンだけかと言えば、やはりティアンに宿るトーファンの面影にプーパー隊長は惹かれていく。いったりきたり、かつちょっぴりどこかスピリチュアル。チェンマイの山岳地帯がその神秘的な世界観をみごとに映像美で映し出しています。


#EarthMix:アース&ミックス 

ボランティア教師になる大学生ティアン役は、ミックス・サハパー・ウォンラート(Mix Sahaphap Wongratch)、森林保護部隊のプーパー隊長役をアース・ピラパット・ワタナセッシリ(Earth Pirapat Watthanasetsiri)が演じています。そのほかに、お調子者で明るく楽しい森林保護部隊員役で、ドレーク・サッタブット・レーディキー(Drake Sattabut Laedeke)も出演しています。


ちなみに主演のアースとミックスは「55:15 NEVER TOO LATE」の第8話で、学校のグループ課題でポールとピプがBLドラマについて調べることになり、その研究対象として実際のアースとミックスが登場します!こんな小ネタもおもしろいGMMTVのドラマシリーズ。


ティアンが村に来た理由

パパンダオ村の人たちは今もトーファンがいつか村に帰ってくると信じています。というのも、トーファンがバンコクへの帰省中に交通事故死したことを村人たちはまだ知らないから。ティアン自身何度もそのことを伝えようとするけれど、どうしても適切なタイミングを図ることができず、トーファンの死、そして、自分がその命を受け継いだことを伝えられないまま、時間が経ち、パパンダオ村の人たちと家族のように仲良くなっていきます。


このことがなぜこんなにもティアンにとって重荷なのかと言うと、実はトーファンが命を落とした交通事故は自分が招いたものだったから。自分の車がトーファンの命を奪っただけでなく、彼女の心臓を移植することで自分は命を助かった。トーファンのことが大好きな学校の子どもたちや村の人たちがこれを知ったらどう思うだろうか。それを考えると、なぜ自分がパパンダオ村にやってきたのか、本当のことを伝えることができませんでした。


悩んだ挙句、火災で消失した学校の再建を祝う集会で、本当のことを伝えたティアン。トーファンのことを家族のように愛していた村の人たちの反応は、ティアンを軽蔑し、拒絶。プーパー隊長はティアンの家からトーファンの日記を見つけ、なぜ今まで嘘をついていたのかとティアンを問い詰める…。あの日の自分を責め、村を出ることにしたティアンに、プーパー隊長は「失望した。もう二度と顔を見たくない」と言ってしまう…。そう、人生は後悔だらけ。あの日の自分を責める以外に、できることなんて何もない…。


しかし、実際には、トーファンを轢いてしまった車はティアンが運転していたものではなく、ティアンの友達が運転していたもので、もともと心臓疾患を抱えていたティアンは突然襲った心臓発作が原因で病院に搬送され、その後心臓移植手術を受けていたのでした。





お化けの丘とパパンダオの崖

おおみそかの日、パパンダオの崖で1000の星に願いをかけたら、その願いは叶うという伝説。このドラマのタイトルにもなっているとおり、1000の星に生前のトーファンの願いをかけることがティアンの願いでもありました。しかし、パパンダオの崖で願う前にやってきた危機が「お化けの丘」。自然保護区にもかかわらず、地元の有力者が希少動物の毛皮の闇取引をおこなっているアジトをティアンが見つけ、追及するのですが… この時、助けに現れたプーパー隊長が銃弾に倒れてしまう… そして、物語はいよいよ佳境へ。


トーファンのことを「最愛の妹のように愛していた」と話していたプーパー隊長。トーファンがバンコクへ帰省する前、彼女はプーパー隊長に思いを伝えていた。でも、パパンダオの崖でプーパー隊長が出した答えは、おそらく「ノー」。それでも、「心算が必要だからバンコクから戻ったら返事を聞かせて」と話していたトーファン。しかし、その日が来ることはなかった。


プーパー隊長の病室でティアンが言う。「罪悪感から逃れるために、自分に何ができるかだけを考えてしまっていた。真実を伝える代わりに、トーファンになって、彼女のやり残したことをやろうと思った。でもそれは間違っていた」と…。そして病院にはティアンのお父さんが迎えに来ていた。しかし、父親への反発心からティアンは「どうしても叶えたいことがある」と村に残ることを選ぶ。


許しを乞うことは、自分を許すこと

ティアンがどうしてもやりたかったこと、それは大晦日の日、パパンダオの崖でトーファンの願いを叶えること。でも、その願いが何かはわからないので、ティアンにはその願いが叶うよう、夜空に輝く1000の星をひとつひとつ数えることしかできない…。ティアンが手にした第二の命は、乗り越え難いほどの罪悪感を与え、ティアンはトーファンに対して償うこと、そして、許しを乞うことしかできなかった…。


そんなティアンに響く村長の言葉。「許しを乞うことは、謝ることよりずっと難しい」と。そして、許しを乞うことは自分で自分を許すことでもある、と…。ティアンは十分苦しみ、償った。プーパー隊長もパパンダオ村の人たちも、それをわかっていた。大晦日、パパンダオの崖にトーファンのハート(心臓)を連れてきたこと、それ自体がトーファンの願いを叶えたと、プーパー隊長はティアンに言う。そしてこれが、ティアンが自分を許すのに一歩足を踏み出せた瞬間だった。


3か月のボランティア期間は終わり、紆余曲折の末、バンコクの自宅へ帰路に着くティアン。休学していたティアンは工学部をやめ、教育学部で教師になる道を選ぶ。チェンマイの山奥で、人生を変えた出会いの数々こそ、この世界に生きる奇跡。


というわけで、GMMTVのタイドラマ「A Tale of Thousand Stars / 千星物語」は、BLでありながらそれだけではない、「命の重さ」「悔いなく今日を生きる大切さ」について考えさせられるおすすめのヒューマンドラマです。


あわせて観たい作品

このドラマのコンセプトに非常によく似た作品に、タイ映画「すれ違いのダイアリーズ / The Teacher’s Diary 」(2014年)があります。心臓移植手術や1000の星伝説などのシナリオはまったく異なるのですが、水上の貧しい村の学校に赴任した先生が、前任の先生が書いた日記見つけ、心を通わせていくという非常に素敵なストーリー。ジーンとくる感動作で、こちらも非常におすすめ。