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たかしまを彩る人 color.16 おかん時々photographer(フォトグラファー)麻美(まみ)さん

2022.12.01 00:00


 高島の琵琶湖の朝景をテーマに、日々変わる琵琶湖の表情を捉える女性がいる。


 「個展をすることになった時に、しっくり来るのが〈おかん時々フォトグラファー〉という表し方でした。」と話す麻美さん(高島市今津町)。 


 麻美さんは10歳の夏休みに、自然豊かな高島を親しむ両親の意向で京都府宇治市から移住。 将来は司書になるのが夢だったほど、知的探求心が旺盛な性分で高校の図書室に入り浸るような子ども時代を過ごした。


 「縁あって図書館の臨時職員として従事したのち、本屋が運営するパソコンのインストラクターとしての仕事も経験。手が空いたら手伝いに来て欲しいとお声がけをいただいて、様々な業務させていただいているうちに、お知り合いも増えていきました。」


 ある時から知り合いが主催する地域振興イベントのスタッフとして呼ばれるようになって、ビーズアクセサリーの作家としても出店していくと、そのフットワークの軽さに『麻美ちゃんは止まってない』と、揶揄されるほどだった。とあっけらかんと笑う。


 家事育児、仕事は掛け持ちで18年前から新聞配達をしていた麻美さん。

 配達を終えると、湖岸近くの駐車場に停めてしばし琵琶湖を眺めたり、湖岸を散歩して過ごすように。 


 日が昇れば家事に育児、仕事。夜明け前の月や、白んでいく景色。夜と朝のはざまに視線を投げ、目まぐるしい一日が始まるまでのわずかな時間に味わう静謐(せいひつ)。それは、彼女にとって貴重な息抜きだった。 



 「13年前くらいから、携帯電話で撮るようになって。遠方に住む友人が気落ちしていた時は、少しでも励ましになればと、朝景を添付して送っていたこともありました。」 


 そうやって、離れた場所にいても、今の景色を分かつことで静かに寄り添うことができた。 



 携帯で撮り始めてから次第に、自分が見ている景色の再現性に物足りず、歯がゆさを感じるように。 写真という形で、目の前の景色を共有する手段に出会えたのなら、なるべくそのままを切り取って伝えたい。そう思うようになったという。 


 「その翌年の2009年には、これまで使っていたコンパクトデジタルカメラから、一眼レフに思い切って買い替えて。子どもたちの行事や成長の記録を撮りつつ、日課となった琵琶湖の景色を撮り溜めました。」 


それから10年以上が経ったけれど、同じ時間と場所でも景色が微妙に違うのが興味深いと麻美さんは話す。 やがて、フェイスブックやインスタグラムなどのSNSで、朝の景色を投稿するように。 



 「そうこうしていると、次男が中学生の頃に、学校を休んで外と距離を置くことがあって。」

麻美さんは、〈我が子にとってのベストは何だろう〉とサポートの最適解を模索する日々を過ごすうちに琵琶湖に足が向かわなくなったことも。撮りたい気持ちが無くなったわけではないけれど、自身のことは後回しで良かった。 


そんな時期を過ごしつつ、これまで撮り続けていたからこそできる構想を、ほのかに描いていた。

けれど、様々な友人から個展をしないのかを訊ねられても踏み出せない日々だったという。 


そんなものだ。 

子の成長を見届けたら。 

介護が落ち着いたら。


足元に絡まった糸が、ほどけるまで。

ほんの少しのくすぶりを、見ない振りして居られた。


けれど。 


 「私も体力が落ちてきたな、と感じる歳にもなって。人生に後回しにできないことは、自分にもあると気が付いて。」 穏やかなトーンで話し、顔を上げた。



だから。



麻美さんは、2021年10月に、一年366日分の琵琶湖の朝の景色を捉えた「名前の未だない写真展」(たいさんじ風花の丘/高島市安曇川町)を開催。


会場では、これまで毎日のように琵琶湖へ通い、撮り溜めた写真をカレンダーに見立て、展示した。 穏やかな晴れの日も、嵐のように吹き荒ぶ日も、雪の日も。 日々の気取らない様子を一枚一枚に。


来場者は、その見応えのある写真を足を止めてじっくりと鑑賞した。


 「個展の開催を見守り喜んでくれた友人に、『やりたいけど、なかなかできんかった。』とこぼすと『やりたいと思ったら、やったらええねん。』と言われて。その時、ふっと肩の荷が降りました。」 


その一言で、これまで踏ん切りが付かずに過ごしたことは、無駄なことではないし、今は今。と前向きになれたと振り返る。 


個展の翌年の2022年は、京都と高島で写真展を開催。

11月にはたいさんじ風花の丘にて、「My Favorite(マイフェイバリット) 366日分のびわ湖と○○より(仮)」と題し、数ある写真をぐっと絞りこんで展示。 


また、麻美さんと親交深い作家を招いて購入可能なブースも併設。

写真展は好評にて会期を終了した。 


インスタグラムでも彼女の撮影したものをたくさん見ることができるが、実際に刷り出したものを見るほうがその美しさをより堪能できる。 麻美さんは星や野鳥にも詳しく、撮影当時の状況などを聞くとさらに楽しめるので、おすすめ。写真展開催の折にはぜひ。




和紙に刷り出され、琵琶湖が見せる豊かな表情を再現するのにぴったりだった。


 「今回の写真展は額装にも力を入れ、知り合いの写真家さんの厚意で譲り受けた額で飾ることもできました。」と、麻美さん。 



燦々と明るい光が注ぐ会場。白を基調とした館内は、写真の世界にも浸りやすい。 



今年二十歳となった次男が、家事や介護など麻美さんのフォローをしてくれて以前よりも動きやすくなった、と話す。


 誰しもが考える〈自由になったら〉という設定は、目途のつかない期限を含んだ〈不自由な設定〉でもある。 それなら今できることを、力を借りながら組み立てていくほうが気持ちがぐんと楽になるのかもしれない。 



麻美さんは、写真を見て琵琶湖に行きたいと思ってくれた人が、その一枚と場所が乖離することなく出会ってほしいとの思いから、レタッチはしないという。 


 それはきっと、彼女が自然が見せる表情と、心震える瞬間に立ち会い続けていたからこその想いかもしれない。


 「来年は50歳の節目だけれど、写真展は2、3年後の開催を目標に、じっくりと制作していきたいです。」と麻美さんは語った。


 これからも、そのままの景色を写真で捉えることの喜びや楽しさ、難しさに誠実に向き合いながら。


(取材・撮影/川島沙織) 


フォトブックのほか、 2023年のカレンダーも 販売開始。

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