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小説も映画もすばらしい作品特集

2022.11.26 03:36

 こんばんは。

 あれよあれよという間に、11月最後のブログ更新でございます。

 ただあやかりたいのはもはや12月、そう、12/1映画の日。

 初期の映画装置だったキネトスコープが、日本で初めて神戸に輸入上映されたのが1896年11/25~12/1、ということから、毎年12/1が映画の日となったそうです。

 ただそんな由来はさておいて、たいへん実益の多い記念日で、端的に言えば、ほとんどの映画館で1000円で観られる日なのです。現在映画鑑賞の定価は1900円、毎月1日のファーストデーや毎週のサービスデーであれ、安くなっても1200円が相場です。しかし12/1だけは、1000円で観られることが約束されているのです。見逃せません。

 12/1に観るのは何にしようかと考えてもらう参考に……と言いたいところですが、残念ながら現在公開中の作品は私の力量不足ゆえテーマにはできません。けれども過去作の中でも、表題にありますように、小説原作映画でありながら小説も映画も素晴らしかった作品を紹介したいなと思います。


 原作小説も映画も素晴らしい、と聞いて、皆さまどれくらい思い浮かびますでしょうか。

 私の拙い所感ではありますが、割と難しいと思うのです。

 原作のファンの中には大好きな場面を映像として再現される、そのクオリティを求める方もいらっしゃると思いますし、愛ある再現を評価軸に据えて映画館に向かう方も少なくはないでしょう。しかし、原作に敬意を持ち、完全再現に到達した映画があったとしても、それでは原作を越えることはできません。

 その点で、2021年、私には大きく感動させられた映画が2本ありました。一つは濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』、もう一つはアニメ映画ですが平尾隆之監督の『映画大好きポンポさん』です。一方は村上春樹さんの短編、もう一方は杉谷庄吾さんの漫画が原作ですが、両作品とも、原作にない場面に劇中最高の盛り上がりがあるのです。もちろん両監督に原作への敬意が見えなかったわけでは全くありませんが、それ以上に、この原作を利用して自分の表現を生み出したいという、熱く、傲慢で、気高い意欲が私を魅了しました。

 小説と映画、二つの媒体で展開されて共にその意義を完遂させた作品、あまり多くはないと思っております。

 ただ、私の主観ではありますが、3作選んでみましたので、どうぞお付き合いいただければ幸いです。




綿矢りさ『勝手にふるえてろ』/大九明子監督

 綿矢りささん、17歳でデビュー、19歳で芥川賞を最年少受賞したのが2004年でしたが、本当に、あの時代を生きていれば本読みでなくても誰でも名前を知っているというくらい有名な超新星大型ルーキー作家さんでした。

 でした、と過去系で表現しましたのは「超新星大型ルーキー作家さん」なんて思っていたあの日々が恥ずかしいくらい、今でも最前線で面白い作品を毎年生み出し続けている、実力派作家さんだからです。

 そんな綿矢りささんが、昨今また注目を浴びたのが2017年に公開された邦画『勝手にふるえてろ』です。

 2017年12月に公開され、その後口コミで瞬く間に上映拡大をしていった作品でした。私が映画館で観たのは翌年2月でしたので、大型シリーズものではない映画作品が、三ヶ月上映を延長したり渡り歩いたりしたことは、この作品に多数のファンがいることの証拠となるのではないでしょうか。私も映画を観た感想は、とにかく無茶苦茶楽しかった、でした。

 原作を読んだのが映画を観る数年前でした。

 それは高校時代、同年代の彼女が芥川賞を受賞したということに何故か複雑な感情を持ちながら『蹴りたい背中』を読んで以来、数年ぶりの綿矢りささんとの再会でした。高校時代以降少ないながらも積み上げた読書経験もあるのでしょうけれど、『勝手にふるえてろ』はすごく読みやすく、面白かったのです。

 主人公ヨシカはクセがあり、接しやすそうとは言えない性格ではあるのですが、蓋を開けるとかっこ悪くて、身近で、なかなか愛すべきところだらけの可愛い女性です。まぁとにかく一人語りが面白い。「彼氏」が二人いて、「イチ」は最愛だけど到底添い遂げられそうにはない人で、「ニ」は全く愛していないけれどなんやかんや結婚しそうな人。高校時代から積み重なった「イチ」への想いがテンポよく都合よく気持ちのいい文章で綴られながらも、現実的な「ニ」との恋愛が進んでいくのです。

 このアンバランスな自分語りが面白い作品を、映画がどう調理するのか、まずそこに興味を惹かれましたものでしたが、見始めると最初のシーンから映像はアイデアに満ち満ちていて、顔がにやけるのをずっと抑えられなかった。面白さに、感動したのです。

 大九監督はこの作品でいま注目すべき監督の一人となり、後に『私をくいとめて』で、再度綿矢りささんの作品を映画化し、それも話題になります(ポラン堂にしれっとDVDが並んでいます)。まさに力のある作家と力のある監督の、素晴らしいタッグですので、見ておいて損はありません。ぜひ。




松本清張『砂の器』/野村芳太郎

『砂の器』と聞いて、皆さまどの『砂の器』が思い浮かぶでしょうか。

 大学の頃に先生(ポラン堂店主)の授業でまる一コマ、松本清張を学ぶ授業があったのですが、まず冒頭、先生が私たちの興味をひくために紹介するのが松本清張作品のメディアミックスの回数でした。地道なカウントによって資料を作った先生も涙ぐましいですけれど、教室から笑いが起きてしまうほど、松本清張作品が映画化・ドラマ化される回数は他と桁違いなのです。

 『砂の器』。Wikipediaに載っているだけでも、1962年版、1977年版、1991年版、2004年版、2011年版、2019年版のドラマ化があります。そして枠外といってもいい、その年表の外に位置するのが、画像にあります1979年の映画『砂の器』なのです。

 何故年表の外にいるかって、その完成度の高さと、多くの人の記憶に残る作品となった結果、後世の『砂の器』映像化の大半は、原作を元の小説とするのではなく、1974年映画をリメイクしたものになっていったのです。

 あらすじとしては、東京の蒲田駅の操車場で男の死体が発見され、ベテラン刑事の血と汗の滲むような泥臭く執念深い捜査で、犯人を見つけ出すというもの。小説だと、刑事側と若き新進芸術家集団「ヌーボー・グループ」の視線が交互に描かれます。

 えーこの記事の表題通り、両方楽しむのであればぜひ、小説→映画の順で読んでいただきたいです。理由を簡単に言えば、小説にはちゃんと犯人に辿り着いたときの驚きがあり、映画はあくまで犯人が誰かなどを『砂の器』を知っていても楽しめる作品として作られているからです。

 黒澤明から「日本一の助監督」と言われしめた野村芳太郎、脚本に橋本忍と山田洋次、そして名だたる役者の名前の最後にある渥美清。原作にないラストが最高の場面となり、伝説的作品となった映画です。未見の方、一度観ておいて損はないです。

 ただ一つ、言い忘れたくなかったのですが、私はこと『砂の器』に関しては、小説にのみ真実があると思っています。映画で、たくさんのドラマで多くの胸の裡や背景を明かされる犯人ですが、小説だとよくわからない人でしかありません。だからこそ本当の彼はやはり小説にしかいないのかもしれない、そう考えると、メディアミックスの意義を含め、大変味わい深い作品なのです。




森絵都『カラフル』

/パークプム・ウォンプム『ホームステイ ボクと僕の100日間』

 最後は森絵都さんの超名作ヤングアダルト小説が、2018年タイで映画化された作品です。

 この画像の上部に「『バッド・ジーニアス』製作チームが贈る青春ファンタジー」という宣伝文句がご覧いただけますでしょうか。『カラフル』も森絵都も大好きな私ですが、何よりこの文句に惹かれ、観に行ったものでした。それほど『バッド・ジーニアス』という受験カンニングエンターテインメントムービーが衝撃的で、楽しく心に残ったせいです。

 インド映画が歌って踊る(そうでないものもあります)、韓国映画がストイックで文学的(そうでないものもたくさんあります)、だとすると、タイ映画はポップで可愛くておしゃれです。私の主観ですがテンポが良くて、むちゃくちゃ観易いです。

 原作の『カラフル』は、自分が若いうちに出会えて良かったと思える作品の一つで、多くのまだ幼い人たちが出会ってほしい作品の一つです。

 生前の罪によって輪廻のサイクルから外された主人公が、天界で抽選にあたり、現世で再挑戦するチャンスを得るところから始まります。自殺を図った少年の身体にホームステイし、天使から課題とされていた、自分の罪を思い出すことにぶつかっていくのですが……。

 青春ものでありながら、死やミステリの要素があり、先が気になって読めばちゃんと驚かされるという、このコーナーは関係なくても読んでいない方皆さんに大声で読む価値がありますよーと叫べる作品です。

 それを今をときめくタイの映画スタッフたちに調理させたとしたら、どうなるでしょう。感想を言ってしまうと本当に、アイデアに富んだ演出のオンパレードで知っている話だろうがオチがわかっていようが飽きが来なかった。最初天使と話すシーンですら、夜の摩天楼を思わせるかっこよさでして、しかしポスターの期待通り高校生らしいみずみずしさもあって、とにかく、機会があればご覧になってみてほしいです。




 以上です。

 どれも映画化する意味があるとその熱量に胸打たれる素晴らしい作品です。

 もちろん最初に長々と喋ってしまった、小説・映画どちらも素晴らしい、の定義も私の好みですから、みなさんにはみなさんの評価の仕方や楽しみ方があると思います。原作好き過ぎて、映像化しても観たくないという姿勢も、きっと主流の一つでしょう。

 とはいえ皆さま、来る12/1は映画の日です。もう一度申し上げますが、映画観ないと損な日です。

 映画館で、普段使っている集中力を何割も増すことができるあの不思議な真っ暗な空間で、良い映画との出会いに没頭してみるのはいかがでしょうか。

 また、ポラン堂古書店でも映画の棚は展開中です。そちらもぜひ。