第14回 「オマージュ」と「換骨脱胎」
「オマージュ」と「換骨奪胎」
教科書で習った文学で印象に残っているのは芥川龍之介の「蜘蛛の糸」でした。
しかし「蜘蛛の糸」は芥川の創作ではありません。一八九四年にポール・ケイラスという西洋人による小説をモチーフに書かれたようです。タイトルは「The Spider-web」で「蜘蛛の巣」ということになります。
主人公の名前も同じ「カンダタ」。人によって「パクリ?」と思われるかもしれませんが「換骨奪胎」(かんこつだったい)をしたということです。
骨を取り換え、胎児を取って使う意味として古人の詩文、発想、形式を踏んで独自の作品を創りあげることをいいます。したがって「蜘蛛の糸」はポール・ケイラスの小説を換骨奪胎した小説ということになります。
ケイラス版ではお釈迦様が奇跡の力で作った蜘蛛をカンタダにつかわせるようです。
そして救済のプロセスには三段階あり、ケイラスのオリジナルではなく、仏教の説話集にあるエピソードを元にしています。
芥川版には仏教観がやや欠落していると批判されている向きもあります。ですが、宗教色や教訓的な思想をなるべく排除し、シンプルに描いてみせた芥川版の方が読みやすくて私は好きですが……。
一八八一年にイタリアのカルロ・コッロディが書いた児童文学「ピノッキオの冒険」。
ピノキオの換骨奪胎として思い浮かぶキャラクターは「鉄腕アトム」でしょう。ピノキオを意識してアトムの着想が閃いたわけではないかもしれません。が、アトムのデザインはミッキー・マウスを下敷きにして描かれたのは確かでした。
ピノキオがひとり歩きをして、ディズニーアニメの名作になったことはご存じのとおりです。アトムも欧米に進出して「アストロボーイ」としても活躍しました。
換骨奪胎は「焼き直し」という表現にも使われます。どこか「二番煎じ」というニュアンスがあり、代わり映えしない、面白さや新鮮味が半減する感が否めません。
しかし、小説、戯曲、俳句、シナリオなどあらゆるジャンルの文学は古典的な名作の形式を借りているものです。
そのうえで、作者にしか出せないオリジナリティーで勝負をしているわけです。
また、尊敬する作家や作品に影響を受けて似た作品を創作することを「オマージュ」といいます。
宮澤賢治「注文の多い料理店」、新見南吉「手ぶくろを買いに」、小川未明「赤い蝋燭と人魚」など好きな童話をオマージュしてみることをお勧めします。名作を一字一句、書き写してみるのもいいかもしれません。
画学生が名画を模写してテクニックを磨くことと同じ理由です。
浜尾