EPISODE7 -紗一-
【PROFILE】
・宇田川 紗一(うだがわ さいち)
・6月3日生まれ
・17-18歳 (高校2年生)※留年している
・176cm / 60kg / AB型
【DATA】
・心と有紗の息子①
名付け親は心。自分の1番最初の子である事と、愛妻の名前から1字貰いこの名が授けられた。
・生まれつき心臓病を患っている
有紗からの遺伝とされている。昔からよく発作を起こし辛い事もあったようだが、両親が優しく温かく守ってくれており、ちゃんと通院もして悪化する事は無かったそうな。
この病気の事を知っているのは他に若林、蒼芭、嘉乃、源次朗が挙げられる。
・とてつもなく面倒臭い性格をしている
色々あってそうなるのも仕方ないのかもしれないが、考えて考えて結局自分が我慢すればいいか……ってなるタイプである。それだけならまだいいがプラスで実はかなり頑固なのですごく面倒臭い。
【EPISODE7-紗一-】
両親はとても優しかった。
いつだって自分の事より子を優先し、何かを作ればめいっぱい褒めてくれた。
今も母の優しい声や父の温かい手を覚えている。
弟のハルもそんな両親が大好きだったし、いつだって紗一にべったりだった。
どこへ行くにも後をついて行き、何をするにも紗一のまねをしていた。
ハルが2歳という幼さで空手を始めたのも、紗一が習っているのを見て自分もあれをやりたいとゴネて聞かなかったからだという。
そんなハルがある日、両親の事はもちろん、紗一の事も忘れてしまった。
紗一は両親を殺した相手の顔を覚えていた。
街のそこら中の張り紙にあった顔だった。
「いい車を買ったから見せたかったんだ」「わざとじゃない」と、大きくて高そうな車から降りてきたその男を心底憎んだ。
そして事故が起きてすぐ、病院で怪我の診察を受けている時も、その男はすぐ側にいた。
執拗に医師にこっちの方は記憶はあるのか、と聞いていた。
あると答えたら何か変わるのだろうか。何となく危機感を覚え、紗一は「事故の時は何も覚えてない」と答えたという。
その瞬間、男は安心したように見伺えた。
その後、その男が病室の外でコソコソと電話をしているのを見かけた。相手は誰かはわからなかった。
「もし思い出したりしたら厄介だ」「早急に引き取り手を見つけろ」そう聞こえた。
そして、両親の事故後はハルと引き離され、母有紗の双子の妹である麻莉香とその夫の元に引き取られた。
しかし妹夫婦は紗一を引き取る代わりに事故を起こした犯人から多額の金銭を受け取っており、それが地獄の始まりとなる。
義母の麻莉香からの依存、それを知った義父からの暴力、持病で発作を起こしても放置など、とても一人の人間にされるべき扱いはされなかった。
“自分がこの家にいると何処かからか金が手に入るらしい”
物心ついた頃にはそれを完全に理解していた。
しかし誰かに助けを求めようにも、そうすると命を絶とうとする義母や、資金源である自分を何としても手放したくない義父からの依存を断ち切れずに高校生の頃までそれは続く事となる。
しかし義父母にもメンツがあるので表では普通の家族を装っていた。
義父母による虐待、不正受給、そして実父の功績、この三つだけは口止めされていたが、学校にも通わせてもらい、部活やバイトを止められる事はなかったそうだ。
唯一の救いは、昔父と空手をやっていた日々を想いながら入り浸れる虎校空手部。
そして嘉乃から聞かされる弟ハルの成長の話だった。
紗一は昔事故に遭った直後、父は即死だったが、まだ僅かに息のあった母の遺言を聴いていた。
もう虫の息だった母といくつか言葉を交わしたようだが、最後に「ハルに何かあったら助けてあげてね」と伝えられ、その約束だけが唯一の大切な繋がりとなっていた。
高校生になった今、何処か知らないがの何処かの高校のバスケ部で頑張ってるらしいハルのために夜な夜な働き、そこで貯めた金を仕送りするなどして不器用ながらもたった一人の家族を支えようとしている。
そしてそれは嘉乃からの仕送りだという事にしてもらっていた。
ハルが下宿している場所は嘉乃から聞いていた。どうやら虎校からは近いらしい。
しかしハルとは会うつもりはなかった。
そんな高校生活が続く中、以前より持病の発作が増えたように思った。
持病の事は、若林・源次朗・嘉乃・蒼芭なら知っている。
しかしちゃんと通院していると嘘を吐いていた。
そして一人でこっそりと病院に赴いた。
診断が終わると、病院の医師から「必ず両親に渡すように」と封筒に入った手紙を受け取る事となる。
しかし両親に渡してもどうにもならないので病院を出てすぐに自分で封筒の中身を見た。
そこには、症状が酷く、すぐに手術をしないと危険だという旨が記してあった。
紗一は自分でも驚くほどに冷静だった。
どうでも良かったというか、どうせそうだろうと思っていたのだ。
昔、もう少し身体が大きくなったら即手術だろうと、医師と両親が話していた事も覚えていた。
ここまで生きて来れただけでも誉だったのではないかと自分の心臓に向かって紗一は思った。
そして、自分が死んでもどうせ、両親を轢き殺した人間と義父母の汚い金銭の受け渡しは続くだろうと。
自分の存在というより、自分を引き取った事実こそが義父母にとっては資金源なのだと。
とは言っても、それに抗うほどこの世に未練もないし縋り付きたくもなかった。
むしろ、両親の元に早く行きたかった。
そして紗一はその手紙を丸めてゴミ箱に捨てたのだった。
しかし、しばらく経った頃。
弟ハルがまさかの虎校空手部に突然「日本一の空手選手になりたい」と入部してくるという奇跡が起きるのだった。
父と自分と同じ瞳の色。母と同じ髪色。そして、鼻の傷。この突飛な行動。
一目見てすぐに誰だかわかった。
まさか虎校のバスケ部にいるとは聞いていなかった。
嘉乃は、ハルに会うつもりはない紗一に気を遣って、それを言っていなかったのだ。
どこの高校に行くのか聞いたときに変なはぐらかし方をされたのはそういう事だったのかと合点がいった。
ハルは、紗一が兄であり、今もこうして生きている事は知らないはずだった。紗一自ら自分の存在は教えないでくれと、そう嘉乃に頼んでいた。
しかしどうやら嘉乃はわざとか敢えてか、兄が生きていて、空手をやっていた事を、口を滑らせたらしい。
もしハルが自分の存在を知り、会いたがったとしても、あの義父母の元にいる限り兄として出来る事は無い。
ハルには自分と別の場所で、何も知らずに幸せに人生を歩んでほしかった。
今となってはそれにプラスで、知り合ったとて、自分はこれから先何年生きれるかわからないのだ。
下手にハルに兄だと認識されたせいで、自分に兄としての未練が残り、たった一人の家族を残して死ぬのが怖くなるのが嫌だった。
それから紗一は、より一層他人を装い、自分がいた空手部の団体戦の大将ポジションも譲り渡し、残りの人生は弟の成長を見守ろうと決めていたという。
しかしそう思っていた矢先の事。
外で酷い発作を起こして倒れ、病院に担ぎ込まれる事となる。
その際に、駆けつけた若林と蒼芭、源次朗と嘉乃たちに家庭の事や病気の事を一緒に何とかしよう、ハルにも真実を伝えようと説得される。
保護者代理として、空手部の顧問である蒼芭が、医師から紗一の病気の現状を全てを聞いたのだ。
しかし紗一は決して首を縦には振らなかった。
そう簡単に物事が進むなら最初からそうしていたし、ハルが自分の存在を知った所ですぐに自分も死んでしまうならもう何も言わずに自分の存在全て無かった事にしたいと彼は言う。
しかし、その話を聞いているもう一人の人物がいた。
紗一をその日、病院に担ぎ込んだのが他でもない弟のハルだったのだ。
→【EPISODE8-ハル-】