住野よる『青くて痛くて脆い』読書感想文。「ばけもの」ではなく「人間」を描いた傑作か。ネタバレあります。
「傷つきながら、傷つけながら、青春が終わる」
終わってみれば、秀逸なキャッチコピーでしたね。住野よるさんの5作目となる小説『青くて痛くて脆い』を読みました。
住野よる先生ご自身も「今までを塗り替える最高傑作」と仰る新境地の作品です。
人に不用意に近づきすぎないことを信条にしていた大学1年の春、僕は秋好寿乃に出会った。 空気の読めない発言を連発し、周囲から浮いていて、けれど誰よりも純粋だった彼女。 秋好の理想と情熱に感化され、僕たちは二人で「モアイ」という秘密結社を結成した。 それから3年。 あのとき将来の夢を語り合った秋好はもういない。 僕の心には、彼女がついた嘘が棘のように刺さっていた。 「僕が、秋好が残した嘘を、本当に変える」 それは僕にとって、世間への叛逆を意味していた――。
個人的に大好きな作品である『よるのばけもの』とはちょっと違ったテイストで、正直中盤までは退屈だったのですが、そこはやっぱり住野よる先生。最後はなんとも言えない読後感を味わわせてくれました。
読みやすい文章と軽いタッチで「青春」を綴っていく作者の力量はさすが。リアルな会話と張られた伏線と物語をどうぞお楽しみに。
以下、ネタバレありの読書感想文です。
青くて痛くて脆いの読書感想文
『人間』
HPに、住野よる先生自身が「最高傑作と言っている」と書いてあった。
だから、「よるのばけもの」がお気に入りだった僕は、意気揚々とこの本を読み始めた。今思えば期待値を上げすぎた。
誤解を恐れず、はっきり言おう。読後の感想はこうだ。「大して面白くなかったな」。後半の怒涛は、昔読んだ『何者』を思い出した。仕方なく映画のリンクを貼っておくが、もちろんオススメは本の方だ。
読み始め「また人が死ぬ話か」と早速ミスリードにはめられて、ページを一気に読み進めた。読みやすさはさすが。会話もなんだかリアリティがあった。
中盤、宿敵がかつての仲間だったという伏線消化は、大した衝撃はなかった。文中での情報のちらつかせ方を見て、そもそもそういうところで読者に衝撃を与えたい物語ではないのだと思った。
後半、「青くて痛くて脆い」人びとの物語の終焉を見ながら、僕は考えていた。なんとなくのハッピーエンドにたしかにちょっぴり救われた。でも、「うーん、何が最高傑作なんだろう」。
読後の感想は前述の通り「大して面白くなかったな」だ。でも、確かな引っ掛かりが僕の中にはあった。
その引っ掛かりはなんだろう、と思って、僕は何の気なしに「青春」という言葉を辞書で引いてみた。
夢や希望に満ち活力のみなぎる若い時代を、人生の春にたとえたもの。
なるほど。これは主人公たちの「夢や希望に満ち活力のみなぎる若い時代」の終わりの物語なのだ。
つまり、「子どもから大人への転換点」の物語。それを踏まえて、もう一度、物語を追ってみる。
そうそう、確かに、この物語は、とってもチグハグだ。
死んだと思っている人が生きていたり、仲間だと思っていた相手が敵だったり、恋と思っていたものが恋じゃなかったり、正しいと思っていたものが全然正しくなかったり。
主人公は文中で「もう回想はいらない」とか言っておきながら、その後ちゃっかり回想しちゃうし、秋好は秋好で、大きな理想を掲げながら、なぜか就活支援をして、犯罪みたいなことにも手を染めちゃう。
友達の董介はいいとこで仲間を降りるし、ポンちゃんは「結局そうか」だし、川原さんは勝手に怒り出すし、もう散々だ。感想は一言。みんな自分勝手だなぁ。
でも、どこかで「それが人間だよな」とも思ってしまう。
そうか。
この物語は、そんな「人間」を描いた物語なのだ。
この物語に登場する登場人物たちは、単純なキャラクターづけが難しい。彼らは一言で「明るい」とか「暗い」とか、言い表しがしにくいのだ。わかりやすくない。裏や表や、その間のなんか中途半端なところがあって、不明瞭だ。
でも、それが僕ら「人間」だ。現実世界を見渡せば、同様に、誰一人わかりやすいキャラクターなんていない。
そして、物語はそんな彼らの特に不安定になる時期「青春」を描いている。そりゃもうグチャグチャだ。あっちへ行ったりこっちへ行ったり、思考や感情はぐるんぐるんで軸はブレブレ。
ただ、間違いないことは、多くの人はそんな青春を通り越して、いずれ大人になる。物語の終盤に、主人公がそうであったように。
傷つき、傷つけられ、そんな苦しい経験を通して、人は大人になっていくのだ。そうして、青春は終わる。
青さや痛さや脆さを抱える自分と向き合って、傷ついて傷つけて、青春は終わる。そして、それでいいのだ、とこの物語は教えてくれる。
ブレブレでも、あっちへ行ったりこっちへ行ったりでも、いいのだ。間違っても、間違っていない。矛盾してても、矛盾していない。だって僕ら人間だものって、そういうものだものって、教えてくれる。
「人間」とは、「青春」とは、とっても不安定で、とっても、愛おしいものだと。
それはまるで、この「物語」のようだ。
ルールや約束は、ふいに破られる。張られた伏線は、何なら途中でバレる。感情移入はしづらく、語られない中身も多く、読者は一瞬置いてけぼりになる。でも、とっても愛らしい。
それが実に「人間」らしいのだ。
この物語は、重々しい感じではなく、至ってPOPに「人間」を描いている。いや、「人間」自身だと言っても過言ではない。
「人間」のような「物語」。
うん、もしかしたら、とんでもない傑作なのかもしれない。
確固たる形はないけど、人のためになるようにってさ、
まるで「モアイ」みたいだね。
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