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リサイタルに向けてのメッセージ

2022.12.08 13:40


冷たい空気の中、紅葉した葉が散っていく空虚感が、どこか美しく感じる季節となりました。


早いものでもう12月となり、東京のリサイタルまで二週間となりました。


とても有難いことに、既に9割以上お席が埋まり残席僅かとなっております。



今回演奏するのは

フォーレ、シュトラウスのヴァイオリンとピアノのためのソナタ。

そして技巧曲、サン=サーンスの序奏とロンドカプリチオーソに、アーンのノクターンという小品を。

着々とフランスで準備を進めている最中で、

大好きな作品に囲まれたこのプログラムのことを常に考えられる状況にあるのが、幸せです。



フォーレ、サン=サーンス、アーンはフランス系の作曲家という括りになりますが、

シュトラウスはドイツ人で、ウィーンの香りも漂う作曲家です。

レパートリーを国でまとめたかった訳ではなく、あくまでも自分の感性と彼らの音楽の共通項に焦点を当てました。


テーマは“内なる自然との共鳴“と設定させていただいております。

内なる自然という、曖昧な表現を用いたのには、

そこから一人一人の想像や自身の解釈とも結びつけてほしかったからというのも、一部理由にあります。

ですが、私の意図した内なる自然というのは、一人一人の心に無意識に存在するものといったところでしょうか。

感性や色合いや感情といったものが形作る個性です。心の動きといった方がわかりやすかもしれません。


和声、フレーズ、旋律線、リズム…と様々な音楽要素で描かれた作曲家たちの内なる自然が、私の無意識の領域にこだまするような楽曲を集めました。

これらの作品の美しさの一つに変調が挙げられます。感情の動きと密接な関係にある調性の持つ空気感も味わいたいと思い、作品の調性の流れにも少しこだわって、爽やかで母性のような温かさが漂うイ長調から、イ短調、その後に冬の暖かみのようなものを感じる変ホ長調を二つ置きました。


今回、このプログラムを通じて、

私がここ数年パリで学び、葛藤や喜びなどと共に様々な経験を通してたどり着いた”今の姿”を見ていただきたいという想いもあります。

作曲家が残した楽譜という形跡を深めていく過程で、そこに正解を求めるのではなく、自分と作品と作曲家との“共鳴“を探していくこと。

室内楽やオーケストラという分野を通じで他者と共に真摯に音楽に向き合おうとする過程でみえる、自分らしさとその大切さ。


私自身、両親に勧められた訳でもなく、小さい頃から音楽を自分で好んでここまでやってきたのかを考えると、それは音楽が心にもたらす目に見えない何か、の存在のおかげです。

そして、自分の想いや表現をあらゆる過程で探求しながら、自己に向き合うことが不可避なのが、私たち音楽家の日常です。

私を導いてきた音楽のもつ“何か“と自己の関係を様々な芸術家が残した文章に言葉として見つけた時、

このテーマを日本の皆様に音で伝えたいと思いました。



文豪、プルーストは、

« 芸術家は誰もが忘れてしまった未知の祖国の市民である。 »

« 音楽家たちは誰しもが無意識の内に、祖国とのある調和を保っている。 » と記しています。


この祖国こそが、感性や蓋をしてしまった本心だったりで、音楽を耳にすることで触れられる領域だと思います。


作曲家、サン=サーンスは、


« あらゆる芸術の中で最も人間の心に深く浸透するのは音楽だ »。

« 人間の心にあるもののように、音楽には、ラインや色がある。音楽には動きがあるのが、神秘的である»。

と記しています。


音楽を聴くことで、その色彩や形と心の中のそれらが共鳴して心に動き、何か生きたものが駆け巡ると思います。


そして、思想家 ルソーの言葉によると、

« 内からの動きが旋律として外に出て、感受性が他者の共感を生む。この両者からの共生が音楽の本質である。 »と。


そう、奏者と聴衆から生まれる共感こそが、私が演奏していきたい意味です。





私はフランスで沢山室内楽の経験をさせていただき、その音楽の作り方がとりわけ好きなのですが、

今回フォーレとシュトラウスのソナタを入れたのも、室内楽的アプローチを楽しめる作品を演奏したかったからです。

ピアニストの存在がとても大きな作品であり、今回有難いことに林絵里先生と共演させていただきます。10代の頃よりお世話になっていて、いつも心強くサポートしてくださった絵里先生の素晴らしいピアノ、大好きなその真摯な音楽と共に数年ぶりに再び演奏できるのが、今から待ち遠しいです。




作曲家、演奏者、そして聴いていただくみなさんの内なる自然の響きを共有できるような時間が持てましたら幸いです。

会場で1人でも多くの方に聴いていただけるのを、心待ちにしております。








(こちら、開催に伴い秋に書かせていただいた文章です。)