EPISODE6 -源次朗-
【PROFILE】
・東 源次朗(あずま げんじろう)
・11月23日生まれ
・37-38歳
・186cm / 84kg / O型
【DATA】
・現虎校空手部キャプテン東遼太朗の父
本人も東の事を息子だと思っているし遼太朗本人も父親だと思っているが実際は少し複雑な関係である。
・心と若林の師匠
二人に空手を教えたのは紛れもなく彼。そしてその二人が自分の初めての弟子に当たる。しかし本人も世界で活躍する空手選手かと言うとそうではなく、あくまで指導者として空手を教えている。
普段は滅多に本気を出さないちゃらんぽらん適当怠惰おじさんだが、実際闘うと驚くほどに技が通らない上に、気付いたら一本を取られている。
・鷲連館道場の長
なので道場生には先生や師範と呼ばれる事が多い。心や若林には源さんと呼ばれている。
しかし収入は本業の建設業から得ている。空手の師範は職にはしていない。
着用している着物は鷲連館の前当主の形見だそうだ。
・この12年後に片腕を無くす事になる
しかし隻腕になろうとも、両足の蹴りだけではちゃめちゃに強い。
腕については本人は自分の不注意で、とヘラヘラしているが果たして……
【EPISODE6 -源次朗-】
本人は名字を東と名乗ってはいるが実際は「吾妻」の表記が正しいとされている。
なぜそうしているかというと、源次朗本人が実家である吾妻家とは決別しているからである。
彼の実家は“吾妻一家”という有名な暴力団組織の家元であり、人情のある極道というよりか、金のためなら女子供も平気で殺したりする血も涙もない組織らしく、耐え切れずに逃げて来て今に至る。
源次朗は吾妻一家の大頭である父の次男であった。
組織を抜けたのは13歳の頃だった。
死物狂いで逃げた先で彼は、“鷲連館”と言う孤児院に行き着いた。
そこで出会った老人は、家出した子供や源次朗のように何かから逃げて来た子供をボランティアで匿ってくれているという。
そして、何かあった時の護身術として子供たちに空手を教えてくれていたのである。
その老人は源次朗の身の上話を聞いても自分の身の危険を顧みず、「ここに居るといい」と言い、ずっと世話をしてくれたそうだ。
そうしている間に時は流れ、世間には鷲連館のようなボランティアの孤児院ではなくビジネスとして児童養護施設が大体的に普及し、鷲連館に子供が集まる事は無くなった。
丁度その頃、世話になった老人も安らかに息を引き取ったという。
自分を息子同然のように世話してくれた老人への感謝を忘れないために、源次朗はその場所を空手道場として残す事を決めた。
それが、心や若林を始め、蒼芭や東という有名な空手選手を輩出した鷲連館道場の成り立ちであった。
そして初弟子である心と若林が世界大会で活躍する選手になり、道場も安泰していたのだが、心とその嫁・有紗が不運な事故で亡くなってしまう事となる。
そしてその日より、生き残った心と有紗の息子二人とは一切の面会謝絶。
源次朗にとっては心も有紗も息子や娘のような存在であり、心と同じく鷲連館の道場生であるハルと紗一も孫のような存在であった。
しかし少しでも接触すると公務執行妨害になると警察から警告までされる始末。
そうこうしてる間に息子二人は源次朗と言葉を交わす事なく義父母の元へと送還が決まってしまっていた。あっという間の出来事だったという。
その後、心や有紗を殺した犯人が国の権力者である事を知り、その真相を暴こうとすると警察や暴力団絡みでことごとくそれを阻止される事となる。
そして、若林の決死の聞き込みの甲斐もあって、その件で犯人や警察と手を組んでいる暴力団こそが、源次朗が決別した吾妻一家だという事も判明した。
源次朗としても関わりたくない事この上ない相手である。
しかしこの一年後の事だった。
吾妻一家の長男、つまり源次朗の兄から急に連絡が入ったという。
しかし電話を取ってもほぼ無言。
落ち合う日時と場所だけ告げられ、通話は途切れたそうだ。
もしかして兄は自分に何かを伝えようとしているのじゃないか。そう思った。
もちろん騙されている可能性だってある。しかし源次朗はどうも兄が嘘を吐いてるようには思えず、数日後に死を覚悟でその場所に向かう事となる。
しかし、そこに兄の姿はなく、吾妻一家の幹部が数名いただけだった。
騙された、そう思ったがその幹部によると、昨晩に兄は今日の事がバレて自害したとの事だった。
兄が自分に何を言おうとしていたのか教えてくれと聞くが、幹部たちは軽快に笑うだけだったという。
そしてその時、“この子供を撃ち殺せたら教えてやる”と言われ源次朗は拳銃を握らされた。
そこに連れて来られた7歳の男の子。
彼こそが東 遼太朗であった。
遼太朗は吾妻家の長男である兄が、抗争中の暴力団員の女性との間に作った子であったという。
兄はその事の他にも、色々と怪しい行動が目立っていたらしい。そして今回源次朗と手を組もうとしていた件が発覚し、ついに自害に追い込まれたという。
そして、せめてもの慈悲で息子の遼太朗も一緒に殺して海に沈めろと、それが父からの命令だったそうだ。
もちろん源次朗はその子供を撃ち殺すなんて出来るはずもない。
しかし今から殺されるであろうその子を見殺しにする事も出来なかった。
「せめてその子だけは助けてやってくれ」という願いは、一家から逃亡した“落とし前”として自分の片腕を切り落とす事で成立したそうだ。
覚悟を決めて差し出した右腕は、幹部の男が持っていた長ドスにより一発で落とされた。
気をよくした幹部たちは笑いながらこちらに遼太朗を放り投げ、「あまり目立つ行動はするなよ」と釘を刺し去って行った。
出血と痛みで意識は朦朧としていた。
大切な片腕と引き換えに得た、全く無関係だったはずの自分の兄の子。
それを残った片方の手で引きながら帰ったという。
その後、連絡を受けた若林が何とか手配をし、片腕以外は無事に済んだ。
しかし、何のために自分は片腕を失ったのか、自分の不甲斐なさにその後数日は放心状態だったそうだ。
その間も遼太朗はずっと何も言わずに源次朗の側を離れなかった。どこに行くにも後ろを着いて来たという。
表情の乏しい男児ではあったが、こうなると不思議と愛着も湧いてくるものだと源次朗は思った。
せめて、昔自分がそうしてもらったように。
源次朗は遼太朗を自分の息子として側に置き育てる事を決めたのだった。
正直言うと兄がどんな人間だったか記憶はあまり無いらしい。
ただ、いつも虚ろな目をしている猫背の男だった事は……何となく覚えている。
そこは遼太朗とそっくりだった。
しかし後日、その遼太朗がずっと首に巻いていたマフラーの内側には、心たちを殺した犯人を追い込む重要な情報が隠されていた事が判明する。
ある日、源次朗は遼太朗におもむろにマフラーを渡された。
不思議に思いマフラーを見ると、中に何かが入っている事に気付いた。
それは、心と有紗を殺した犯人の署名が入った、吾妻一家との提携を結ぶ際の契約書だった。
それと、心の息子であるハルの安否、つまり嘉乃の居場所のメモだった。
遼太朗は自分の命を守るためにそれを自ら盗んだのか、大切にされていた物だったから興味本位で持って来てしまったのか。
もしくは、自害した兄から託されたのか。
詳細は話してくれなかったが、源次朗は間違いなく兄からのバトンだろうと思った。
嘉乃の居場所のメモには、他の女性の名前も何件か書いてあった。
しかし全てに斜線が引かれ、嘉乃の名前にだけ丸が付けられ、「信頼できると思う」と雑な字で書かれていたという。
おそらく、その嘉乃と言う女性にハルを託してくれたのが、兄だったのだろう。
その後、源次朗は嘉乃と会い、若林と共に、心と有紗の潔白を晴らすために結託する事となる。
事情が事情なだけあり危険だったので、この件は大人たちだけで進めていった。
ハルと紗一と対面できたのは、これから11年後の事である。
→【EPISODE7-紗一-】