EPISODE5 -嘉乃-
【PROFILE】
・天王寺 嘉乃(てんのうじ よしの)
・9月9日生まれ
・28-29歳
・164cm / 52kg / A型
【DATA】
・心の母校であり若林や有紗たちが通う高校の食堂で働く元気な女性
規定サイズよりはるかにデカいおにぎりを握る事で有名。デカ過ぎて彼女の握るおにぎりは学生たちの間でヨッシーのたまごと呼ばれている。
・元はプロのF1レーサー
ハンドルを握るとめっちゃオラつく。自覚はあるので大体いつもママチャリで移動しているそうだ。
・23歳で結婚したが25歳で離婚、27歳で結婚詐欺に遭う
最初の旦那は不倫借金ギャンブルの酒クズDV男で、その次の相手にはF1で稼いだ賞金の大半をボラれたらしい。
元々両親を早く安心させたいだけだったので、慣れない事はするもんじゃないともう旦那も子供もいらないし結婚なんかしないと固く決めている。
【EPISODE5 -嘉乃-】
レーサーを引退して、平凡な高校で食堂のおば……おねえさん、として働いていた頃。
彼女の握る大きなおにぎりを一度の食事で5個も食べる大食いな男子生徒が二人おり、よく記憶に残っているという。
そして普通は黙ってこっそり友達同士で半分こしたりする中、おにぎりを半分こにしていいかと律儀に聞いてきた可愛らしい双子の女生徒がいた事もよく覚えていた。
それが嘉乃に残る、心・若林・有紗・麻莉香の最初の記憶だった。
心とは実は遠い親戚だったという。
親戚一同の集まりで、嘉乃の働く高校には空手で有名な子がいると聞いてはいた。
とは言っても、父の兄の嫁の何かのどこかの親族∞だとかで、心とはほぼ他人である。
食堂で挨拶を交わし、たまに雑談をするくらいの関係だった。
その心に想いを寄せる有紗はよく嘉乃に懐いていたという。
というより愛想がよく可愛かったので、何気なく話しかけるうちに仲良くなり、よく食堂に訪れては心の話を聞かせてくれたそうだ。
気付けばその食堂には有紗と麻莉香、若林がよく居座っていた。
先に卒業してしまった心も、たまに遊びに来ていたらしい。
しかしこの11年後、嘉乃は心と有紗が交通事故で亡くなった事を知らされる。
自身も40歳となり、食堂のおばさんが板について来た頃だった。
家に訪ねてきた見知らぬ男は養護施設の職員だと言う。
それが本当かどうかはわからない。多分嘘だろう。猫背の不気味な男だった。
そしてその男に、心と有紗の息子を引き取ってくれないかと持ちかけられた。
その息子は事故で記憶喪失になってしまったのだと言う。もちろんそんなに簡単には受け入れる事も出来ないし、頭も追いつかない。
本来なら彼らの家族がどうにかすべき問題ではないのかと疑問が過ぎった。
渋る嘉乃にその男は大金を提示し、この話を断ったら待つのは地獄、受け入れれば平穏だと告げた。
その日その場は何とかはぐらかし男を追い返した。最後にこの事を他に告げ口しようが助けを求めようが無駄だと忠告もされたが、そんなのは無視してすぐに警察へ相談もした。
しかし警察がその件について動いてくれる事はなく、日を追うごとに要求を飲むことへの圧は強くなったという。
そしてある日、その男が嘉乃の元を訪れた時、足元には一人の小さな男の子が連れられていた。
心にそっくりな赤い瞳と、有紗にそっくりなキャラメル色の髪をした男の子だった。
名を尋ねると「ハル!」と元気に応えてくれた。
そして差し出された書類。それにサインをすれば、きっと嘉乃はその子を黙って育てるだけで毎月安定した金が得られる。
断れば自分がどうなるかも何となく予想はついていた。そんな大金どこから出てくるのかと。これはどうせろくな組織が絡んでないと。
嘉乃は意を決して書類に署名し、印鑑を押した。
そして、そのハルと名乗る男の子には「私は君のお母さんじゃないけど、今日からよろしくね」と、そう言った。
男は虚ろな目で書類を一瞥すると、あとはこちらで進めるから何もしなくていいと言う。
普通はそんなに簡単に子の受け渡しが成立するはずはない。どう考えてもこの事態は普通ではないのだ。雑にもほどがある。
そもそも、心の運転ミスで車が暴走した自業自得の事故などと。
本当にそうならなぜ自分が大金を受け取らされ彼の息子を押しつけられるのか。
男が帰った数分後、嘉乃はハルを連れて簡易な荷物と通帳だけを持ってアパートを出た。
しかしその通帳に契約した大金が入る事はこの先、一切無い。
嘉乃は咄嗟に、嘘の振込先を書き、元旦那籍の自分の名前と、その印鑑を押していた。
金を受け取ってしまえば彼らと同罪で、なおかつ口を封じられる。受け取らなければ何かに勘付いてる自分の身の保証はなく、ハルはきっと他の誰かの元へ行く事になる。そう思った故の行動だったそうだ。
しかし、書類が有効でない事に気付かれるのも時間の問題だった上に、とにかく落ち着いて考える時間が必要だったので身を晦ます事を優先した。
何日かかけて、遠い地まで来た。そこで何とか住める部屋を探し、とりあえずの拠点とした。
しかしちゃんとした手続きもせずハルを連れて来てしまったので誘拐扱いになるかもしれなかった。
どうやってハルを自分の正式な家族にしたらいいのか考えていた頃、嘉乃が行き着いた先に、役所からハルの親権が自分の元に正式に移ったとの連絡が入った。
一体誰が。まさかあの職員を名乗る男が本当に手を回してくれたのだろうか。それなら自分を追って来ても良さそうなものだが……
そう思っていたがその後誰かが嘉乃とハルを追って来るような事はなかった。
最初こそただの正義感でここまで来た訳だが、ハルは全く人見知りもせずすぐに嘉乃に懐き、よく笑う純粋な子だった。
その様子を見た嘉乃はこの子は両親にちゃんと愛されていたんだろうと確信し、自分の作ったご飯をおいしそうに食べる姿に昔食堂に集まっていた愛しい顔たちを思い出した。
そして、やはりこの事件の真相を追う事を決意するのだった。
その半年後、心が通っていた鷲連館という道場の長である源次朗から連絡が来る事になる。
そうして繋がった源次朗に今回の事件の成り行きを話すと、彼も心の息子二人には会う事が一切許されなかった事や、ハルの兄を引き取ったらしい麻莉香とは音信不通にある事を聞く。
どうやら心は自ら事故を起こし死んだ訳じゃないらしい。
そして心を失い誰よりも心を傷めているであろう、若林とも再会する事になった。
紗一というハルの兄は、ハルを随分心配しているとの事を聞いた。
それ以降紗一とは、バレないように連絡を取り合いハルの今の状況を話したりする仲となる。
そして心と有紗を殺した犯人は国の権力者である事も解り、絡んでいる組織も相当厄介だと知り、嘉乃は頭を抱えた。
しかし源次朗は、その犯人を追い詰める重要な情報を入手していたのだ。
その僅かな勝機に懸けて、嘉乃は源次朗や若林と共にこの事件に立ち向かう事となる。
せめて、ハルが大きくなった時に、胸を張って自分こそが心と有紗の息子だと言えるように。
願うのは、それだけだった。
→【EPISODE5 -源次朗-】